第152話 霊科学研究者ドガと響たちの能力の所以
「ついたぞハーネイト。ここが例の霊科学研究所だ」
翌日、ハーネイトらは大和の運転する車に乗り、ここから25分ほど離れた春花の北東にある人里離れた山のふもとまで来ていた。
一見周囲を見渡すと家などはほとんどない中、ひときわ目立つそれは立っていた。そう、白くて4階建ての、全く周囲と溶け込んでいない建造物がそこにあった。
ハーネイトは大和の案内で施設の中に入っていくも、後ろからついてきている人たちが気になっていた。
「……この辺りにしては立派な建物、過ぎませんかね?あと、何故君たちもついてきたのかな?」
「えーいいじゃないですか先生、それに……矢田神村出身者なんですよ私たち」
「そうだった、な。分かった、一緒に行こうか」
「はい先生!」
「みんな元気いいね、早く全盛期の時に戻りたいよ」
「そのために今俺たちも協力しているわけですよ」
「ありがとね、本当に」
ハーネイトはいつの間にか付いていた響ら高校生たちに驚くも、響と彩音、翼が矢田神村出身であることをすぐに思い出し、そうなると博士の研究に興味を持たないわけがないと思い、更に大和が話を先に着けていると聞いたハーネイトは一緒に行こうと言い彼らを連れ研究所内に入る。
すると廊下の奥から1人の白衣を着た、茶髪パーマで眼鏡をかけた、知的で端正な顔立ちをした中年男性が歩いて向かってきた。
「よく来てくれた、大和君」
「はい、メルカッツェ博士」
「このおっさんが博士か、なかなかいい面構えやのう」
「ああ、あの時の怪しい博士!」
「こんなところで再び会うなんて」
「まさか、こんな所に住んでるなんてな。驚いたぜ」
この中年男性こそがこの研究所の所長であるドガ・メルカッツエ・オーヴェルノードという。
数年前にドイツからこの日本に移住し、霊科学なる物の研究に没頭していたという。
それは、自身が愛する妻と娘を魂食獣に食い殺されたからであり、同様の被害を探し研究しているうちにここに来たと話をした。
元々は生体工学を中心に専攻するドイツでも指折りの研究者であったらしい。そのため顔や名前はよく知れ渡っているという。
植物の繊維や成分などを分析抽出し、新たな薬品や素材を作ったりある植物から見つかった繊維構造を元に強力なフィルターなどを作り出すなどの功績を持っており、論文も数多く書いているという。
少し不敵な笑みを浮かべつつも、特に敵意はなくむしろ歓迎する感じで、少し緊張しているハーネイトの顔を見ていたドガは、その美しさとその裏に見える力強さを感じ取りながらようやく出会えた存在に心を躍らせていた。
「響たち高校生から貴方のことについて話は伺っていました、ドガ博士。私はハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセと申します」
「君が、大和から聞いたハーネイト君か。今日はよろしく頼むぞ」
「ええ、はい」
ドガ博士は普段あまり見せない笑顔を見せながら、ハーネイトに握手を求めそれに彼も応じる。そして話の本題に入るため、自室の研究室に案内したのちある場所までついてきてほしいという。
「わざわざ出向いてもらって申し訳ない。見せたいものがあるが運び出せなくてな」
「……そうですか。その見せたいものとは」
「ついてきてくれ」
そうしてドガ博士の後について行くハーネイト達は、地下にある倉庫の中に案内された。既に何か嫌な感覚を覚えていた彼らは、警戒しながら部屋の奥に足を進める。
ハーネイトでさえ、思わず足が少し前に出ないほどの異様な雰囲気に彼自身相当警戒しているようであった。
「俺は先に見たが、不気味な光を発している。もしかすると、ルべオラちゃんがハーネイトと伯爵に渡したアイテムと同様の物かもしれん」
「よほど私に見せたいらしいな。……何なんだろうな」
そういい数分もしないうちにドガはある部屋の扉を開けた。するとそこには、ガラスケースに入った妖しい光を常に放つ巨大な水晶玉らしきアイテムが鎮座していた。
それを見たハーネイトはすぐにそれが何かを理解し、ドガにどこで回収したのか問いただした。
「どこでそれを手に入れたのですか、ドガ博士」
「……矢田神村でな。これを最近見つけてきたのだよ」
「何だと?あそこ確か今は入れないはずじゃ」
