第13話 神造兵器という創造神の手先


「そ、そんなことがあったわけですか。あの、それでヴァルナーは?」


 事務所のソファーに座る4人は、それぞれ面と向かって話をしていた。そしてゼノンが気にしていた、母の気を感じる理由についてハーネイトは話を進めた。

 

 それは、ハーネイトが前に邪神と称されていたヴァルナーと同化していた魔法使い、セファスオスキュラスから彼女を引きはがし、自身の中でしばらくかくまいながら協力関係にあったことが起因であった。


 彼女の気がハーネイトの気と混ざり、一部同化している状態が長く続いたためにヴィダールの最高神柱・ソラとの激戦の後、彼の体から彼女が離れてもその気はそのまま彼の物としても存在していた。それをゼノンは感じ取ったのであった。


「はあ、よかった、うん。だけどなぜその魔法使いに……」


「聞かされて、いなかったのかい?ヴァルナーの姉で、造物主であるソラという女神のことについてを?」


「いいえ。突然いなくなったもので、私たちは途方に暮れていましたから。でも、ソラという存在については話を聞いています。他の仲間を封印しようとし逃げられた、恐ろしい存在で、ある存在を倒し世界を作り替えるために動いているとかなんとか」


 ハーネイトの言葉に動揺しつつも、以前彼らの世界で起きた事件の経緯について説明を行った。

 

 そもそもヴィダールというのは何かという話になるが、多種多様な世界を包括する巨大な入れ物、大世界を作った超次元エネルギー生命体という存在である。


 この生命体こそ、いわば人間などの高等種族などが認識する神や自然現象の正体だともいわれているのだが、少なくともコズミズドと呼ばれる地球のある物質世界の強度が強い世界ではそれを知る存在は皆無である。

 

 ハーネイトは現在ヴィダールの中で最高の地位を持つ、ソラ・ヴィシャナティクスと呼ばれる最高神の血、というか権能を分けた神御子であり、他のヴィダールの神柱ともまともに渡り合えるほどに強力な、神を倒す神造兵器という存在である。


 実態はそれ以上の存在を倒すために生み出されたとも言うが、そのそれ以上の存在について、彼は全く知らないと言う。

 

 また、ソラという女神は自身を傷つけようとするものすべてを恐れ、両親を封印、その部下を完全支配しようとしていた。それに対し別の世界などに逃亡する者、恐れず立ち向かうも退けられ邪神として追放されたものなどが存在する。


 ゼノンの言うヴァルナーという邪神は、元はソラの妹でもあり、姉の数々の悪行について指摘し改めさせようとする唯一の存在であった。だが彼女の怒りを買い封印され、ある時目覚めたヴァルナーは、姉への復讐のため人を利用し、恐るべき事件を起こしたのであった。ヴァルナーは、姉の存在を抹消するために世界を巻き込もうとしたのである。

 

だが神造兵器やフォーミッド界の人間たちの活躍で計画を阻止することができ、最終的にソラの代わりにハーネイトたちが仕事を色々引き受け代行として今に至っている、という経緯がある。


「何も教えてくれなかったわ、ヴァルナーは。でも、彼女がいたから自分たちはこうしてこられたことについては事実ね」


「それなら私もだ。全てを壊す神造兵器として生まれ、人として育ち、戦いの中で自身が何者で、何のために生まれてきたのかが分かった」


 ゼノンもだが、当然ハーネイトも最初に自身の出生の秘密に迫った時相当動揺していた。しかし彼は運命に向き合い、その結果自身で幸せを手に入れることができたのである。


 しかし彼女はまだ、自身らの運命を知る入口に立ったに過ぎず混乱していたのであった。


「行方不明事件に関しては今の状況では再び起きるかもしれない。あの亀裂周辺での現象の元をどうにか見つけないといけない」


「それにゼノンの言う、仲間であり妹であるという奴らが何をしでかすか、それが気がかりだ」


「血徒の影も追わないといけない。全貌がほとんど明らかになっていない以上、迂闊に手出しできないが、師の仇を取るまでは……っ!」


 そして伯爵はこれからまた同じような事件が起きそうかどうか彼女に確認した。それについて響はまだ起こりそうだと思いながら、被害者がこれ以上でないようにと固く誓った。


「妹たちもですが、彼女らよりも死霊騎士団と、魔界復興同盟にも注意が必要でしょうね。霊界は魔界と割と近く、その関係で魔界という世界で何が起きているか少しだけ情報は手にしてます」


