第15話 記者鬼塚との共同戦線
「戻ってきたはいいけど、まだ待ち合わせまで時間があるね伯爵」
「もう少し街ん中調べようぜ。やっぱ今回の事件もいろいろ面倒な感じだしよ」
「そもそもあの亀裂に近づいただけでは何も起こらないのが通常だからな、周辺に何か条件を満たした存在だけを飛ばす装置みたいなのがあるのかもだけど、原因を作った犯人が何なのかも凄く注目している」
「俺は血徒の仕業と見ているんだが、証拠がまだ足りねえ。できれば現場を押さえたいけどなあ」
夕方になると二人は学園近くまで戻り、時間までどうするか話していた。光る亀裂の挙動について正常なのと問題があるのが混在している今の状況が本当に問題だと2人は考えていた。
そうこうしている矢先、あの男、鬼塚大和が追ってこないだろうと霊量迷彩を解除し一旦休憩を取ろうとした矢先、突然鬼塚がつんのめりながら目の前に現れ、2人と目を合わせた。
「はあ、はあ。やっと見つけた」
「わわ!霊量迷彩(クォルツ・ミラージュ)!」
鬼塚の姿を見て、2人は姿を消そうとした。しかし次に放った彼の言葉を聞き、迷彩を使用するのを一旦止めたのであった。
「待ってくれ、俺はお礼を言いたいのだ」
「お礼?どうする、伯爵」
「まあ大将の判断に従うまでだが、いっそのこといろいろ聞いてみるのもありじゃないか?記者、ということは何か情報を持っているのは確かだろう。少し危ない賭けかもだがな」
鬼塚の言葉に少し疑問を抱きながらも、まだこのエリアも含め色々疎いことを自覚しているため、できるだけ情報を聞き出しておきたいと考えたハーネイトはリスクを秤にかけて、彼の話を聞くことに決めた。
「はあ、よく追いかけてきましたね。結構体の方鍛えてますか?」
「はは、記者は足が命なんでね。昔は陸上部で活躍していたし、軍関係で働いてもいたんでね」
「は、はあ」
「あ、えーと。と、とにかく他の人よりは体は鍛えてはいる。それと申し訳ないが時間があれば少し話を聞かせて頂きたい」
聞き慣れない単語に2人は首をやや傾げ、鬼塚がそれに気づいた。それから2人に色々話を聞きたいといい、ハーネイトと伯爵も条件を提示した。
「では、こちらも聞きたいことに関しては可能な限り質問しますので、それでいいですか?」
「ああ、もちろんだ。知っている限りのことはな。元警察官だったし、そこら辺のコネはある」
「なかなか変わった経歴の人、ですね。軍に警察、ユニークというか、うん」
「今まで色々あったんでな、あの喫茶店で話をしようと思うのだが、いいか?」
「まだ時間に余裕はあるし、分かりました」
そうして3人は、学校近くにある味わい深い雰囲気で、テラスのある喫茶店「ルゴール」に立ち寄り、店内の奥にある壁端の席に腰を掛けた。
「こういう店は、あまり故郷にはなかったな。しいて言えば機士国ぐらいか」
「落ち着いたモダンな店は好みだぜ。寝るには落ち着くしな」
「二人とも、何か飲み物を。お代はこちらが払おう」
「あ、ありがとうございます。えーと、ではこのカフェラテを」
そうして数分後に、店員が持ってきたカフェラテを口に含み、味わっていたハーネイトはおいしいという表現を嬉しそうな顔でしていた。
「このカフェ、ラテですか。おいしい、ですね」
「そりゃ、このお店は周辺では結構有名店だからな。値段以上のうまさはあると俺も思う。さて、2人ともどこから来たのだ?先ほどの会話でも聞き慣れない言葉があるという表情を隠せない場面があったのだが」
「……おそらく、信じてはもらえないでしょうが。私と伯爵はこの地球とは別の世界の出身です。同じ時間軸を共有する、もう1つの地球に似た惑星の生まれです」
神様の息子、そして兵器であると言うなどというよりは、まだそちらの方がギリギリ納得させられるのではないかと考え、ある意味事実であることを鬼塚に告げたのであった。