「フフフ、そこはうまくやったわけだ。そこで今は人がいない村の方を見てきた。完全な断定は難しいが、あそこは恐ろしい何かの巣窟と化していた。何か、要塞か城か、そんなものがあった感じだ」
ドガはなんと、あの矢田神村を去年に一人で調査し、身を潜めながらあるアイテムの回収に成功したという。また、今の村の状態を事細かく説明し、写真も数枚ハーネイト達に見せたのであった。
それを見たハーネイトたちは全員、しばらく絶句していた。
なぜならば、巨大な洞穴の入り口の向こうに異様な空間が広がっていたこと、その周辺にもとてもありえないような設備がいくつも設置されていたからであった。
「博士、貴方見えるのですね」
「そうらしい、な。大和から話は聞いたが、それを倒せる存在がいるというのもな。どんな除霊師が払おうと全くの無意味、しかも多くの人が犠牲になった。矢田神村での一件、住民以外にも被害が相当出ていた」
ハーネイトと伯爵は、ドガの様子や雰囲気、背後にいる何かから能力者として目覚めかけているようだと判断したうえで問いかけ、9年前の事件についての話をドガは話し、恐ろしい事件として外国では有名だということを話した。
「これは、全員を連れて制圧せねばならないな。そこに、何かの拠点があるかもしれない。写真に残留しているこの気運は、間違いない。ソロンの気運だ。まさかと思うが、博士、この球体を調べても構いませんか?」
「あ、ああ」
ハーネイトはそう言い、怪しい水晶玉を直接手に取り観察した。そして確信したハーネイトは疑問を抱きながらそれを口に出したのであった。
「これは、霊宝玉……!やはりと思ったが、何故そのような場所にあるのだ」
「ほう、それは興味深い話だな」
「……本来、ここにあってはいけないものです。数自体は多いので向こうからすれば大したものではないでしょう。しかしこれは、異界の者や怪物を寄せ集める効果を持つ危ない代物で、膨大なエネルギーを内包しております。これを自分が取り込めば、封印されている力の一部を解除できるほどです」
ハーネイトはその水晶内にある膨大な霊量子を感知し、霊宝玉であることを確認する。
この霊宝玉は、内部に大量の霊量子を内包しており、その力は扱うもの次第で奇跡、あるいは災いをもたらすとされ度々争いの元となっていた。幾つも集めれば、それだけ奇跡を起こせるほどであり、ルべオラがどこからか手に入れてきた霊宝玉と同様の力を持っている。
ハーネイトと伯爵は、何故この世界にそれが存在するのか考え、これらは自然的に生成されたものであり、敵がこれに目をつけている可能性は非常に高いと考えていた。
この宝玉を集めれば、眠っている神柱の起動など容易いことである。
また、重要なことであるが響や彩音を始めとした矢田神村の住民の多くが霊的感知能力及び霊量子運用力に秀でている理由も、この霊宝玉から発せられる霊量子を浴び続けた影響によるものだと分析する。そうでないと、ここまで能力者がいるわけがないという。
今までの統計上、霊量子を操れる素質持ちは1億人に1人か2人いるかいないかレベルであり、すでに30名近く存在していること自体がおかしいと彼は言う。
最初に響と彩音に出会った時、違和感を覚えていたのだがようやく理由が分かり、腑に落ちたハーネイトであった。
「そうか、これに類似するアイテムは他に東北、九州の2つで見つかっている。がどれも矢田神村の事件の後行方不明となっておる」
「奴ら、これも生贄に使ってソロンを……」
「何の話だ、ハーネイト君。そのソロンと言うのは」
ドガはこの宝玉がほかにも2か所で見つかっていることを話す。だがそれらは同時期に行方不明となっているという。
ハーネイトはその宝玉を利用し、膨大な霊量子を内包するそれでソロンの復活を果たし、異界化現象も併用し別世界への侵略と略奪を行いながら魔界の復興も力を借りて行うのが魔界復興同盟の目的であることをザジバルナやフューゲルなどから聞いた話や証拠の数々と照らし合わせ把握していた。
そのソロンというワードが気になったドガは問い詰めようとする。
その時、研究所内で異変が発生する。そう、異界化現象であった。あっという間に異界通路の中のような、青の電子模様とグリッド床が部屋全体どころか研究所を飲み込むかの勢いで広がっていくのを彼らは目の当たりにしたのであった。
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