「聞いたことがない連中ばかりだ。私たちが戦っていたのは魔界の獣、業魔界の侵略魔、そして霊界の魂喰獣。それと、神造兵器第二世代・微生界人の中でも恐るべき戦闘力と組織力を持つ血徒(ブラディエイター)だ」


 ゼノンの話す言葉はどれも彼らにとって聞いたことのない存在についての話であり、新たな脅威が迫ってきていることをハーネイトたちはいやでも実感させられた。只でさえ現在面倒なことが起きているのにと思うと、全員が肩を落とす。


 また彼女も、ハーネイトたちがどれだけ恐ろしい存在と戦って勝利を収めてきたかを理解し、だからこそ余裕があるのだなと思いある意味安心していた。


「俺も長らく王様をしているが、そんな連中の話は聞いたことないぜ」


「もちろん私もよ……。でも、危なそうな連中であるのはわかるわ」


 伯爵とリリーもその話にそれぞれそう述べて、今までと違った脅威に立ち向かわなければならないと感じやれやれだと言わんばかりの表情で死霊騎士などの話について続ける。

 

「きりがないというか、どれだけ野心を持った連中がいるのか」


「それだけ勢力拡大してえんだろうなあ。俺様んところはそういうの考えてねえし、相棒とこうして戦えて、最愛の彼女と生きていける、それで満足だ」


「はは、もし伯爵が本気出したら人類は3秒あれば滅ぶからな」


「へっ、そうだがそんな真似はしねえよ。俺はもう夢が叶っている。だから相棒に全てを捧げる。そんなこいつの願いは、今ある世界を統べて護りたいって。そのために共にいるんや」


 伯爵はにかっと恐ろしい表情で笑いながらそう言った。


「どんだけ自信あるのよこの人たち。ってそういえば、あなたよね?あの壁創ったのは」


「確かに俺だが」


「鎧の弁償、してもらいますからね」


「はあ?そっちが突っ込んでぶつかったからだろ」


 ゼノンはそういい詰め寄ると、伯爵も不機嫌そうに言い返す。不注意に近寄るからあんな目に合うのだと伯爵は指摘するも、彼女も引かずにらみ合っていた。


「代わりにこちらで弁償しよう。伯爵を相手によく無事だったものだ。私でさえ彼と刃を交えるのは怖れを感じるほどなのに。というかU=ONEになった彼を止められる者など……」


「それって、どういうことなの」


 仲裁する形でハーネイトはそう彼女をなだめ、彼の説明がよく分からなかったゼノンは改めてその意味を問いただした。そして彼らは伯爵について簡潔に説明をしたのであった。


 そう、このサルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンという存在こそ、ヴィダール最高位の女神ソラが生み出した究極生命体にして、2番目に作られた神造兵器群の中で最も完成された代物であった。


「何よそれ、じゃあ体が全部、微生物なの?でも幽霊、お化け?」


「お化け言うな!」


「でも微生物の、集合体なんでしょ?なんでみんな怖がらないのよ!特にそこのべたべたくっついてる貴女!」


 伯爵の正体、それは全身が無数の微生物で構成された菌の魔人。そして菌の世界の王様であった。それを聞いた彼女は震えあがってびくっとした。そしてなぜ彼の隣にいる幼い少女は全く恐れていないのかと不思議でたまらなかったのである。


「え、私?そりゃ最初は怖かったわよ。彼が私の母さんの形見を悪い親族から取り返した時も、親族全員腐らせたし。でも、彼は誰よりも優しいのよ」


「て、照れるじゃあねえかリリー」


「なんか聞き捨てならない話を聞いたんだけど、はあ」


 目の前にいる人たちが、想像よりはるかに恐ろしくぶっ飛んでいることについてゼノンはため息をつきながらも、それでも自身らを裏切った存在に対し優位に立ちまわれるのは彼らしかいないと感じ、どう付き合っていくか考えていた。


「とにかく伯爵はいろいろ規格外すぎるのでな。だが私よりも人間臭いぞ彼は」


「そういう相棒こそ規格外にもほどがあるじゃねえか」


「それは互いに言いっこなしだ。……全く、自分は異能の力を持つ自身など恨んでばかりだけど」


 少し言い合いつつも、旗から見るととても仲良しに見える2人であったが、実際は内心けん制し合っているともいう。


 伯爵の気がもし変われば、人類などあっという間に消滅させられる。しかし伯爵にとって、敵がいないと言われる中で相棒であるハーネイトが唯一、同族以外で自身を倒しうる力を得たことに恐怖を感じ、互いの利害が妙にかみ合った状態の中でこうしてじゃれ合っているのであった。


