第5話 約束の日曜日

日曜日。私は部活を終え、一旦着替えに家に帰って来た。昼食は須川と一緒に食べることになっている。

 サッと着替えて彼に連絡した。

『これから駅に向かうね』

 しばらくして彼から返信が来た。

『了解』




 駅に着くと彼は既に待っていた。

 細身のジーンズにニットを着ている。秋らしい格好だ。

「ごめんね。待った?」

「いや、今来た所」

「そっか、先にお昼食べに行こう。お腹空いちゃった」

「そうだな。何か食いたいなとかあるか?」

「うーん」

 部活で沢山汗をかいたので、ここはガッツリとしたものが食べたい。

「ガッツリ系が食べたいかな!」

「ガッツリ系か」

 須川は考え始める。

「ハンバーグとか?」

 そう言って彼はチラッと私の方に目をやる。

「あ、いいね! 私、ハンバーグが食べたい!」

「じゃあハンバーグにしようか。この辺にうまい洋食屋があんだよ」

 そう言って彼は歩き出す。私はそれについて行った。



「着いたぜ」

 そう言って須川は立ち止まった。昔ながらの洋食屋だ。料理のサンプルがショーウィンドーに並んでいる。

「見た目はボロっちいけど味は美味いから」

 そう言って店内に入った。

「いらっしゃいませ」

 中年の女性が二人を迎えた。キッチンには夫とみられる人が料理を作っている。恐らく夫婦で営んでいるのであろう。

 お昼時なので客も多く、二人が席に座ると満席になった。

「凄い、結構お客さんが多いんだね」

「うん。常連の客が多いな。俺もたまに来るんだよね」

「へぇ、そうなんだ。私どれにしようかな……須川君おすすめとかある?」

「おすすめか? そうだな……。まあ昼だからランチセットかな。結構ボリュームもあるんだよな。ちなみにハンバーグも選べるよ」

「あ、本当だ。うーんどれにしようかな」

「おすすめはこれかな」

 そう言って彼はメニューに指を差す。

「この中でだったら一番シンプルなんだんだけど、一番これが美味いんだよな」

 須川はうんうんと頷いている。たまに、可愛い一面を見せる時がある。いつもこうだったらいいのに。

「じゃあ、私それにしよ! 須川君は決まってるの?」

「うん。ランチセットのこれかな」

 彼はキノコを使ったハンバーグを選んだ。

 二人はオーダーして料理が出てくるのを待つ。

「今日は久々にキノコのハンバーグ食べるよ。いつもは坂本が頼んだやつを食べるんだよね」

「へぇ、楽しみ」

 私はふと辺りを見渡す。昭和な造りで壁には色あせたポスターが貼ってある。今の高校生はきっとこういうところには来ないだろう。隠れた名店だ。

「そういえば須川君はよくカラオケとか行くの?」

「うーん。そうだな。結構行くかも」

「へぇ。友達と?」

「うん。後は一人でもよく行ったりする。歌うの好きなんだよ」

「そうなんだ! なんかちょっと意外」

「そうか? 坂本はカラオケに行ったりするの?」

「うーん、たまに友達とかと行くかなあ。一人ではないんだよね」

「ふーん。そうなんか」

 それからしばらくして料理が運ばれてきた。須川の言うとおりボリューム満点だ。私は早速口に入れる。

「あ、美味しい!」

「だろ」

 彼も嬉しそうだ。



 お腹が空いていたのもあってか、あっという間に食べ終わってしまった。

「はぁ、美味かったな」

 須川も満足そうだ。

「美味しかった。また来たいね」

「そうだな。また来ようぜ」

 お会計を済ませて外へ出る。

「じゃあ、カラオケに行く?」

「行こうか! けどクラスの人に会いたくないからちょっと離れたところにしない?」

「いいよ。早く行こうぜ」


 

 電車に少し揺られてカラオケに着き早速入る。初めて来る人の前で歌うのは緊張する。なので最初に歌うのは出来るだけ避けたい。

「須川君、最初歌っていいよ」

「いいのか? じゃあ……」

 そう言って彼は端末をいじり始める。どういう歌声なのか楽しみだ。選んだのはロック調の曲だ。

 彼が歌い始め私は驚いた。かなり歌が上手うまい。地声が低いのもあるからか低音がかなり心地良く聞こえる。先に彼に歌わせた事を後悔する。

「ふぅ。やっぱ最初だから声が出ねえな」

 え、今ので声が出てなかったの? 思わず言いかけそうになる。 

「須川君、歌凄い上手だね」

「そんな事ないよ」

 モニターに点数が表示される。

「え、九十点!?」

「まあまあだな」

 点数を見て益々歌うのが億劫おっくうになっていた。

「なんか凄いハードルが上がった気がする」

「何でだよ。俺しかいないし平気だよ」

「歌っても笑わないでね」

「笑わないよ」

 彼女は自分の十八番おはこを選んだ。

 緊張する中、精一杯歌った。途中ふと彼の方を見ると真剣にモニターを見ていた。

 歌われている間は暇になるので携帯をいじる人が大半だ。その中でジッとモニターを見ている彼に少し好感度が上がった。

 やっとの思いで歌い終わった。

「なんだよ。普通に上手いじゃん」

「そんな事ない」

 点数が表示される。結果は七十八点だった。

「やっぱり低い……」

「そんな事ないって。点数なんて音程が合っているかどうかだけだろ? 採点消そうか?」

「ううん。大丈夫」

「そっか。そんな緊張する事ないって。楽しもうぜ」

 彼は微笑んでそう言った。

「うん。ありがとう。須川君は緊張しないの?」

「うーん。そこまでしないかな。だって坂本だけしかいないし」

「そうだよね。なんだか私も話してたら少しほぐれてきたかも」

 その後もたくさん歌った。須川はロックアーティストを中心の曲を歌い、私は流行りの曲、オールランダーな感じだ。時間はあっと言う間に過ぎ、フロントから電話が来た。

「もうそろそろ出るか」

「うん! そうだね」

 外へ出る頃にはもう日が暮れていた。

「あぁ、歌ったな。満足満足」

 須川はご満悦そうだ。

「そうだね。私、喉もう駄目」

 自分で声が枯れているのが分かる。はははと彼は笑った。

「もう遅いし帰るか?」

「そうだね。そうしようか」

「はいよ」

 二人は帰路につく。今回は前回に比べてあまり話題に困る事はなかったと一人で安心する。



 電車に乗り、しばらく歩いて私の家に着いた。

「今日はありがとう! また送ってもらっちゃってごめんね」

「気にするな。じゃあ、またな」

「うん。気を付けて帰ってね」

 彼はスッと手を上げて帰って行った。家に入り風呂に入った。



 その夜、一通り済ませてベッドに入り須川にチャットを送った。

『今日はありがとう! また行こうね』

『こちらこそありがどう』

『カラオケでも言ったけど須川君、凄く歌が上手だからビックリしちゃった』

『いやいや。坂本も上手かったよ』

『ありがとう』

『ねぇ、坂本は次どっか行きたいとかあるか?』

『うーん……。どこでもいいよ! 須川君の行きたいところで』

『どこでもか。考えておくわ。じゃあ今日はもう寝るわ』

『うん。おやすみ!』

『おやすみ』

 チャットが一段落尽き、部屋の電気を消す。前回のデートとは違い今回は会話が弾んだ気がする。私は充実感に浸りながら眠りについた。

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