第12話 ヴィダール・ティクスを知る者
「2人とも、お疲れさま。初陣にして目覚めるとは、全くもって驚きだ」
「そ、そうっすかハーネイトさん」
「でも、まだ自信ないなあ。結局先生がいなかったら危なかった所多かったし……」
「最初はそんなものさ。その、色々と助かったぞ。感謝する」
本来ならば救助した人たちについては、もっと目立つところに彼らを運べばよかったのだが、万が一見られて犯人扱いされてはかなり面倒なことになるのではないかと考えていたハーネイトは、実は結構焦っていたのであった。
しかし響と彩音のおかげでどうにか場を収めることができホッとしていたのであった。響が機転を利かせてくれたおかげで、確実に被害者を助けられた。それも含め、2人の活躍にこれから期待していると告げたのであった。
「2人とも、お腹空いただろう。私がおごるから、どこか食べに行かないか?」
「いいんですか?」
「ありがとうございます、ハーネイトさん」
「いいってことだ。私も、お腹が空いているからな」
そして彼は暖かく微笑みながら二人を食事に誘うのであった。それに快諾した二人に便乗し、伯爵とリリーもついていきたいという。
「私もいいよね?ね?」
「勿論だリリー」
「んじゃ早速行こうぜ。駅の近くにうまそうな店見つけたんだがよ」
「あの、私もついていく感じの話ですか?えぇ……」
伯爵は、どうせ行くならばおいしいところがいいと言い、ハーネイトに駅の近くにある焼肉屋で食事するのはどうだと提案する。
それを聞いたハーネイトはそこにしようと決め、響たちと共にその焼肉屋こと「天城」に足を運んだ。ゼノンは戸惑うも、話を聞くためには彼らについていくしかないと考え渋々ついていくことにしたのであった。
店内に入り店員に案内され、座敷の席に全員座ると、伯爵が早速メニューをリリーと一緒に見ていた。
「全く、伯爵はほとんど食べないのにもう。まあいいか、好きに頼みなさいな」
「まさか、私まで……ど、どうしよう」
「まあ、気にするな。だが、更に詳しい話を聞かせてもらう」
響と彩音はメニューを見合い、店員さんを呼び幾つか注文をしていた。その間にハーネイトはゼノンに対して事情聴取をすると告げた。その反応を見つつ、伯爵が見終わったメニューを手に取り、ゼノンに手渡した。
「は、はあ。あ、あの……」
「どうかしたかい?」
するとメニューを受け取った彼女がそわそわした様子で伯爵に何かを頼もうとしていた。それを察して、ハーネイトは話を聞こうとする。
「よければ、私を正式に仲間に入れてはもらえませんか?その分他の仲間たちにも見つけ次第調査の協力を取り付けますので」
「最初からそのつもりだ。今後捜査状況の整理や調査などに協力してもらうからね。それよりも、今は食事を楽しんだ方がいい」
「……本当に、不思議な人だわ」
そうして、頼んだ料理が運ばれてくるとハーネイトはてきぱきと肉を焼いて、3人にふるまう。お金のことについて響は彼に質問をすると、金の塊で払うといい彼らを驚かせた。
実は前にもこの店に来ており、その時もそうしたら会計の人が喜んでいたため、それでよいのではないかとハーネイトは考えていた。
これを聞いた響と彩音は、この男が実は様々な意味でとんでもなく、やはり別の世界から来た存在なのだなと改めて実感させられた。
それともう一つ、この人は騙されやすい性格なのか不安にも思っていた。しかし仕方のない話である。彼らは異世界より来た女神代行にして異界化を食い止めるために来た戦士。異世界の貨幣を持ち合わせていないのは当然の話であった。
「戦った後の飯はうまいな、彩音」
「ええ。だけど、本当にいいのですか?」
「いいとも、ああ。君たちはまだ育ち盛りだ。遠慮しなくてよい」
ハーネイトの微笑む顔を見て、2人はそれ以上何も言えなく上質の牛肉を焼いて食べ、食事を満喫していた。
「まあ、俺様はもう食事などいらぬが……」
「ハーネイトはある意味神様なのに、なんで人間臭いのかしらね」
伯爵はみんなの食べる姿を見て少しぼやき、リリーがハーネイトについて少し語ろうとした。それをハーネイトはジェスチャーで、指を口に当てそれ以上言うなとそっと指示をする。
