「初々しい撮影」

ガシャンッ ズドンッ


僕らがしがみつく柱の横を、

ソファやパソコンがぶつかり音を立てる。


それは天井にあったはずの家具類でまちがいなく、

僕もユウリもやっちんも体が引っぱられるのをこらえつつ、

必死に目の前の家具たちをよけていく。


「あ、私のスマホ!」


瞬間、ほほをかすめるスマホに

ユウリは手を伸ばすも届かず、

スマホは勢いよく床に叩きつけられる。


「あ…壊れてないといいけど。」


ぼうぜんと声をあげるユウリの横で、

やっちんはなんとか自分のスマホをキャッチする。


「くっそ、あのカンガルー。

 目の前の柱がジャマでスマホでとれない。

 そっちはどうだ、使えるか?」


僕は片手に持っているスマホのことを思い出し、

ようやくカメラモードに設定する。


今までユウリがしていただけに、

初めてデータを取得するために写真を撮ることになったが、

なかなかどうして、相手をうまくフレームに収められない。


「何ぼさっとしてるの、

 もしかしてスマホで写真撮ったことないの?」


ない!…いや、これはマジな話。


考えてみれば撮影機能なんて、

スマホを買って以来、

実は一度も使ったことがなかった。


こう考えてみるとSNSに写真をのせる人たちって

本当にカメラを使うのがうまいんだなーと思うのだが、

まさかこんな危機的状況で初めての撮影をするなんて、

運が悪いんだか良いんだか。


「いーから、シャッターを押す!

 ピント調整なんてカメラが勝手にしてくれるんだから!」


ユウリは半ばキレながら僕にアドバイスするが、

そんなこと言ったってカメラも何度もぼやけるし、

いつ押せばいいかなんてまるで見当がつかない。


だって被写体だって、

こんなに目の前に…


と、そこで僕は気がつく。


そう、目の前のカメラにはぐったりとした様子の

車椅子に乗った男の子の顔がアップになっている。


血色が悪くも呼吸はしているのか、

胸のあたりを上下させる少年。


つまり、その椅子を押すカンガルーは、

今まさに目の前にいるわけで…


『ルール、その1:

 目の前にいる人間は、

 から一番遠い場所へと移動する。』


そして、僕は気づく。


そのカンガルーは、

どこかで見たことのある顔をしていて…


「マサヒロ!」


「マサヒロくん!」


瞬間、僕の体は後ろへと吹っ飛び、

すさまじい衝撃が身体中にかかった。

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