第10話 脅威

タダノ達が決死の戦闘を繰り広げている間、手遅れでない仲間を1人を救助していたセルウェはその様子を引き気味に見ていた。


(レイラだけは息があったから連れ出したが...あれが救援か?とんだキチガイじゃねぇか!あんな化け物と2人だけで真っ向勝負なんてよ)


セルウェ達が元々いた6人で応戦し全く歯が立たなかった相手に食らいつく2人を見て吐き捨てる。撃っているのは実弾でも大したダメージを与えれていない事から無駄だと早急にさとり、撤退するべきだと考えていた。


「付き合えねぇよ...今なら逃げれる、アトラントは、あそこか」


セルウェが倒れ伏すアトラントの姿を発見し近付こうとするが途中でそばに誰か立っているのを発見し慎重に近付く。

そばに立っているのはテイルだ、テイルは簡単な治療を終え周囲を警戒していた。タダノが有り得て欲しくはないが他にもi'dが居る可能性があるかもしれないからそれを警戒してほしいと伝えていたからだ。テイルに否定はない、二つ返事で了承しその任務に勤めていた。


「誰だ」


セルウェは数秒観察に徹していたがセルウェが先に動くよりも早く音波収集機能をONにしていたテイルの方がセルウェに気がついた。

音源に向けてAL72を構えるテイルにセルウェはゆっくりと姿を表した。


「セルウェ、そこのアトラントと同じ部隊で行動していた者だ。階級は、要るか?」


「...いや、大丈夫だ。もう1人居るな、怪我人か、治療する、こっちに来い」


「あぁ、助かる。治療できるのが真っ先に殺られちまってな...道具はあるんだがやり方が分からなかったんだ」


セルウェはレイラを担ぎ、テイルの元に下ろすと自分の荷物の中から治療キットを取り出す。

それはテイルの持っているものよりも小さく、頑丈そうな入れ物だった。


「上級か、これならすぐ直せるだろう。少し待て」


「あぁ、頼む。もう、三人になっちまったんだ...ホルツは既に息はなかった...」


テイルが手際よくレイラの上着の脱がせ触診をする。状態を確認し、一番適正な薬品を選び折れている部分は簡単に固定する。先程は薬が足りなくて断念したアトラントの治療も再開する。その手際はセルウェの仲間だった衛生兵よりも上で。これで大丈夫だろうと安心したセルウェは完全にテイルに任せることにした。


セルウェは手持ち無沙汰になり、あの戦いに飛び込む気力も体力も無い上、仲間を見捨てて逃げるわけにもいかないためじっとi'dと戦い続けるタダノらの姿を眺めていた。




i'dが立ち上がり数分、その短くも気の遠くなるほど長い時間の間にボンダは数十回以上の死を感じていた。その数十回の死線を越えてボンダは1つの持論にたどり着いていた。

正気では死ぬ、常識を持ち合わせても死ぬ、狂気でも死ぬ。ならば必要なのは怯まない絶対的な自我と相棒が何とかしてくれるという信頼。


(回避して、生きていれば必ずタダノはi'dを仕留める。今はまだ殺せていないのは俺が上手く引き付けれていないからだ)


タダノへの疑いはなく、体も動くならば耐え続けよう。その思いだけでボンダは迫り来る死に怯むこと無く進む。

ボンダは何事もなくその境地に至った訳ではない。数度の死線を乗り越え、薬の保護できる損耗を越えて精神が限界に達したボンダは無意識にタダノの姿を見た。それは一瞬の不安、自分を置いて逃げたのではないか、恐怖に怯え縮こまってしまったのではないかそんな一抹の不信感が視線をタダノへ向けさせた。


そして見た、この状況に置いて全くの揺るぎの無いタダノの姿を。

その目に狂いはなく常にi'dへ向けられている、体は程よく脱力し手が軽くハイロォに添えられている、その表情に恐怖はない、怯えも震えも一瞬の怯みすら存在しない。

目が合った、お互いにヘルメット越しで夜の森の暗闇の中有り得ない事に目が合った。

タダノは1秒にも満たない間、ボンダを見つめると直ぐに視線を逸らし未だ存在するi'dを見据える。

見捨てられた訳ではない、逆だ。

確認の必要性すらないと断じたのだ。

ボンダから不要な精神的要素が消える、肉体的な疲労は色濃く残るが無視できる範囲だと確信を持ち、再びi'dへ、今度は自ら走り寄った。


i'dは幾度と無く邪魔を踏み潰そうと繰り返し失敗し、ボンダ達への興味を失いかけていた。

理由はめんどくさいから、もう既に数分間付き合わされたi'dは相手にすることの不毛さを感じ取っていた。

全てのi'dにはそれぞれ個別の目的がある、それはそのi'dと本体にしか分からず、理解でしないものでありi'dにはそれしかない。今まではその本能とも言うべき目的の邪魔を消してから進むのが最善と判断した上での攻撃だったが今この瞬間にそれは逆転し無視して逃げ去る方のメリットが上回った。i'dには無理をしてまで敵を倒す必要がない、ほんの少し残る理性でそれを判断すれば今までの執着が嘘のように切り替え逃げ出すことに躊躇いがない。


そして、それを実行に写すためi'dが片足を大きく振り上げ踏み込む、地面が割れ揺れる。そしてタダノとボンダを振り切って走ろうとした時、感じ取った。

脅威となる存在を、自分と同質の力を、目の前の存在から発せられている。ソレが完全に発芽した場合、今まで傷をつけられない存在だった者が一気に自分を殺し得る存在になる。それを理解したi'dは真っ先に殺すため全力を使うことを決断した。

その力をi'dが使うためには少しの溜めが要る、だがその少しの間ではボンダに芽吹き始めた何かは発現することはないし初見ではないもののそれが何かを理解できていないボンダにはかわすことが出来ない。


「動きが止まったぞォ!タダノォ!」


「いや、違う!ボンダ避けて!正体不明の瞬間移動が来ます!」


「なっ!?」


i'dの不審な動きにボンダ達が騒ぐがもう遅い、i'dの溜めはもう終わっており芽生えかけの脅威を取り除くためその足を強く踏み込んだ。

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自我心理の怪物 月光画面 @gotro5100

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