「はあ、とにかくあなたたちも、私たちの常識の範囲を超えた存在なのね。というか何で微生物の塊なのに、霊体をも浸蝕できるの?どういう原理?」


「神造兵器第2世代、微世界人。その中でも俺は神霊に近い状態なんでね、相手が幽霊だろうが神だろうが醸して干渉できるんだぜ。U=ONEアルティメット・ワンって言葉覚えときな」


「もう、色々と分からなくなりそうだけど……死霊騎士たちを一蹴できそうな感じね。そういう意味では頼れるかしら」


 伯爵の攻撃を受けたゼノンは、話を聞くほどに何故ダメージを受けたのか理解ができなかったが、ようやく原理が分かり納得するも、こんなにおっかなすぎる存在がいたことを知らず腰が抜けてしまうのであった。


 それは、このサルモネラ伯爵という微生界人はU=ONEアルティメット・ワンという伝説の存在に至っていたからであった。神霊化とも呼ばれるそれは、霊的存在にも干渉することができるという。霊騎士であるゼノンの鎧を壊せたのは、この力によるものである。


「最初からあなたたちのことを知っていたら、あんな真似はしなかったわ。本当にね。仲間たちの情報も集めれば何か分かることがあると思うわ」


「しかし、姉妹たちとなぜ連絡が取れないのかしら」


「通信ができない状況下にいるとか」


「まさか敵に捕まってたりしてねえよな」


「そ、そんな」


 それからゼノンは、何故仲間と連絡がつかないのかについて、気になっていたことを口に出した。しかしそれに伯爵が思ったことをそのまま口に出し、リリーに怒られる。


「伯爵、不安がらせること言わないの!」


「へいへい。しかし、どんな通信方法だ?」


「これです。霊界で主流の、霊量子を波にして通信する装置です」


 彼女の説明を聞き、ハーネイトは自身らの世界にある古代超文明でよく持ち入れられた通信方法ととても良く似ていることに気づいた。そのため話の理解は早かったのであった。


「私たちのCデパイサーと原理は同じだな。理解できる」


「ですが、これでの通信が現在できないのです」


「……となると、何か邪魔をしているものがあるか、彼女たちが通信圏外にいるか。それがまず考えられる」


 ゼノンの仲間であり、同じ騎士団の仲間と連絡がつかないことについて考察するハーネイトは、彼女らの通信に割り入って妨害しているものがあるのではないかと見ていた。


「後者はまずいです。でも、前者の場合だとしても、何が邪魔をしているのか」


「ここは、リリエットとボガーノード、シノブレード当たりの能力が必要か」


「あなたの仲間たち、ですか?」


「ああ、そうだ。かく言う私も、彼らとの出会いがなければ霊量子という存在に気づくことができなかった。頼もしい仲間だ」


 ハーネイト自身も、最初から霊量子の運用ができたわけではない。正確にはそれが奏なのかと気づくことができなかったのであるが、それに気づかされたのがある争いの中で起きた出来事であった。その中でできた仲間の力を借りる必要がある。そう感じた彼はどうしようかと悩んでいた。


「そうなんですね。あなたは仲間がたくさんいるようで、うらやましいです」


「……そうはいっても、昔は孤独が好きだったんだが。不思議と人が私の周りに集まるのだ」


「それこそが相棒の強みと言うか、変わったところだぜ」


「そうよね。でも、その力があったからここまでこられたのは確かよね」


 彼の意外な一面にゼノンは不思議がるも、自身らも異様な存在であることは確かで、不思議と共感を覚えていたのであった。


「あ、あの。本当に、よろしくお願いします。彼女たちも死霊騎士団に立ち向かう強者がいるとわかれば、領域内に入り込んだ人たちを捕まえて戦士に仕立て上げることはしないです。むしろ戦友がいると分かれば快諾して力を貸してくれます。私もそうですし、この出会い、何か意味があるのではないかと思います」


