No.12 「記憶人形」

「流れ星」

「『歯車ネコ、社会の歯車に巻き込まれたネコ、

 管理者のお膝元で記憶処理や時間調節を担当。

 管理者一番のお気に入りだという話だが、

 基本的に雑用ばかり任される。』

 …だったら、もっと大事に扱ってあげてよ。」


ユウリはネコのデータが

送られてきたスマホの文章を読み上げ、

同情するような声をあげる。


床にぺしゃんこに潰されたネコは、

もはや原型をとどめていない。


『その子が最後に残ったナンバーず。

 今までの子たちもみんな次つぎ壊れちゃった。

 でも、もういいの。さよならしてあげるの。

 最後は私も遊ぶから、みんなで一緒にさよならしよう。』


そう言って、巨大な人形は

はりつけたような笑みを浮かべて僕らを見下ろす。


『さあ、道具を持って。』


その瞬間、僕らの手の平にキューブが落ちてくる。


それは、今までと変わりなく青色の光を放ち、

人形の額にも同じように文様が浮かぶ。


「なんだよ、あれに一発当てちまえばいいのか、

 今までのスタンプラリーにしては一番簡単…」


そうして、やっちんがキューブを投げつけようと

投球フォームを取った時だ。


周囲の景色がぐにゃりと歪みはじめ、

気がつけば僕らは山中にある

神社の裏手へと移動していた。


「え、なんなんだよ。」


突然変わった風景に、

やっちんもユウリも戸惑いながらも周囲を見渡す。


星明かりが強いためか、

それとも僕らの視覚が操作されているのか、

夜にもかかわらずあまり暗いという感じはしない。


…いや、違う。

どこか周囲が明るい。


その光はどんどん強くなっていき…


凄まじい轟音。


僕らはとっさに目をつむるも、

周囲の木々がなぎ倒される音や、

風の吹き抜けていく音が聞こえる。


しかし、音は聞こえるものの、

僕らが吹き飛ばされたり衝撃などはまるでこない。


…そして、目を開けた時、

僕らは息を飲む。


目の前に、巨大なクレーターができていた。


地面がえぐれ、

周囲の木々は残らず消し飛んでいる。


その中心部はまだ熱を帯びているのか、

煙のようなものがゆるゆると昇り…


そして、地面に半ば埋もれながら、

僕らが持つものと同じ三つのキューブが

重なり合うようにして青い燐光を放っていた。


「これは一体…?」


ユウリが地面を見ながらそうつぶやいた時、

木々の向こうから数人の女の子の声が聞こえてきた。


彼女らが持つのは火のついたロウソク。


どこか古めかしい服。

三人の少女。


彼女らはこの場所へと

まっすぐに向かってくるようであり…


その顔を見て僕は思わず「あっ」と声をあげる。


茂みをかき分けて現れたのは、

双子と三つ編みの少女。


三つ編みの子はわからないが、

僕はその双子の顔を二度見ていた。


一度めはカメレオンのナンバーずをスタンプするとき、

二度めは流れ星騒動の新聞記事の写真。


つまり、この少女たちは…


すると、彼女のうちの一人が、

まるで僕が見えていないかのように近づき、

するりとその体を抜けていく。


…そこで、僕は確信する。


これは、流れ星騒動の記録なのだと。


そして、少女たちはクレーターの外側に集まると、

何やら小さな声で話し始めた…

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