「面会」

「…一応、ばあさんにも身元保証人はいるんだけどね。

 母方の姉の孫夫婦なんて遠縁にもほどがあると思わないかい?」


そう言って、ナースステーションで面会の許可をとった後、

キヨミさんは僕らを病室まで案内する。


やっちんはまだ目が泳いでいるものの、

気持ち的にはそこそこ落ち着いたらしく、

僕の腕をとって歩くまでには回復していた。


「ここだよ。」


そうして、開かれた扉の先で僕らは言葉を失う。


…厚いカーテンの引かれた部屋。


ベッドの周囲は細菌の感染を防ぐためか、

透明なビニールの保護カーテンで覆われている。


その中で横になっているのは、

枯れ木のような一人の老婆。


その体は、いくつもの計器や管に繋がれており、

口元の酸素吸入器から漏れる音でかろうじて

生きているということだけが確認できた。


キヨミさんは遠目ながらに、

その様子を見て首を振る。


「遠縁の親族は店の相続や土地の始末に手をこまねいていてね、

 仕事が忙しいし必要な書類が整わないことを言い訳にして、

 時間稼ぎのために投薬での延命治療を優先しているんだ。

 世話も病院側に任せきりだし半年以上親族はここに来ていない。

 …まったく、勝手な話だとは思わないかい?」


ベッドの中の老婆は動かない。

計器や酸素のコポコポという音だけが聞こえる。


「私は一応経過報告もしなきゃいけないから、

 こうしてたまに見に来てるんだが…ひどいもんだよ。」


そして、キヨミさんはこちらを見る。


「ここにあるのはこれだけだ、

 …もう、気は済んだかい?」


その言葉に、僕らは誰とも言わず顔を見合わす。


…そう、ここにきたのは、

キューブのひいてはスタンプラリーの管理者を探すため。


でも、その中でも一番重要と思われる人物が、

まさか昏睡状態になっていたとは…正直思っていなかった。


どうすればいいか、

どうしたらいいか。


そして、僕がもう一度、

老婆の顔を見ようとした時…


『後悔した?じゃあ、この子の中身は誰でしょう?』


…聞き覚えのある声。


そして、病室の真ん中。


老婆のベッドの足元に、

見覚えのある一匹のネコの着ぐるみが立っていた。

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