「それは把握している。明日から、調査と捜索を始めよう」



 そうして、事件に関する本格的な調査が始まろうとしていた。その少し前、響はやっと自宅に戻り、先に帰っていた京子に対し少し遠慮がちに声をかけた。


「おかえりなさい響」


「ただいま、母さん」


「疲れてるわね、何かあったの?」


「いいや別に」


 京子は息子のやややつれた表情を見て、事件の被害者である翼の言ったことと関係があるのかもしれないと思いその上で行方不明者が見つかったことについて話を切り出す。


「そういえば翼君たちの話は聞いたかしら?」


「あ、ああ。見つかって本当に良かった。マジで、心配したんだからな翼」


 京子は話を切り出し、被害者が全員無事に見つかったことを話し響もそれについて話をした。


「それでね、今日病院に緑髪の顔立ちが凄く整った、紺色のコートを着て刀を腰に携えている男性がいきなり来てね」


 それを聞いた響はすぐにハッとし、思わず驚く表情が顔に出てしまった。それを京子は見逃さず追撃する。


「響、私に何か隠し事してない?病院で翼君や貴方のクラスメイトから全て聞いたわよ」


「……そうか、話したところで、信じちゃくれないと思うんだけど母さん」


「いいから話しなさい、響」


「……っ!わ、分かったよ母さん。実はあの日の夜……その母さんが今日出会った男にな」


 いつになく京子の強い言動に響は、前置きで信じなくていいと言いながら最近何があったのかを話した。その緑髪の男に助けられたこと、翼たちを助けたことについて話すと京子も今日あった出来事を代わりにすべて話した。


「それで、あの病院に被害者を送り届けた変な2人組に助けられたわけと、全く……昔から気になるとすぐに飛び込むんだから、父さんと変わらないわね本当に」


「母さん……心配かけて済まなかった」


「もう、私もこれ以上誰かを失いたくないのよ、それだけは分かってね響」


「俺だって、友達があんな目に合うのはごめんだよ。大丈夫、母さんの前から理由なく消えることはないよ」


 京子は夫である勇気を故郷で亡くし、それ以降女手一つで響を育ててきた。だからこそもうこれ以上失いたくない。その思いを口に出した。そして響も同じだと言葉を返す。


「それでその2人についてなんだけど、家に呼べるかしら?」


「えっ、ちょ、さっきの話はそれで終わりなの?切り替えはやっ!昔から母さんは何考えてるのか分からない時があるなもう」


 いきなり何を言い出すかと思えば、ハーネイトたちを家に招きたいと言い出し突然ムードが変わった響は狼狽していた。


 そもそもノリのよさそうな伯爵とリリーはともかく、どうも気難しそうな一面を見せるハーネイトは容易には連れてこれなさそうだと響はそう思っていた。


「仕方ないじゃない、最初は何なのよこの人たちと思ったけど、でもみんな無事に助けてくれたし、間城ちゃんやそれ以外の人たちもみんな揃ってあの2人と響、彩音ともう1人に感謝していたのよ。悪い人じゃないのは分かったわ」


 この話を聞いた響は、母がもしかしてハーネイトに惚れているのではないかと思い心の中で呆れていた。確かに彼は気持ち悪いくらい綺麗な顔立ちだ、性格も周りに敵を作らなそうな温和で優しいところもあり、仲間や部下に対してよく気遣う人だと感じ好感を強く持ってはいた。


 だからと言って異世界の人たちをそう簡単に招いてどうなのよと思う響であったが、勿論京子はその辺の事情を知らないのでそれも把握していた彼はどうしようか考えていた。


「ということで近いうちに連れてきなさい。でないと……」


「わ、分かったよ母さん。もう、まさか先生に惚れたんじゃ……ないよね」


「一言多いわよ響。早くお風呂に入りなさい。それと、もう少しだけ行動するときは慎重になってね」


「分かったよ母さん」


 そう言われ響はお風呂に入り今日あったことを思い出しながらハーネイトたちをどうすれば家に呼べるか立ち上がる湯気を見ながら思索していた。


「はあ……面倒なことになってきた。てか翼の奴ペラペラしゃべりやがって。だけど、みんな無事でよかった。そして俺たちも……。言乃葉、これからよろしく頼むよ」


「……フッ、承知した」


 響は心の中で、今日目覚め、自身にあれと戦う力を貸してくれた言の葉に感謝しながら、共に歩んでいこうと言葉にした。それに言乃葉も重みのある、威厳のある声で返したのであった。

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