「異世界、だと?信じられない話、と言いたいところだが様子や雰囲気から、そう判断せざるを得ないだろう……。所々雰囲気や振る舞いなどに違和感があるからな。いや、とにかく命を救ってくれたのは確かだ。改めて、ありがとうございました」
大和は、しっかりと二人に礼をしてから頼んだコーヒーを飲んで質問を続ける。
「それと、行方不明になっていた人たちを助けたのは2人で間違い、ないですか?」
「……そうです。正確には後3人、九条学園の生徒2人と私の連れが1人もですが」
「…そうか、ありがとう。本当に、ありがとう。俺の息子を救ってくれてよ」
大和は、自分が例の行方不明事件で行方が分からなかった鬼塚翼の父であることを告げ、自分も息子もこうして2人に助けられたことに感謝が止まらなかった。
その後今から2日ほど前から家に帰っておらず、警察にも話しはしたものの捜査が進展せず、独自に他の行方不明者と合わせ息子の捜索をしていた矢先に病院から連絡があり、駆け付けて無事再会したのであったという一連の経緯を話し、ハーネイトは全員がどうにか無事に戻ってこれたことに安堵しつつ、警察がうまく機能していないという点に疑問を抱いていた。
鬼塚は、自身が9年前に起きた事件で上司である、結月勇気警視を無くしており、その事件の真相を追うため警察をやめて、軍関係の仕事や記者として動くことになったのであったと2人に説明をした。
「そうですか、貴方もつらいことがたくさんあったのですね」
「ああ……あれは、まさに悪夢そのものだ。まさかここでも、あんなことがおきやしないかと思うとな」
「まあ、全員無事でよかったぜ。ハーネイトが治療もしたし、それで息子さんの調子はどうですか?」
伯爵の質問に、鬼塚はゆっくりと息子の状態について説明をした。
「ああ、家に戻ってきてから普段と変わらない感じだ。しかし行方不明になっていたことについていろいろ尋ねたのだが、光る亀裂と少女の声がしたこと以外に覚えていないらしい。しかし、翼は4人の姿をぼんやりとみたと。そして2人は同じ学校に通う友達、あとの2人は大人だったと言っていたな」
「一つ約束ですが、私たちは現在隠密行動で事態の収拾にあたっています。間違っても口を滑らせないでください。そうなると、非常に面倒なことが起きるでしょう。この事件に対処できる人物はほとんどいないのが現状です」
「ああ、約束する。俺と息子の命の恩人だしな。それどころか、何か協力をしたいと思っているほどだ」
その言葉を聞き、ハーネイトたちは拠点を作りたくても異世界から来ているため戸籍とか必要な書類、身分証明ができないので換金できる素材は色々所持していれど、この世界の通貨に換金することや土地売買の契約ができないことが目下の悩みであることを告げる。
それと、この街で起きている事件や過去に起きた集団衰弱死事件についての情報。それに付け足し響が前に言っていた、5年前に起きた世界規模での大事件の詳細について知りたいと鬼塚に申し出た。
大和は、事件の資料自体が閲覧規制やすぐにアクセスできる記録があまりない可能性に言及し先に謝罪するも、できる限り協力すると申し出る。異世界から来たのはあながち嘘ではないと感じながら、彼らなりの苦労があるのだろうと彼は感じていた。
「そうか、異世界から来たからそれは当たり前、か。ハハハ。確かに拠点はあった方がいいだろう。探偵をしているならば、なおのことだな」
「問題は黄金の塊を作り出しても、家を買うには権利がどうのこうのと。書類も複雑にしてこちらではどうやっても書けない部分がありまして、弱ってます」
「それは、そうだな。というかおい、どういうことだ。退魔士だけでなく、錬金術師か何かか?ハーネイトさんは」
「錬金、ではなく創金術(イジェネート)と。ええ。できますとも」
ハーネイトの言葉を聞いて、鬼塚は唖然とした顔をしていた。本当だとしたら彼らはとんでもない人物であり、うまく利用すれば事件の真相にさらに大きく近づけるのではないかと考えていた。そしてどうしたら空気中から黄金が作れるのか彼は頭を悩ませていた。
