第153話 霊科学研究所の異界化?




「なっ、これは異界化?」


「研究所丸ごと異界化してやがるぞこれ」


「い、異界化とは何なのだ一体?誰か説明してよ!」


 もうすでに慣れている響たちはともかく、ドガとその助手、レイアはひどく慌てていた。だがそれでも質問する彼にハーネイトがどういう現象かを教える。


「ここ最近この春花を中心に発生している恐ろしい現象です。行方不明事件とも関連があり、一定範囲内を別のあるエリアと共有状態にしてしまう代物です。大体はこの異界空間と呼ばれる場所とのエリア融合ですが、最近はそれよりもひどいものも発見しております」


「そんな現象まで起きておるとは、わしは夢でも見ておるのかい」


「ところが、これが現実なのですよ」


「せやで、しかしここまでやってくるということは、あれ狙いだな」


「恐らく、矢田神村から回収された宝玉を狙っているのだろう伯爵!早急に片づけないとな」


 ハーネイトはこの現象を仕掛けてくるということは、間違いなく事件の元凶である魔界復興同盟の手がかかった者がこの施設内の何処かに潜んでおり、ここに管理されている霊宝玉を奪いに来たと見ていいとドガや響に話をする。


「それが、奴らの目的か。まあ、他の2か所のが行方不明なら、残りも狙うな普通は」


「少なくとも、ソロンの復活に関係するアイテムであることは間違いない。私たちもこれが必要なのだが……」


「とりあえず全員迎撃態勢を取って!異界化を起こした犯人と装置は近くにいるはずだ」


「全力で潰す!」


「ええ、覚悟なさいな!」


 全員はそうして戦闘態勢に速やかに入る。その間に少し離れた場所で施設内を見ていた彩音たちに連絡を取るハーネイトは、どことなく違和感を覚えていた。


「先生!そちらの様子は!」


「彩音か、敵の異界化装置の影響で外界から隔離されている。全員具現霊を呼び出し戦闘態勢に入れ、すでに敵の領内にいる!全員今のうちに集まるんだ!」


「了解です!」


 研究所に来ていたメンバー全員が無事であることを確認したハーネイトは、どうやって装置を探し出そうかと作戦を考えていた。


 ただし内部は異界化の影響で迂闊に進むと何が起こるか分からないため、慎重に動くほかないと彼は考えていた。


「まずいな、完全に異界化されている影響でこれ以上仲間を呼べない。いや、ユミロは呼び出せる。それに使い魔もいけそうだ」


「分かった、俺たちで元凶を立ち奴らの計画を阻止する」


「ユミロ!手伝ってくれ!」


 ハーネイトは外部から遮断されている状況を判断しつつも、出せるだけの戦力を出そうと胸ポケットに挿したペンを手に取り振ると、ユミロたちを呼び出したのであった。


「うぉ……なっ!これはどういう、ことだ」


「眠りの邪魔をする者は……っ!これは、異界空間か?ハーネイト様、説明を」


「異界化現象が突然発生した。しかもこの建物内でね。んと、それとなんでエスメラルダが」


「ハハハハ!どうも面白いことになっておりますわねオホホホ」


「あの幼女は一体……ルべオラさんとは違うタイプで面倒な感じが……」


「私はエスメラルダ!霊量子超能力者よ!事情はすべて知っているわ、守りは任せなさい!にしても、チェスで遊んでいる最中に呼び出されたのは不満ね。何よもう」


 ユミロとシャックスはいつものメンバーとして、ここで何故か唐突に新メンバーというか、恐らくほとんどの人たちが誰だよと思う女の子が現れ場はざわつく。


 しかしハーネイトらにとってこのお姫様及び幼女にしか見えない、このエスメラルダという存在は現状況において役に立つ人材であった。

 

 彼女は霊量子を操りサイコキネシス的なことをするかなり変わった霊量士だが、結界や敵の攪乱などが非常に優秀なため、護衛対象であるドガとその助手を護衛してもらうにはちょうどいい仲間であった。


