アクトゥワリサード(4)

 鞘から抜かれた剣の刃は墨色から金属光沢を放った銀色に変わり、銀色の光は乱反射を起こしていた。


 景壱は眩しさのあまり思わず手で目元に影を作った。

 そうしている間に景壱の体は銀色の光に包まれる。


 針で体全体を刺されたようなチクチクとした痛みを感じ、気がつけば寝台の上でハッと目を覚ましていた。

 つい今し方起きたことを整理する。


 針に刺されたような痛みは消えており、額には汗が滲んでいた。悪い夢にでもうなされていたみたいに。

 彼女の放った銀色の光。それに包まれてあの世界から戻って来たと考えると、景壱は死んだ。と解釈するしかない。であるならば、彼女の言っていたことは事実であり、死なないのか、と言う景壱の質問に答えてくれたことになる。

 ただ、それをハッキリと断定するには銀色の光が殺傷力の高いことを証明しなければならない。


 そんなことを考えていると手に持っているスマホがバイブレーションし始め、

『残りの生存ポイント800 速やかに対戦を開始して勝利してください』

 と、言い出した。


 そこでアプリのホーム画面の上部に表示された生存ポイントが2000から800に減っていることに気がつく。

 生存と名のつくポイントなのだから減ってしまうとまずいのでは、と景壱は思う。


 このタイミングでのポイント減少は、彼女に負けてしまったことが原因だと考えられ、逆に勝っていれば増えていた可能も考えられる。


「てか、対戦を開始って言われても」

 そもそも対戦の仕方がわからない景壱はどうしもない。

 適当にアイコン以外の画面をタップし続ける。

 そして、自分の名前をタップしたとたん、画面が真っ黒になり、真ん中に白い線で描かれた正二十面体がくるくると回り始めた。


『対戦を選びました ステージに転送します』


「え? ちょ……」

 突然だった。

 またもや体が半透明になり、徐々に視界が白くなる。


『転送完了 ステージ──地下駐車場』


 景壱の視界は次第に鮮明に戻る。

 薄暗い駐車場、三角コーンがところどころに置いてあった。


「ユニーク」

 すぐさまそう呟き、景壱はモノクルサイトを発動させる。それから、スマホ画面をポチポチと操作し投げナイフを召喚した。

 三回目ともなれば慣れてくるものだ。あとは相手が女の子でなければ戦える。ちなみに、同姓であれば余裕だ。なぜだかわからないが抵抗はないように思える。


 景壱は敵を探すため歩き出す。

 車の駐車していない駐車場は歩けど歩けど景色は変わらない。それほどに広大なのだが全体的に薄暗いので見渡しは悪い。


 三本のナイフを手に持ち歩いていると、どこからともなく何かが回転しているような風切り音が聞こえて来た。

 それは景壱の元へ近づいているのか、音は次第に大きくなる。

 音のする方に体を向けナイフを構える。

 すると、柱の陰から2メートルほどの大きな物体が回転しながら飛び出した。

 その勢いは凄まじく、周囲に風を巻き起こしながら景壱に向かってくる。


 咄嗟に右方向へ飛び込み、体育の授業で学んだ柔道の受け身を取った。まさかここに来て受け身の重要性に気がつくことになるとは思いもよらなかった景壱である。

 景壱の背中をかすめた物体は方向を変え再び戻って来た。

「まじか!」

 そう言って、素早く地に伏せる。

 回転した物体は景壱の頭上を通過し、再び戻って来ることはなくそのまま向こうの暗がりへと姿を消したのだった。


 そして少し経った頃。

「あっれ~、まだ生きてるの~」

 狂気じみた声で恐ろしい発言が駐車場に響き渡った。

 物体が消えた暗闇の方から小柄な女の子が現れたのだ。

 髪の長さは肩に少し掛かるくらいで黒青色こくせいしょくに染められた髪の毛の一本一本が彼女の頬を優しく包んでいた。


 そんな彼女は顔を歪め不敵な笑みを浮かべていた。その表情は日常生活を送っている者が絶対に使用しないもので、小柄ながらも景壱に威圧を与えてくる。


 景壱は目の前の彼女を化け物としか思えていなかった。そのお陰で、前のように逃げることはなく、ナイフを投げる構えを取った。


「な~に~、やる気満々な感じ~、うふふふふ! ユニーク!」

 狂気じみた奇声を上げながら彼女はユニークを展開させる。

レディーレフィリア……ひひ」

 彼女の背後にはつい先ほど景壱を襲った巨大な物体が三つも浮いていた。それは、金色の光沢を放ち、六芒ろくぼうせいの形を模したブーメラン。

 あまりの迫力に景壱のモノクルサイトの存在が霞んでしまう。


 明らかに真正面から挑むと負ける。それにお互い遠距離攻撃に特化していることは明白だった。ただ、大きさと破壊力の違いが如実に表れていた。


「私の武器、最高に愛が詰まってると思わない?」

「どういう意味だ?」

 と言いながら、景壱はモノクルサイトの能力を発動させる。

「あなたのそれ、投げナイフでしょ」

「だったらなんだよ」

「投げたら終わり、でもね、私のフィリアちゃんは投げても戻って来るの! そこに愛があると思わない?」

 顔を傾けそう尋ねる彼女。


「何を言っているのかわかんねぇ」

 常人には理解できない彼女の発言に戸惑う。

「そう……なら私のフィリアちゃんを味わって!」


 怒号にも似た声を発し、彼女は背後に浮かぶ三つのブーメランを景壱に向かって投げつける。

 高速回転したブーメランは地下駐車場の柱を壊し、三角コーンを吹き飛ばしながら風切り音と共に景壱に襲い掛かって来た。


 目の前からも左右からも景壱を殺しに掛かるブーメラン。

 景壱はこの危機的状況の中、ナイフ一本を右手に構え、そして、彼女目掛けて躊躇ためらいもなく投じたのである。


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