罰ゲーム

椿檸檬

第1話 罰ゲーム

「はい! 紗綾がビリ! じゃあ、約束通り罰ゲームね!」

 高校二年生の私、坂本紗綾さかもとさやは友人の松田愛美まつだまなみにある罰ゲームの指令を受けようとしていた。

「えぇ、本当にやるの? マジで嫌なんだけど」

「だってそう言う罰ゲームじゃん。勝てば良かったのよ、勝てば」

 同じく友人の関口早希せきぐちさき小林彩夏こばやしあやか、そして私の三人で松田の家に遊びに来ていた。





 その日は職員会議で部活も自主練になった為、早く切り上げて松田の家に遊びに向かった。

 部屋へ入ると関口と小林は既に来ており、各々携帯をいじってくつろいでいるところだった。

「ごめんね。お待たせ」

「ううん。お疲れ様」

 三人とも、よいしょと体を起こす。

「皆そろったし何する?」

 関口が皆に問いかける。

「うーん、たまにはトランプでもする? この前、従姉妹とトランプして丁度部屋にあるんだよね」

 そう松田が提案してきた。

 トランプなんて久しくしていない。久々にやりたいということもあり快く受けた。関口と小林も同じみたいだ。

「ただ普通にやるのは面白くないからさ、なんか賭けようよ」

 松田が不敵な笑みを浮かべ言った。

「あぁ。いいよ。何賭けるの? ジュース?」

 関口が言った。

「いやぁ、それはベタじゃない? 何かこうもっと熱くなれるようなやつがいいかな」

 熱くなれるやつか――私達四人は考え始める。

 皆がうな垂れる中、最初に口を開いたのは松田だった。

「……誰か男子にコクるのはどう?」

「え。それは本当に嫌だ」

 その案は私も頭をよぎったが、さすがに気が引けるため口は出さなかったのに。私は少しムッとした。

「そうよ。もっと違うのがあるでしょ」

 どうやら他の二人もやりたくない様子だ。

「何でよ。勝てばいい話でしょ。私も負けたらそれやるんだから。それとも皆、自信ないの?」



 

 結局、松田の挑発に乗せられて勝負した結果、私が負けたというわけである。

「じゃ、紗綾の負けね。誰にコクるか決めようか」

 松田はノリノリだ。

「うーん。リア充達に言うのもいいけど、私達にまでとばっちりが来そうだよね」

「オタクとかそっち方面は?」

「あぁ……それもありだけど他の人達が勘違いして私達にアタックしてくるのもちょっとね……」

 自分達は罰ゲームを逃れたからなのか、完全に面白がっている。悔しさと怒りが湧いてきたが負けてしまった以上、私からは何も言えない。

「あ! あの人は? 須川」

「おおー。中々いいところ突いたわね」

 須川聡すがわさとし、同じクラスにいる男子だ。静かでいつも険しい顔をしていて体格も良いので周りから怖がられている。挙げ句の果てに女子の嫌いな男子ランキングにいつもランクインしている人物だ。

 ――そんな奴にコクるなんて無理。嫌だ。絶対に。これは何としても避けねば。

 こんなに冷や汗をかいたのは久々だ。

「え、絶対やだ! ホントの本当に嫌だ!」

「紗綾には拒否権はありません」

「じゃ、須川に告白という事で!」

 私の言葉はなかったことに三人の間で勝手に話しが進んでしまっている。

 そんなバカな。本当にアイツに告白するの? 私の初彼氏があいつ? そう色々考えているとだんだん気分が悪くなってきた。気持ちも沈んでしまってもう遊ぶ気にもなれない。

「ゴメン。私、先に帰るわ」

「え、なんでよ?」

 松田が呑気な顔で聞いてくる。

「用事思い出した」

 適当に理由をつけて私は荷物をまとめた。

「あ、ちょっと待って紗――」

 松田が言いかけていたがそんな事は気にせずそそくさと帰宅した。

 こんな事になるなら遊びに行かなくちゃ良かった。イラつきもあり乱暴気味にバッグを放り投げ、ベッドへ飛び込む。何も考えたくないので頭を留守にする。


 少し経って落ち着いてきたので課題をしようと無造作に置かれたバッグを手に取る。

「課題忘れた……」

 どうやら学校へ忘れてしまったらしい。部活で学校に行って帰宅して、また学校へ行くのは非常に面倒だ。

「はぁ。取りに行くかぁ。ついてないな今日」

 私はボヤきながら学校に向かった。

 