「人手はいた方がいい。まあ運がいいか」


「ハーネイト様、後で非礼を詫びますが、私たちも」


「ついてきたわけだ。さあ、どうするハーネイト」


「ミレイシアにサイン!ついてきていたのか」


 驚いていたハーネイトの背後から二人の声が聞こえ振り向くと、そこにはミレイシアとサインが立っていた。


 既に戦闘態勢に入っており、いやな予感がしてこっそり後をつけてきたと弁明、ハーネイトは助かると言ってから作戦指示を出していく。


「話はあとだ、怪しい装置を探せばいいんだな?」


「こんなものを見つけたらそれが装置だ」


「ああ、速攻で潰すまでだ」


「あの人、先生の看病をしていた執事さんですよね」


 ハーネイトはサインとミレイシアにある写真を見せ、それが破壊目標であることを指示したのち紅蓮葬送を首元から展開する。


「ああ、彼はサイン・シールシャルート。私の友人で長い付き合いだ。彼は気性が荒い一面があってね……」


「話している暇があったら体を動かすのです。さあ、行きますわよ皆さん」


「あの、それ私の役目じゃ……」


 ミレイシアがきれいさっぱりと場をまとめ、攻勢に出ようと指示し、リーダーであるはずのハーネイトは困惑するもすぐに気を取り直し、響たちを連れて研究施設内にある、敵の置いた異界化装置を破壊しようと探し出す。


「さあ、私の人形兵たちよ、狼藉者を処分しますわよ」


「イエス・アイアム!」


「ミレイシアさんが人形を呼び出してきた……なんだあれは」


「彼女の恐ろしい部下、だな。近くによるなよ、ハチの巣だ」


 ミレイシアは早速、ハーネイトと同様の次元亀裂を利用し人形兵を数体召喚する。それはどれも女性型であり、全員がライフル銃のような装備を身に着けていた。


 口元をマスクで覆っているように見える人形兵たちはどれも彼女の手作りであり、優秀な手足として動き回る。


「早速魂食獣の群れか、全員1匹残らず仕留めるんだ!」


「いきなり呼び出されてあれだけど、みんなばらばらのぺしゃんこになっちゃえば?そーれ、霊量分解(クォルツ・デストルクシオン)!」


 異界化の影響で、研究施設内は至る所に魂食獣が存在していた。まずはそれの排除が必要であり、各自ハーネイトの指示のもと攻撃を開始する。


 早速エスメラルダは霊量子の収束率を調整し、魂食獣の体をバラバラに分解する。


「スマートに仕留めるだけです。フルンディンガー・ガーンデーヴァショット!」


「行くぜロナウ!この一撃、耐えて見せろよな!ブラックムーン!」


「相手の動きを止めないとな、言乃葉!言呪・止!」


 その他の霊量士たちも続いて各自の出せる戦技を用いて攻撃していく。ただ施設内ということもありもしものことを考え、研究施設に被害が出そうな攻撃は極力抑えるため、1体づつ確実に倒す戦略を彼らはとっていた。


「お前ら、迂闊に暴れると施設に影響出るんじゃねえのか?」


「一応気を付けた方がいいよな勝也」


「そう、だな。あまり吹き飛ばしたり破壊力のありすぎる技は禁物だ。いいな!」


「ようは、コンスタントに確実に、だろ先生!行くぞミチザネ!雷走だ!」


「ちっ、外か異界通路内なら壊嵐脚(ナマステトルネード)で一網打尽なのによ!」


「取り合えず、これで全部片付いたな。全員私たちから離れずに、この倉庫を出てエレベーターフロアまで向かうぞ」


 地下倉庫を出て、ハーネイトたちは非常階段を用いて地上に出る。廊下を走りながらそこにもいる獣を倒しつつ、事件を起こした犯人を捜す彼らは、あるものを見つけたのであった。


「こんなところに異界亀裂が?……建物の中にもできるとは。恐らく犯人はこれを利用してきたな」


「探すしかねえよな!」


「というか、そこにいるんすけど怪しいのが」


「あ、魔界人見っけた!」


「呆気なさすぎじゃないんですかね」


 上の階に向かうエレベーターの壁付近に、大きな異界亀裂が開いていた。


 その前に立っていたのは、やや小柄の角を生やした、少し顔色の悪い悪魔と傍に立つ細見長身の、手に本の様なものを持つ付き人、いや付き悪魔であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る