「どうせあり得ないと思うでしょう。私だって逆の立場ならそうですね。…お空を叩くと金塊が一つ、も1つ叩くと金塊が2つ…っと。あまり作りすぎると、これの価値が下がるので色んな元素や金属を作っていきたいですが」
ハーネイトはその場で軽く両手をパンパンとたたいた。すると空中から本物の24金を作り出し、それを手に掴んでから大和に見せる。出来た金塊を触り、顔をつねって夢ではないかと確認し、本当であることを確認したあと、複雑な表情をしていた。
「あなたは神様か何かですか?物理的にあり得ないことをやってのけるとは」
「これは自身の能力をフルに使用しただけです。こちらの世界にも、地球の書物が時々流れてきていまして、私は元素についてよく勉強しました。なのでその構造さえ分かっていれば、あらゆるものを作ることもできますがね。そもそもこうして、私たちが異世界のとある国の言葉を話せる時点で不思議だとは思いませんか?」
大和は驚きながらも質問し、ハーネイトは自分たちがかつて故郷で起きた文明退化につながる大事件の後に復興の手段として、別世界の文化や言葉などを取り入れ発展していった歴史を教えながらその過程で、日本という場所から異世界に転移させられた人たちの影響も受けている事や、言葉についてもとからある言葉とは別に勉強する環境があることを大和に教える。
「本当に、別世界の人たちにはすごく感謝しています。もしあれでしたら、情報と引き換えに何か作って見せましょうか?」
「は、はあ。いや、今はいい。あまりにすごすぎて、考えがまとまらない。そして、重要なことを聞きたい。先ほどの魂を食べる化け物を、2人は本当に倒せるのか?」
鬼塚は一番聞きたかったことを彼らにぶつけ、それに対してハーネイトは不敵な笑みを浮かべた後に、自信のあるようにこう言いはなった。
「ええ。私とその仲間なら倒せます。また大和さんと息子さん、行方不明になって戻ってきた人たちも可能性の段階ですがこちらの能力次第でその力を得ることもできるとは思います」
「それは……」
彼の言葉を聞いた鬼塚は、もしその力があったならあのような悲劇など起こりえなかったと思っていた。そして自身も響たちと同じ村の出身であり、顔なじみであることを明かしたのであった。
「そうか、先輩……勇気警視も元から霊感が代々強かったという。そして息子の響君も、か。それで、あの事件の被害者を減らすことができるのですか?」
「完全には、というと難しいですが、こちらで起きた際もほぼゼロに抑え込みました。と言っても子供と高齢者がよく魂を食べられるのですがね。あれは本来、死神というか死者を迎えに来たようなものです。もっとも、今は色々挙動がおかしいですが」
「だから9年前の事件も、高齢者の被害が多発していたのか。ならば益々、俺は2人の協力を仰ぎたい」
鬼塚は長年抱いていた疑問がいくつか解決し、目の前でカフェラテを味わって飲んでいる二人が如何に、今起きている異常事態について詳しく、そして対抗手段を持っているかを理解したうえで、協力してほしいと頼み込んだのであった。
「それはこちらもですね。よかったら、共同戦線と行きましょうか?」
「とりあえず、当分はそうした方が何かと互いに都合がよいでしょうな。拠点は、時間がかかりますが、情報については必要な時に渡しますよ。探偵らしく事件を解決してください。もしかすると、少し当てがあるのでその時はすぐ連絡するので」
「はは、善処しますよ。それと、コーヒーご馳走様でした」
こうして、互いに協力して事に当たることを約束したのであった。ハーネイトたちもまた現地調査などが忙しく過去の文献などの調査がいまいちできていない中、資料などを調達してくれると約束した大和の存在は助かると感謝する。
「しかし、コーヒーについては知っているのか。味はお気に召したかな?」
「ええ、とても。故郷でもコーヒーは昔から、地球からもたらされたものとしてよく飲まれていますので。フフフ」
