鏡界


 二柱は、この『デーヴァ神族』の世界、幻の惑星アースの歴史を映し出した世界を、『鏡界』と名付けた。

 そして、いま『鏡界』の世界の一つが、具現化しようとしている……


 長い本当に長い沈黙の後、『神産巣日(かみむすび)』神が口を開いた。

 ……とにかく『鏡界』を何とかしましょう……


 『高御産巣日(たかみむすび)』神が、

 ……しかし、我らでは……


 ……そう我らは手一杯……しかも『鏡界』の立て直しとなると、隣の『下天』にも影響がある……

 そうなると、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は『悲しみ』という『有』にとらわれる……


 でも今ひとり、何とかできる者が、いるではありませんか?


 我らが娘か……しかし、あまりに不憫では……これ以上は……


 このままでは三千世界は終わりかねない。

 『無色界』が消えれば、『色界』も無事ではなく、『欲界』はさらに荒れる。

 末端が問答無用で消えていくことを、我らが娘が許容するわけはない。


 娘はいままでも試練を乗り越え、見事な結果を出してきた。

 少々早いが、最後の試練ということで、任せてみませんか……


 ……受ける者は強気かな……人の世界の母のようだな……


 ……我らは『まぐあった』仲、私が母なら汝は父……そうか私は妻か……

 ……汝は私の妻か……私は夫か……しかし夫は人の世では減少している……


 いま、三千世界は変わらなければならぬのだろう……

 『調和』が今の状態を、許容しないのだろう……

 『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は、だから会いたいのだろう……


 『無』の揺らぎから、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神が生まれ、そのお力で『混沌』があらわれ、『有』が生まれた、その中より我らは生まれた。


 我らにとっては、いわば『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は親のようなもの。

 そのような『有』の感情も許容されるが、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神には許容されない……


 三千世界は変革を始めている、我らの娘がその中心にいる……


 『調和』は望んでいるのでしょう……そして我らを呼んでいるのでしょう……


 そうだな、その為にも、まずは娘に『鏡界』を自由にさせてみよう……娘か……

 この響きは良いものだな……

 『鏡界』は『デーヴァ神族』の世界、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神の世界ではない……

 それに、今は助けたくても助けてはやれない……


 ……あの娘はヴァルナの娘、しかも我らの娘……大丈夫……ただ『鏡界』は許容されない。

 『調和』が、そのように望んでいるのでしょう?……


 この三界に、来る世界はどうなるのかな、少なくとも夫は役立たずになるな……


 役に立っていますよ、少なくとも私にはね……あ・な・た……


 ?


 『神産巣日(かみむすび)』……汝……


 ……いいではないですか、我らは『有』から生まれた者、私は娘が愛おしい……


 『高御産巣日(たかみむすび)』神が言った。

 あの娘は第六天魔王にならんとしている……でも言われるような、他化自在天ではないだろう……あえて言うなら歓喜天……人の喜びを大事にしている……


 『神産巣日(かみむすび)』神が、おおらかに笑った。

 『まぐわい』の結果の娘ですから、歓喜を大事にするようですね……


 今までの世界は、確かに変わるだろう……我らの愛しい娘が変えていくのだ……それを見れば、我らも『有』から去れる……

 『調和』に出会って、できるなら娘をまとうか……


 そうね、そうできればね……あ・な・た……

 『高御産巣日(たかみむすび)』神が、

 『神産巣日(かみむすび)』にそのように言われると……お・ま・え……

 と言った。


 『神産巣日(かみむすび)』神は、再びおおらかに笑った。

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