「キツネの予言」

「俺、転移された時に別の階にいたみたいでさ、

 必死に下に行って探したんだぜ。」


キューブとスマホを両手に持ち、

散々走ったせいか「ふー」と言いながら、

袖で汗を拭くやっちん。


すると、ユウリが目を細めてやっちんを見る。


「ねえ、ちょっとこれホントにやっちんなの?

 キツネが化けてるってことない?」


そう言われたやっちんは「はあ?」と声を上げた。


「んなわけねえじゃん…っていうかユウリ。

 キツネってなんだよ、俺、知らないんだけど。

 そいつが何すんのか教えてくれよ。」


「えっと…」


言いよどむユウリ。


そこで僕はやっちんに、

先ほど僕とユウリがキツネの姿をした

ナンバーずに襲われかけたことを説明した。


「…へえ、化けギツネか。やべえな。」


「でしょ?データは読み上げられないけれど、

 私も危ないなあと思って…あ!もしかして、

 さっきの爆発もキツネの仕業かしら?

 見て、ここの階はどこにも崩れたような跡がないもの。」


そう言って、ユウリは窓ガラスこそ割れているものの、

崩れた形跡がまるで見られない建物の中を見渡す。


「だとしたら、私たちはキツネの幻覚から逃げられたのね。

 やっちんも本物みたいだし、次に上から誰かが来たら、

 それこそキツネが化けたもののはず…ここで待ち構えましょう!」


こぶしを握りしめて、

相手を迎え撃つ姿勢のユウリ。


その両手は手ぶらであり…


瞬間、僕はとっさにキューブを取り出すと、

ユウリの額…青く光り出す頭部に押し当てた。


『ウグアアアアアアア!』


そこから漏れた声は意外にのぶとく、

口の中に見えた顔が一瞬だけ男の子っぽくも見えたが、

あえて僕は見なかったことした。


「何?どうしたの…あ、キツネ!」


気がつけば、僕の後ろの階段から、

スマートフォンとキューブを持ったユウリが降りてくる。


対して、目の前のユウリは明らかに化けの皮が剥がれ、

巫女服ながらも大きく太ったキツネの着ぐるみが

正体を現して横に倒れ伏していた。


「え、ユウリがキツネに…なんで?」


目の前のことに考えが追いつかず、

パニックになりかけるやっちん。


…そう、僕は気づいていた。


スタンパーとして動くためには、

キューブとスマホの携帯は必須。


それは、相手をいつでもスタンプするために、

回数を重ねてきた僕たちだからこそ生まれた習慣。


だからこそ、キツネが再びユウリとすり替わった時に、

手ぶらだったことに違和感を持ったのだ。


「…あの女の子も仮の姿だったか。

 すでにスタンプは押しちゃったから、

 もう仕返しはできないし…」


キューブを持ったユウリが、

そう悔しそうに言った時だ。


ズズンッ


突如、建物が揺れ出し、

僕らの足元がグラグラする。


「え、何?」


「お、ちょっとこれヤベエ!」


転移されつつもオロオロする二人。


そこで僕はユウリの言った、

キツネのデータを思い出す。


…未来予知?


そういえば、僕がユウリと思い込んでいた、

キツネの後を追っていた時、確かキツネは、

この場所が爆発で崩壊するとか言っていた。


僕はとっさに天井を見上げ、

そこにいくつもの亀裂が入っているのを見つける。


「二人とも、伏せろー!」


とっさに出した大声。

崩れるような轟音。


転移が間に合わなければ、

僕らはキツネと一緒にお陀仏になってしまっただろう。


そうして、何もかもが真っ白になった瞬間…


…僕ら三人は、階段にいるヨシノスケさんの目の前で、

彼を通せんぼするかのように立っていた。

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