「決死の飛び移り」

ユウリは周囲にある商品が邪魔になっているせいか、

下からやってくるアヒルにまだ気づいていない。


やっちんは僕らよりも二つ向こうの棚にいて、

声が届かない以上、到底間に合いそうもない。


それがわかった瞬間に僕は駆け出し、

とっさにユウリの棚へと飛び移った。


「!」


ユウリも僕の行動に驚いたのか、

ついで後ろを振り向き、すぐにアヒルに気づく。


だが、アヒルの方が早かった。


僕らが逃げようとしていることに気がつくと、

相手は二人の子供なら容易に入りそうなほどの

大きな羽を広げ、一気に僕らを押しつぶそうとした。


「…!」


だが、それは決まらなかった。


なぜなら、アヒルのくちばしの間にロープがかけられ、

後頭部が強く引っ張られていたからだ。


…早く、スタンプを押せ!


聞こえはしないが、そういうニュアンスの言葉を

二つ向こうの棚の上で手綱を持つやっちんが言った。


彼は棚で手に入れた長いロープを輪っかにし、

アヒルに引っ掛けていたのだ。


引っ張られて痛いのか、

必死に羽をばたつかせるアヒル。


でも、くちばしが邪魔で

引っかかったロープはなかなか取れない。


その時、あごの下にかすかに何かが見えた。


それはアヒル模様のスタンプのマーク。


同時に僕とユウリの持つキューブが

同じ色の光を放つのが見えた。


…!!


そして、一番近くにいたユウリが

とっさにキューブを差し出し、

アヒルのあごに押し当てる。


同時にキューブとスマホが光り出し、

今度は音声ではなく僕らの頭の中に

直接響くよう、アナウンスが聞こえてきた。


『おめでとうございます!

 唄いアヒル、スタンプクリアです。

 ただいまを持ちまして本日のスタンプは完了です。』


そして、僕らは巨大プール施設から一転、

やっちんの家で部屋と階段、

それぞれ呆然としながら立ち尽くしていた。

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