第3話 初デート

デート当日、待ち合わせの十時より少し前に駅に着くように向かった。

 初デートという事もあり、普段はあんまり履かないスカートを履いたりと女の子らしい格好にしてみた。

 少し早く着きすぎたかな――そう思っていたが駅には既に彼がいた。

 黒のスキニーにジージャンを羽織っていて髪の毛もきっちりセットしてある。

 私はかなり驚いた。正直、彼は洋服なんかには無頓着だと思っていたから。と同時に意外とお洒落な事に感心した。

 彼も私に気付き軽く手を上げる。

「あ、須川君! ごめんね待った?」

「いや、今来たところ」

「そっか。少し早いけど行こうか」

「ああ」

 前の日にチャットで映画でも見に行こうという事になり早速向かった。




 電車とバスを乗り継ぎ映画館にたどり着いた。

「始まるまで結構時間あるな」

「確かに……」

 目当ての映画はついさっき始まってしまったみたいだ。次の上映は約二時間後らしい。

「じゃあ、お店の見て回ろうぜ」

「うん! そうだね」

 須川と私はすぐ近くのショッピングモールを見て回ることにした。

「須川君は今欲しい服とかあるの?」

「うーん。今のところはないかな。この前、服とか買ったばっかだし」

「へぇ、そうなんだ」

「うん」

 そこでもう一声が欲しい! なんか頂戴! 心の中で叫ぶ。なんで私ばっかり気を使わなくちゃいけないのよ――私は一人歯がゆい気持ちになる。

「須川君は今欲しい物とかある?」

「ない」

 またしても私の心の中は荒れ狂う。

「坂本はなんか欲しいのあるのか?」

「私?」

 須川にそう言われて考えて見るも、彼と同様これといった物は思いつかなかった。

「私もないかなぁ」

「そうか」

 もう何やてるのよ私! これでは須川と一緒ではないか。男の人とほぼ遊んだことがないので、気の利いた言葉も言えず二人の間に沈黙が訪れる。

「そろそろ昼か。お腹空いてる?」

 彼は私に問いかけた。

「少し空いたかな」

「じゃあ、飯にしようぜ」

「そうだね。そうしよう」

 昼食も特にこれ言った話もなく互いに黙々と食べていた。

 本当にこの先、やっていけるのかな。私は一人不安になった。

 昼食を食べて気まずい中、少し休憩していたら上映時間が迫ってきた。

「お、時間だな。そろそろ行くか」

「うん! 行こうか」

 劇場に入りすぐに始まった。

 内容は今流行りの俳優と女優が出ている学園系の映画だ。

 上映中チラッと彼の顔を覗いたのだが、いつもの無愛想加減は健在だった。

 もしかしてつまんないかな? 見入ってるように見えないし。映画のチョイスを間違えたかなと不安に陥る。

 良いテンポで物語も進み、あっという間に時間が過ぎて映画も終わってしまった。

「あー面白かった! 須川君どうだった?」

「あぁ、まあ面白かったよ」

 この反応はどう見てもつまらなかった反応だ。

「もしかしてあんまり面白くなかったかな?」

「いや……こういう映画は見るの初めてでさ俺。ましてや彼女とだし……あんまり頭に入ってこなかった……」

 どうやら緊張していて、あまり頭に入って来なかったようだ。須川が照れながらそう言った。

 へぇ。そういう顔もするんだなと感心する。

 目的であった映画も終わってしまってこの後の予定は全く立てていなかった。

「なあ、この後どうする?」

「うーん……。ちょっとどこかで休まない?」

「じゃ、そこのカフェでも入るか」

 私と須川はチェーン店のカフェに入った。

 高校生、大学生に人気のカフェで店内に知ってる人がいないか少しヒヤヒヤしたがザッと見たところいなさそうで安心した。

 先に座って私はキャラメル系の甘いやつを、須川はブラックコーヒーを注文した。

「須川君、ブラック飲めるんだ! すごい!」

「そ、そうか?普通だと思うけど……」

 ブラックで褒められてるとは思ってなかったのだろう。戸惑った様子だ。

「私、コーヒーは砂糖とミルクとか入れても苦手……フラペチーノとかは甘いから大好きだけど」

「俺は逆にそういうのは苦手だな。甘ったるくて。女子ってそういうもんが好きなのか?」

「うーん。人によるだろうけど私の周りはコーヒーは苦手だけど甘いやつは好きって人は多いよ」

「へえ」

 また二人に沈黙が訪れる。私は必死に次の話題を探していた。

「須川くんって音楽とか聞くの?」

 とりあえず適当な所を聞いてみる。

「聞くよ」

「そうなんだ! 何が好きとかあるの?」

「多分知らないと思うけど」

「なになに?」

「レインボーっていうバンドなんだけど」

 レインボー。聞いたことある。親世代の時に凄い大流行していたらしい。周りではお洒落な人達が聞いてるイメージだ。

