第155話 悪魔を操る、真の黒幕の正体


「っしゃあ!剥げたぜ」


「これで変身は解除される」


「いいのですかハーネイト様。いっそのこと止めを……」


 響たち高校生や仲間との連携で、マルシアスのDカードによる変身を解くことができた。


 だが亜里沙や五丈厳は、今すぐに目の前の敵を倒すべきだと進言する。だがそれに対しハーネイトの答えはNOであった。


「刺さなくていい。情報をこの際ごっそり根こそぎ回収する。私は戦士である前に、探偵なのだ。しかもかなり上の幹部だし、他の幹部の様子や情報も知っておかないと君たちにも危険が及ぶ」


「た、確かにそうですがハーネイト様」


「不満か?どれだけの幹部が血徒の手駒になっているか分からないと、いよいよ血徒の活動が手に負えなくなるレベルまで来ているのだ」


 ハーネイトは様子を伺いながらそう亜里沙に言い、変身が完全に解け、地面に膝をつくマルシアスに近づくと自身もしゃがみ、優しく声をかけた。


「今回の変身もデモライズカードか、全く、これの出所も掴んでぶっ飛ばさないとな」


「ぐっ……我は……っ!」


「答えられるか?あのカード、どこで手に入れたの?」


「魔界の端にある、異界の門の近くで……今ではそれが、多く出回っておる。最近、魔界では奇妙な病が流行っておってな……」


「悪魔が、悪魔に変身してもな……爆発もするし」


 ハーネイトはゆっくりマルシアスから話を聞き、偶然異界転移により運ばれてきたデモライズカードの使用であることを把握した。


 しかしその次の、カードが魔界の中で出回っていると言う点に驚く。そのうえで、少しぼやくように何故悪魔が悪魔や魔獣の力を求めようとするのかが気になっていた。


「な、それはどういうことだ」


「兄貴、デモライズ何とかって、危険性知らないで使っている人多くないっすか?」


「どう見てもそうだよね翼」


「我らも、この強化アイテムのすべてを知ってはおらんので、な。それを張れば病気が治るという情報もかなり拡散されておるが、そうではないと俺は考えておる」


 マルシアスはハーネイトの言った爆発と言う点に注目し問いただす。それを見ていた翼は率直な感想を述べた。


 そう、魔界の住民たちもこのカードの危険性を認識していないということが良く見て取れ、ハーネイトはため息をついていた。何故よく分からないものを平気で使えるのか不思議がっていた。

 

 だがマルシアスの話を聞き、カードに関する迷信と血徒の影響が関係しているのだなと理解したのであった。


「なあ先公、結局こいつらも悪いことに変わりはねえだろ?他の奴らみてえに……」


「五丈厳、気持ちはわかるがもう向こうに戦意はない。今回の1件も、魔界の一部の住民が仕掛けなかったら何もなかった話だ。今は、情報を更に聞き出し本拠地の情報を手に入れるまで。残りの幹部のことが気になる。汚染をばらまく存在ならばそう急に対応すべきだ」


「くっ……仕方ねえな。感染したら、血を求めて彷徨う死人になるってのは分かってらあ。BW事件の時にあったからな。だが、後で鍛錬に付き合えや先公!こいつらが悪いんじゃねえのかよ」


「悪いのは、血徒だ。魔界人まで手玉に取り利用しているのだからな。昔から奴らの使う常套戦術だ。俺の恩師を殺した奴も、亡骸を操って村を……」


 五丈厳はどうしてもむかつく相手だと憑依武装を構えるが、ハーネイトは制止する。


 なぜなら、一つまだ確定的なこととは言えないが、魔界復興同盟を裏から操る黒幕が別にいるのではないかという妙な感、というか証拠もいくつか出ているためほぼ確定でいるという事実を述べ、あらゆる生物の血と命を支配する者への恐怖を口にする。


「さあ、降参して情報を吐くなら見逃してあげよう。というか魔界に帰ってどうぞ」


「……もう我はこの計画から手を引こう。だが、3位より上の連中は既に妄信状態だ。最後までソロン様の復活を行うつもりだ。君たちが住む世界に拠点を作ってまでもな」


「何?」


 マルシアスは爆発する前に剥がしてくれたことについては感謝していたが、それでも復活を止められないという。


 それは、トップ3人が既に妄信に取り付かれたかのようにソロン復活を掲げ、異を唱えるものを粛正してきたからであり、あの勢いを他に止められるものは彼らの部下には誰もいなかったからであった。


「そもそもソロン様を甦らせる話が出てきたのは、同盟の長、アルヴィガロス様がある女悪魔と会って、その考えに同調し……あ、ああ?そもそもあれは誰だ?見たことがない奴だった」