 



 学校に着き教室へ入る。案の定、机の中に課題のプリントが入っていた。

 早く帰ろう。早歩きで昇降口に向かってる途中、生徒指導室の方から声がした。

「気を付けて帰れよ」

「はい、失礼します」

 そう言って出てきたのは須川だった。よりによって今一番会いたくない人物と出くわしてしまった。

 もういっその事、今ここで告白をしようか。それとも日を改めた方がいいのか。私は迷った末、彼に声を掛けた。

「あ、あのう……」

 恐る恐る声をかけると、彼は止まって振り向いた。

「俺? 何?」

 呼び止められるとは思っていなかったのだろう。少しビックリしてるようだ。

「ちょ、ちょっと教室まで来てもらえない?」

「いいけど……」

 彼は怪訝けげんな顔をしながらに私の後をついてきた。

 教室に入ると先に口を開いたのは須川だった。

「で、話って何?」

 須川はぶっきらぼうに言った。少しムッとしたが堪えて言った。

「あの、前から須川君の事が好きでした。付き合って下さい!」

 そう言って私はお辞儀をした。

 今時、お辞儀して言う事なんてあるだろうか。咄嗟とっさにお辞儀をしてしまった恥ずかしさと、好きでもない相手に告白した屈辱で一杯になっていた。

「え……」

 須川驚きのあまり言葉にならない。しばらく二人に沈黙が訪れた後、彼は口を開いた。

「あの」

「はい」

「俺で良ければ……その……お願いします」

 彼は顔を赤らめて言った。

「え?」

「あ? 何だよ」

須川の赤かった顔が一変する。

「いや、その」

 まさか二つ返事で来るとは思わず言ってしまった。断られたって明日みんなに報告しようとしたのに。けど今はそれよりも、この危機的状況を打破しなくては。

「いや、そのビックリしちゃって。まさかOKしてくれるとは思わなくて……その……須川君は恋愛に興味とか無いかなって思ってたからさ……はは」

 須川の気が触れない様に慎重に言葉を選んで言った。

「いや、そんな事はないけど」

 何言ってるんだお前。と言わんばかりの表情だ。

「そっか。なら良かった。ごめんね。誤解しちゃったよね」

 とりあえず怒ってなさそうなので一安心だ。

「じゃ、一緒に帰るか」

「え? あ、うん。帰ろうか」

 私はそのまま須川と一緒に帰ることに。

 何を話そう。お互い無言で気まずい。須川は相変わらずで話す気配はなさそうだし。こういう時って男子が気を使ったりするのでは。内心思いながら路地を二人で歩いていた。

「なあ」

「あ、はい?」

 思わず声が裏返ってしまった。

「連絡先交換しようぜ。まだしてなかったろ?」

「う、うん。そうだね!」

 須川と交換した所で丁度家に着いた。

「あ、私の家ここなんだ」

「そうか。じゃ、また明日な」

「うん。またね」

 帰宅すると夕飯が丁度出来ていた。

 今日はかなり濃い一日だった気がする。

 どうしよう。本当に須川と付き合う事になってしまった。OKしてくれるなんて夢にも思ってなかったし、付き合う以前に男としても見ていなかった。断られて三人に報告して終わりだと思ってたのに。よくよく考えて三人のいる前で告白しないと告白した証明にならないんじゃ? 逆に考えて適当に理由付けて振られましたで済んだ話だったんじゃ。それに気付くが、もう後の祭りだ。済んでしまってはどうしようもない。

 これからどうしよう。私は目の前が真っ暗になった。

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