「あー、知ってるよ。名前だけな――」

「ほんとか!?」

 須川が前のめりになって聞いてきた。

 目が輝いてて今日。いや、今までで一番の笑顔だ。

「う、うん。名前だけしか知らないんだけどね」

「あぁそっか。いや、それでも充分充分。俺等の世代になると名前すら知らないって奴が多いしな。坂本が知っててよかったよホントに」

 寡黙だった彼が一転して饒舌じょうぜつになった。さっきまでの顔とは考えられないくらい笑顔になっている。

 今、私の目の前にいるのは須川の姿をした別人なのではないか。そう錯覚させられる程に彼は変わっていた。

 驚きのあまり顔が引きつっていたのであろう。私が唖然としているのを見て須川は慌てて元の姿勢に戻った

「ご、ごめん。つい熱くなっちまって……。引いたよな。気をつけるわ」

 彼はそう言っていつもの彼に戻ってしまった。

「う、ううん。引いてないよ! 少しビックリしただけ。須川君のそういう所、見たことなかったからさ」

 私だけじゃなくて、クラスの人全員が絶対ビックリする。そう確信した。

「あぁ、よく無愛想って言われるんだよね」

 あ、言われてたんだ。

「けど俺、無愛想なのかな? 違うと思うんだけど」

 自覚はしてないのか。

「うーん。無愛想というか、その……あんまり笑ったり顔に出したりしないよね」

「それを無愛想というんだろ」

「う、うん。ごめん」

「あ、いや……そんなんじゃ」

 またお互いに気まずくなってしまった。

 しばらく無言で周りの雑音がよく耳に入る。二人の間には冷めたコーヒーと生クリームだけが残ったフラペチーノが取り残されていた。

「今日はそろそろ帰るか」

 先に口を開いたのは須川だ。

「うん。夕飯は食べないの?」

「今日は辞めとこう。夕飯は次回にしようぜ」

「分かった」

 次もデートがあるのか。付き合ってるのだから当たり前なのだが、また憂鬱な気持ちと不安でいっぱいになる。

 二人は帰宅する事にした。




 カフェの事もあるのか会話が弾むことはなく最寄りの駅に着いた。

「家まで送ってくよ」

「いや、大丈夫だよ! 須川君、帰るの遅くなっちゃうし」

「だけど、坂本一人じゃ危ないだろ。俺の家もそっちの方だしさ」

「そ、そう? じゃあ、お言葉に甘えて……」

 お互い無言のまま帰路に着く。

「ねぇ、須川君。さっきはごめんね」 

 気まずい雰囲気の中、重い口を開いた。

「何が?」

「さっきはあんな事言って」

 もう少し言葉を選んだ方が良かったのではと反省する。

「いや、俺の方こそごめん。そもそも坂本にあんな事言ったのがバカだった」

「ううん。謝らないで」

 カフェの時の須川の表情、話をしていて少し彼に近づけたのが坂本にとって驚いたが少し嬉しかった。彼の新たな一面が見れたから。

「じゃあ、もうこの話はやめにしよう」

 須川が言った。

「そういえばさ、学校とかはお互い知らないフリの方がいいか? 周りにバレると嫌だろ?」

「え?」

 学校の噂の拡散力は凄い。もちろん悪い意味でだ。次の日にはクラス全員が知ってるくらいの勢いの凄さだ。特に恋愛に関しては、みんなアンテナを張り巡らせている事だろう。須川に彼女が出来たとなるとそれはもう一大ニュースに違いない。下手すると他のクラスにまで広がりそうな気がする。そうなると居心地は悪くなるし、須川にも申し訳ない。そう判断した。

「そうだね。あまり知られたく無いかも」

「了解」

 そうこうしている内に坂本の家に着いた。

「あ、着いちゃった」

「だな」

 駅から家までそこそこの距離があるのにあっという間に着いてしまった気がした。

「今日はありがとう! 凄い楽しかった!」

「俺も楽しかったよ」

「家まで送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね」

「おう。また明日な」

「うん。またね」

 そういうと彼は暗闇に向かって帰り始めた。

 彼には悪いが正直、好きでもない相手とデートなんて苦痛だった。

 須川君は私の事好きでだけど。私は好きでも何でもない、むしろ嫌いな相手に罰ゲームで告白した身でそう思う自分に対して罪悪感が湧いてきた。

 色々考えている内に夕飯も終え、お風呂に入り部屋に戻って携帯を見たら須川からチャットが来ていた。

『今日は楽しかったです。ありがとう』

『こちらこそ! 今日はありがとう! とっても楽しかったよ! また行こうね!』

 おう。と軽い返事が来て初デートの一日が終わった。

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