「その声と話し方……。いや失礼。ああ、そういえば他にも私を襲った化け物以外の写真を何枚か持っています。調査の参考に」
鬼塚はハーネイトの時折蠱惑的で高い声に魅了されかかっていた。そしてカバンの中にあった数枚の写真と、一封の封筒を二人に手渡した。その写真を見た二人は表情を変え、この写真をいつ撮ったか尋ねた。
「あなたのカメラ、かなり特殊みたいですね。なかなか厄介な化け物が写っていました」
「ええ、昔から大事に使っているものです。そうですか、この写真は街の外れにある神社で撮ったものですが、こういうのも人を襲うのですか?」
「成長度合い次第ですが、人どころか街を襲いかねないものですね」
ハーネイトが見たものは、まだ幼生である黒白という魂食獣であった。まだ力は弱いものの、放置をすれば街を危険に晒しかねないと判断した。
また、この神社の近くにも亀裂があり当たりの物があったため付近の調査を早く行うべきだと考えていた。その話を聞いた鬼塚は、体を若干震わせながらも質問をする。
「そんなものまで、いるとは」
「ええ。正直他の世界でもいることにはいますが、今見ているこれはそれよりも厄介かもしれません。倒すには、霊量子を理解して運用できる人たちが不可欠ですね。この星の退魔士がどの程度かわからぬが、対応できる人材はまずいないでしょう」
「あなたたちのような戦う人たちは、いないとみていいでしょうね。大体儀式や祈りしかしないので」
「それで収まる連中だったら、私も隠居生活できるんですがね」
「なかなか面白いことを言いますね、私より若く見えますが」
鬼塚はハーネイトの話を聞き、彼らの力をもって初めて今起きている事件を解決し、今後の予防ができると判断していた。そして彼の冗談めいた言葉に思わず笑みを浮かべながらハーネイトの不思議な在り方に関心を持っていたのであった。
「いやあ、お金は故郷には腐るほどあるし、社員もよく動いているよ。メイドたちもいるし、あとは只管だらだらしたいね。まあ、そうはいってられない。それにしてもこの国のお金、紙幣。どうしようか」
「この国のお金も持っていないとは。それで金を作って直接渡していたのか。なんて人たちだ。そういえばこの街にも大きな図書館がある。調査以外で暇ならばそこで時間を潰して本を読むといいのではないかと。場所を示した地図を渡そう」
「図書館、ですか。いろいろとすみませんね」
鬼塚はどう見てもハーネイトが想像の範疇を超えた人間かつ、本質はめんどくさがり屋でありながら多くの人から尊敬される優しいリーダーなのだなと感じていた。その後お金の話と、図書館にも事件に関する本があると彼は二人に説明し情報を提供する。
また、ある人物が退魔士をやっていると以前から話を聞いていた鬼塚はその人物についての話も切り出した。そしてそれがある大企業の一族であり、この街にいることも告げたのであった。
「紅魔ヶ原、か。覚えておきます。しかし、退魔士の集団がいるのですね」
「もしかすると、迷彩使用時の俺たちを見ていた可能性もゼロじゃねえな」
「だが、何か協力を得られるかもしれない。今できることがこれくらいしかなくてすまな」
「いえいえ。十分すぎますよ。事件解決のため、尽力を尽くしますね」
「ああ、ありがとう、ハーネイト、伯爵。また連絡をしてくれ」
そうして鬼塚が会計を支払うと、再度礼をしてから鬼塚はその場で二人と別れた。
「いきなり、使えそうな人材が来たな」
「まあ、うまくやろうじゃん。っと、そろそろ時間だな。響と彩音に会いに行こう」
「そうだな、では行きましょうかね伯爵」
「おうよ」
それから2人は、私立春花九条学園の南門に到着し、霊量迷彩を用いて学内に入ると、待ち合わせである石のオブジェの上に2人とも座って、やや高台である学園から下にある街並みを見ていたのであった。
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