「なあ相棒……すげえ嫌な予感がしてきた。おいマルシアス、その女、体のどこかにこの模様はなかったか?」


 マルシアスは何時頃からトップ3人がああいうことを言い出したか思い出していた。それを口に出すと、伯爵がいち早く異変に気付いた。


 話が本当ならば、その女悪魔が血徒適合者である可能性が高いと思ったからであった。そいつが、魔界人たちを狂わせた元凶だと思い伯爵は服に隠していたある写真をマルシアスに見せた。それをじっと見ていたマルシアスは、少ししてはっと思い出したのであった。


「一度だけ目で見たことがあるが、確かに、あったぞ。胸元に!」


「……血徒だな。お宅の仲間ら、全員別の組織の手駒にされちょるの」


「しかし、この刻印が見えるのか、だからあなたは感染しなかったのかもしれない」


「どういう事、なのじゃ一体……っ」


 マルシアスの話を聞いたハーネイトは、確かに目の前にいる魔界人2人は血徒汚染を受けていないし取り付かれてもいないことを確認した。


 また、伯爵とのやり取りから刻印が見えることよりマルシアスが霊量子を操れる素地を持つ魔界人であることも分かったのであった。


「霊量子を操れる素地を持つ存在は、血徒に対する耐性があります。完全耐性のある私ほどでは完全ではないですが、他の幹部と比べその女悪魔との接触も深くはしていないようですし、刻印もない。あの、他にまだ正気を保っている幹部は?」


「残念ながら、殆どの幹部共は性格が大きく変わってしまっておる。目も血走っているし口から血を流すものまで最近は現れておる。わし自身、恐怖を覚えるほどじゃ」


 ハーネイトはその後もマルシアスから情報を回収する。当初魔界復興同盟の中でも巨大な石碑の中に眠っているソロンをどうするべきか議題が出ていた。


 復活反対派もいたが、ある時から幹部たちは妄信的に全員復活のために動くようになった。


 その前後に、トップ3人と面会していた見慣れない女悪魔がいたこと。自身は物陰から様子を見ていたが、その悪魔は3人に何かを手渡し去っていったという。


「事態は非常に深刻ですね。ルべオラたちも手を焼いているでしょう」


「そもそもおかしいとは思ったんだ、どこかな。そもそも魔界の連中は昔から他世界への侵略をしてきた集団。こんな回りくどいことなんかせずともやるときはやるし、俺や相棒はそれを防いできた」


「その話が本当でしたら、確かに妙ですわ」


 伯爵は今まで思っていた、本当に魔界の住民だけが起こした事件なのかと言う点について違和感を抱く点について話をした。

 

 元々魔界の住民は大昔から自力で他の世界に移動できる技術を持っていた。


 それを利用し他世界の侵略を行っていたのがフォレガノという大悪魔であり、もし目的を達成するならそれだけで十分であるはずだと言う点が1つ目、2つ目は元々魔界の技術は次元亀裂や時歪門という、自然的に発生する現象を利用し飛び込むのが基本である。


 異界亀裂というやりかたで移動する方法は、現在知る限りでは自身らとヴィダールが絡む存在に限られている。


 フューゲルに関しては以前教えたことがあるため行き来できるものの、それ以外の魔界人がその移動法を使用できるかと言うとそうではないという。

 

 ならば裏で技術提供した奴がいると見ていい。異世界装置の件については消滅したはずのDGが関与している可能性が高い。


 それとハーネイトも伯爵も、人となったヴィダール。つまり古代バガルタ人の関与はないこともすでに確認済みであった。


 もしあったなら狙われる場所が街の人たちではなく、よりエネルギーの多い発電所や創金術を利用するため素材が多い製鉄所などになるはずで人への被害はもっと少ない。


 これはおかしい、伯爵もハーネイトも捜査の途中で同じ意見を共有していたのであった。


 となると、他に同じ芸当ができるとしたら消去法を使うと、様々な世界に移動し活動できる自身と同族、つまり微生界人。それも多くの世界で暗躍し命を奪い、Pという存在を開放しようとする存在、血徒なのではないかと伯爵はそう考えていたのであった。


 魔界人の異変もそうであり、魔界全体を支配して新たな拠点を血徒は作ろうとしていたのではないかと考察するハーネイトと伯爵であった。


「そんなことしなくても、別世界に移動できる実力があるのにそんなことするなんて……。ソロンという存在を甦らせるよりも、やっちゃあれだけど略奪の方がまだ資源の調達なら早く済みそう?なのにマルシアスの上司は神様を目覚めさせるために必死になって動いてるの?」


「……彩音、思ったんだけど同盟も血徒もあの例の星について探っていた。しかし同盟の幹部たちはどうも血徒という伯爵と同じ種族の組織に利用されていた。ソロンの復活も、実は血徒が必要としていたからじゃないのか?」


 彩音と響は、全員の話を聞いた上で、あることを思っていた。それは、一連の事件全てが血徒が裏で手を引いているという事であった。

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