「ご、ごめっ…んなさい」
「神様、だと?ハーネイトさんって、本当に何者なんですかね。」
「リリーさんというのですか、やはり、あなたたちは彼がヴィダールの神話出身であることを知っているようですね」
ハーネイトは彼女と剣を交えた際に感じた特有の気から、実は何かつながりがあるのではないかと薄々感じていた。そしてそれは的中し、にこやかな顔をしていた彼の表情が少し曇った。
「……その話は、あとでだ」
「ハーネイトさん、その話、俺も聞きたいんすけど……」
「また今度にしてくれるか?来るべき時に話すから。ね、今は食事を、楽しもう」
「相棒は気難しいからな、まあその辺は少し気をまわしてやってくれ。辛い思いをし続けてきたんや、こいつはさ」
彼は目を閉じ、それ以上聞くなと雰囲気を出して響たちを押さえようとする。
響と彩音も、折角食事に連れて行ってくれた彼の機嫌を損ねるのもまずいと思ったし、聞くならやはり事務所でゆっくり聞きたいなと思い、ひとまず彼のおごりを楽しもうとした。
「仕方ないな、まあ今は飯を楽しむとしようか彩音」
「そうね。無理に話してもらうのは悪いわよ」
「ごめんね2人とも、ハーネイトは昔から少し気難しいのよ。ネガティブさんだし、昔色々あったみたいで。魔女に襲われたとか……」
「リリー、余計なことは……」
リリーが次から次とハーネイトのことを二人に教えようとし、ハーネイトは恥ずかしいのと、まだ知られたくないことがあるのとで困惑しつつ、自身も肉を焼いて静かに、上品に口に運んでいた。
「いやあ、こんなに肉食べたのは久しぶりだ」
「私も思わず食べてしまったわ……。体重大丈夫かな、ははは」
「まあ、明日からまた鍛錬と調査があるから2人とも、時間の都合がついたら頼む」
食事を終え、ハーネイトが代金、もとい24金の延べ棒をレジで払い、全員が外に出てから話をする彼らは夜風を浴びながら街の中を歩いていた。
そもそも代金をそれで払ってどうなのかという話があるが、店側とは暗黙の了解でそういう事になっているらしい。
響はハーネイトの創金術に関してほどほどにしておいた方がいいと指摘するが、彼もそれは重々分かっておりインフレしないように市場の様子を見ながらお金になりそうなものを適当に売ると言い、響と彩音は、換金できるところがないか後で探そうとひそひそ言っていた。
「そうですね。了解しました。では俺たちはここで失礼します」
「ありがとうございました」
学校があるので今日はこれでと、響と彩音は4人に軽く礼をしてから自宅に帰っていった。それを見送る伯爵とリリーは、彼らの在り方について何かを感じていた。
「全く不思議な子供たちだ」
「そうね伯爵。でも期待できるわよ、あの子たち」
「そう、ですね。あれまで霊能力が高い人は今まで数名しか見たことがないです」
ゼノンも、伯爵と同様に響と彩音について率直な感想を述べた。まだ高校生ながら、あの素質はもはや脅威でしかないという。ハーネイト及び伯爵と同じく、彼らは日頃から霊的な物と接触していたのではないかという考えを述べる。
「ゼノンは霊界から来たといったな。しかしとても人間にしか見えないのだが……」
「それは、私たちも人として生まれ、霊界に連れられてきたのですからね。霊界での親が、あのヴァルナーという存在ですね」
元々仮面の騎士たちも、死霊騎士たちも人であった。死後霊界に流れ着き、新たな生を得た存在が彼女たちである。ゼノンたちの霊界での親が、ヴァルナーというヴィダールの神柱の1柱であったのだ。
「難儀なものだな。それも、ヴァルナーティクスという奴の仕業か?」
「そう、です。ですが途中で彼女は行方をくらましてしまいました。あなたたちはなぜ母さんのことを?」
彼女は気になっていたことをハーネイトに尋ねた。それについて彼は事務所で説明すると言い、彼女はハーネイトの案内で事務所に同行したのであった。
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