「ネコと解答」

ナンバーずの口元はまるで歯車のようにギザギザで、

僕は三年前にこのネコの歯車によって押しつぶされ、

記憶を改竄かいざんされたことを思い出す。


『…さあ、誰でしょう?』


少女の…いや、これは、

三年前に出会った管理者の声だ。


周囲を見渡すと、

そこはまるで時間が止まったように見えた。


キヨミさんも、ユウリも、やっちんも、

誰一人として動かない。


まぶた一つ動かさず、

呼吸すらしていないように見える。


『答えないの?じゃあ、あと十秒、

 きゅーう、はーち…』


ここで失敗するとどうなるのか。

…いや、わかりきっている。


目の前のネコはしきりに口を開閉し、

再び僕を飲み込もうと待ち構えている。


そうすれば、また振り出し、

いや、もっとひどいことになるに違いない。


『なーな、ろーく…』


中身が誰かと言われれば、

当然子供であることは確定のはず。


…そこで、僕は思い出す。


確か未来の僕らは、このあと自分たちが

管理者によってナンバーずになると言っていた。


今までのスタンプから考えて、

彼らが過去に飛ばされている例を考えて、

他の子供も考慮に入れて消去法で見ていくべきか…いや、違う。


『ごーお、よーん…』


ユウリは、カンガルーで確定のはずだ。


ルールの改変を願い、

過去が変わらなかった以上、

あの姿になってしまった。


では、やっちんはどうだろう。


…そういえば、記憶が戻った時に

魚に関してパニックになっていた。


電車で出会った魚のナンバーずの本質は闘魚。


それは、未来のやっちんが戦うことを

願ったためになった姿と考えると合点が行く。


それに、最後の叫び声に過剰反応していたのなら、

間違いはないはず。


すると、残るは…


『さーん、にーい、い…』


「僕だ。」


すると、目の前のネコがギギギッと首を横にかしげる。


『それって、君自身ってこと?』


これは、少女の言葉。


よく見るとネコの背後には、

マリオネットのような操り糸が

いく本もぶら下がっているようにも見える。


…そして、僕は答えた。


「そうだ、目の前のネコは僕自身だ。

 僕が過去を変えたいと願った代償の姿だ。」


クスクスという笑い声。


それは、次第に大きく、

暗い部屋じゅうに響いていく。


『正解』


瞬間、ネコがブチュッと潰される。


その押しつぶされるわずかなあいだに、

口の中に僕の顔が見えた気がしたが、

それよりもネコを潰した相手の方へと目がいく。


…それは、巨大な市松人形。


五メートル以上はありそうな巨大な人形が、

今しがたネコを押しつぶした血の付いた手のひらを

見せながら僕らを見下ろしている。


『じゃあ、ルールに則って遊びましょう。

 キューブをここに。』


瞬間、どこからともなく

上から三つのキューブが出現し、

ユウリとやっちんも動きだす。


「え、ちょっとここ何?どこなのよ。」


「げ、何だよあの人形。お、キューブじゃん。

 あれに押せばいいのか。」


そうして僕は気づく。


…いつしか、部屋の様相が変わっている。


そこは、もはや老婆のいた病室ではなく、

壁や床を埋め尽くすほどのぬいぐるみが積み上げられた、

広いひろい子供部屋へと変化している。


その時、僕は目の前で浮くキューブが

青色の燐光を発することに気がついた。


キューブにはネコのマーク。


今しがた巨大な人形に押しつぶされた

ネコのマークがキューブに浮かび上がり、


『正解した子には一体分おまけしてあげる。』


そのマークもまるで僕らが押したかのように、

再度光を帯びたかと思うと薄く消えていった…

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