第8話 運命の引き金を

 アトラントが吹き飛ばされた瞬間、茂みの奥から飛び出す三人の姿があった。

 1人は両腕にAL72をぶら下げたボンダ。

 それに続くように片手にデザイナー80を持つタダノ。

 最後に救命バッグをぶら下げたテイル。

 それぞれ三者三様の顔色をしながらそれでも止まること無く巨体の怪物へと走り抜ける。


「オイオイ流石にあれは...」


「行きますよ、バイタルは生きてると表示されています。最悪でも即死ではありません!」


「私の仕事だな、了解した。手を尽くそう」


「やるしかねぇかぁ...タダノ!アレが効かなかったら即撤退だからな!」


 タダノは館で話し合った、どこまでやってどれだけが許容範囲内なのか。リスクとリターンを考え危険に身をさらす必要性を考え、見捨てたときの精神的疲労とそれによる新たな集団行動だからこそ起きる問題点が頭をよぎり、話し合った。


 銃弾はゴム弾なら全て使いきっても良い、実弾は半分までで3人のうち1人でも負傷したら即撤退。

 それがそれが即興の3人編隊による全滅、撤退判定のルールだ。

 意外にもテイルはこの話に否定的ではなかった、やるのならやる、やらないのならやらないで体力の回復に努める。アトラント達が完全に手遅れになる前に3人がここに来れたのは倒れた樹木が道を指し示していた事もあるが一番はもめること無く素早く救援に向かえたことが大きな要因だろう。


 テイルが吹き飛ばされたアトラントの元にたどり着いて最初にしたことは意識の有無確認だった。数度頬を叩き呼び掛けをして返事がないことを確認すると直ぐに触診に移行する。


「両腕の複雑骨折、全身打撲、吐血有り内臓系にダメージ、肋骨...折れてはいない」


 そう触診を終えるとテイルは救命バッグから緑色の液体が入った無針注射器を取り出して躊躇無く首筋の大きな血管のある付近に刺し込んだ。


 最新の医療製薬技術で作られた速効性の治療薬に含まれたナノマシンは全身に回り、直ぐに効果を表す。アトラントが目を覚ますと同時に上半身が跳ね起き口からこぶし大ほどの血のかたまりを吐き出す。それを確認したテイルはアトラントを背後に回り腰を掴んで引きずって近くの茂みに移動させる。


「ぁ...タダノ、か?」


「違う、私はテイル。タダノなら向こうであの化け物、i'dと交戦している」


 そう言ってテイルの差す指の先には丁度、デザイナー80の引き金を引くタダノの姿があった。



「早い硬い強いの三拍子かよ!」


「表面だけが硬いだけの虫の甲殻のようなものでも無いですしゴム弾じゃ一生勝てませんねこれ」


「どうする?撃つか?」


「へたに刺激するのも怖いですね...やるなるならやりますけど先程の消えるあの動きをされたらDeadorDeadですよ」


「そういえばそうだなぁ、なんで使ってこねぇんだ?」


 タダノボンダの2人組は何とか巨体の怪物相手に食い下がることに成功していた。

 理由は大きく分けて3つ、巨体の怪物がアトラントを致命傷にした姿が消える現象が起きていないこと、ゴム弾を惜しみ無く使って良い状況。

 そして最後の1つはテイルが持つ救命バッグの中にある薬品の1つである精神高揚剤である。戦場に向かう兵士達の恐怖を少しでも和らげるために麻薬の使用を許可していた時代があった、だがやがてその後に問題が発生しそちらのリスクの方がリターンを上回る可能性が高くなったためそれを和らげる新薬が多く開発された。

 その内の1つのこれは判断力を残す程度に精神を興奮させるという数ある薬品の中でも肉体に作用しない分効果が低い衛生兵なら誰でも持てるモノだった。


 しかし効果が低いというのは使い物になら無いとイコールではない。現在の製薬技術はたったそれだけでも兵士の心を助ける大きな力となる。


『両腕の複雑骨折、全身打撲、吐血有り内臓系にダメージ、肋骨...折れてはいない』


「通信が来ました、テイルの声です、アトラントの通信機能が破損し集音機に異常が発生して俺に聞こえてるのでしょう。この内容だと事前に聞いていた薬で何とかなるでしょうね」


 走り回るタダノの声にボンダが反応する。


「うん?よくわからんが生きてるんだな?ならよし、どうする、あそこに見えてる奴らも回収して撤退か?」


「...1人はピクリとも動かない、もう1人も肩を担がれていますが動けそうにありませんね」


 短い逡巡、タダノは迫り来るi'dから逃げながら思考を深める。それを見たボンダが足を止めくるりと反転し横に走りながら左手に持つAL72を腰だめで放つ、狙いは荒く巨大な体を持つi'dの全身を打ち付けたゴム弾はその衝撃を余すこと無くi'dへと伝える。

 それにより、ほんの一瞬i'dが足を止める。そして邪魔をする2人のうち煩わしい片方へと狙いを付け跳躍しようと力を貯めた。


 稼げた時間はほんの一瞬数秒に満たない時間。

 そしてその一瞬の時間でタダノが答えを出した。


「殺しましょう、殺せるかどうかの検証を」


 いつの間にか足を止めたタダノが音もなくデザイナー80を抜き去り、その銃口をi'dの力を貯めたその巨大な足へと向け、引き金を引いた

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