「三つ目の願い」

「下手くそ。」


そう言うと、ヨシノスケは

疲れて座り込んだ青年の手から、

パッとギターをひったくる。


「やっぱ、お前には預けられねえわ。

 キーすらまともにできてない…

 冬までには俺も一緒に仕上げるから、

 さっさと今の歌を譜面に書いちまえよ。」

 

「…え、でもお前。」


顔を上げる青年に、

ヨシノスケはフッと笑った。


「いいよ、親父にはなんとか言ってみる。

 …今の曲で十二分に伝わった。

 お前は俺がいなきゃだめなんだ。

 そして俺も、人生を後悔しないために

 お前と一緒に歌っていきたいんだよ。」


「…ありがとな。」


そうして、青年はヨシノスケに

起こしてもらうと互いに笑いあい、

坂の下にある街へと歩いて行く。


…その様子を、僕らは遠くから眺めていた。


「…ねえ、あの青年が本当に駄菓子屋のおじさんなの?

 ちょっと顔が良すぎない?ヨシノスケさんもカッコイイし。」


ちょっと顔を赤くしながら、

ぽそぽそと僕らにささやくユウリ。


「くっそ、俺たちはヒゲとグラサンと

 髪型によって騙されていたんだ。

 あのババア、すげえ面食いだったぜ…」


なぜか地面を叩いて悔しがるやっちん。


その時、僕の持つキューブが光り、

スマートフォンから音声が流れ出した。


『では、願い事をお願いします。』


僕はユウリとやっちんに目配せし、

最後の願いをキューブに言う。


「…僕とユウリとやっちんを、

 キューブと関わり合いになる前の日、

 小学六年生の頃に戻してほしい。」


『…わかりました。』


そして、僕の持つキューブはふわりと浮かび、

まばゆい光が辺りを包み込む。


ユウリもやっちんも

すでにキューブを持っていない。


願いを叶えると、

どうやらキューブは僕らの手元から

離れていってしまうようだ。


…でも、それでも構わない。

僕らの願いが正しく叶うのなら。


そして、光に包まれていく中、

僕は確かにキューブの声を聞いた。


『…我々は、この惑星から離れることにします。

 ですが、この惑星の文明を見捨てたわけではありません。

 今回、この惑星の文明は我々の力なしでも十分に

 豊かになれる可能性を知りました。そのことを踏まえ、

 我々は未来をこの惑星の人々に委ねることにしました。』


…つまり、僕らの考えが

うまくいったということか。


僕は、その言葉に安堵する。


『今後のことを考え、

 あなたがたの記憶は我々の干渉を受ける前、

 キューブを受け取る前に戻させていただきます。』


光りはますます強くなり、

僕は目を開けていられなくなる。


『…あなたがたが宇宙へと向かう日、

 もし、我々と出会うことがあったら、

 未来について再び話をしましょう…』


そして、僕らの意識は遠くなっていき…

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