第5話 円の夢

「久し振りね、タダノ。元気でやってるのかしら」


「勿論ですよ、体調管理は基本も基本ですからね」


「うーん、そういう意味じゃ無かったのだけど。その調子だと問題無さそうね」


 薄暗くぼやけるバーに座っている『タダノ』と友人の1人とで何かの酒を飲んでいる、それを第三者視点で見下ろしているタダノ。


 これは夢だ、ある日の過去、時間と共にぼやけて薄まる淡い夢。そう自覚しても『タダノ』の体が動くわけでもないし、気分も悪くはないので、ただぼーっと眺めるに留めていた。


「で、私の開発した銃の使い心地はどう?試験したんでしょ?最高よね、ね!?」


 その友人は『タダノ』が席に座ると途端に待ってましたと言わんばかりに体をくねくねと曲げて紅潮し出した。贔屓目を無視しても美しいと思わせる容姿をした女性が端的に言って気持ち悪い動きをしているのは傍観者と見れば面白い。


「...」


「どうしたの?もしかして最高すぎて言葉もでないとかかしら、開発者冥利につきるわぁ~」


「相変わらず頭がきまってますね」


「きゃー!褒められちゃった!」


「......マスター同じやつをもう1つ」


 過去の『タダノ』がキチガイに呑まれる前に酒に飲まれにいっている姿を見ながら空に浮いているタダノは同情的な視線を送る 。

 ぼやけて見えるマスターも何だか同情的な視線を送っているように見えるのは気のせいでは無いだろうとタダノは感じた。


「...ふぅ、今日呼ばれたのはその話ですか?」


「あ!そうだった!私ね、あの超有能武器の開発に手掛けた第一人者じゃない?それでね、特別報酬の変わりに無理を言って貰ってきたの!」


「もう既に嫌な予感しかしないのですが、何を貰ってきたんでしょうか?」


『タダノ』が深く腰を掛けていた椅子から少し腰を浮かした。結果を知っているタダノは「無駄な抵抗なんですよねぇ... 」とどこか遠い目をしていた。


「これ!!試作品じゃない完成版の『ハイロゥ』!」


「っ!」


『タダノ』はあらかじめ腰を浮かしていたので素早く飛び出し逃げ出そうとする。その動きに誰も反応できず『タダノ』はドアの前までたどり着き開けようとするが、扉はしっかりと鍵が閉まっておりどのような力でこじ開けようとしてもびくともしなかった。


「開かない!?」


「すみません、お嬢様の命令でして」


「マスターもグル!?」


「そんなに恥ずかしがらなくても良いのよ?ここのマスターは私側だから、ちょーっと法律に怪しいことも見逃してくれるの」


「い、イカれてる......」


 完全に言葉が崩れている『タダノ』の非難もどこ吹く風で彼女は『ハイロゥ』を取り出し『タダノ』に押し付ける。


「これは、冗談じゃすみませんよ...?」


『タダノ』の最後の確認、ここまでされて受け取らなければ何をするか分からない彼女だが無意味にこういうことをしないという信頼に、受けとる覚悟を決めた上での最後の確認だった。


『タダノ』のここでふざけた態度を取るようなら受け取って署に出頭しようと脳裏に一瞬浮かんだ考えは直ぐ様に否定される。


「分かってる、でも絶対にこれが必要になるときが来るわ。何処か遠くに行くとき...命の危険が及ぶと思った時必ずそれを持っていって、その為の武器、その為の設計なのだから」


 薄く張っていた靄のようなものが完全に霧散する。彼女の顔がハッキリと見える。

 この表情に『タダノ』は、タダノはコレを持って帰ることを決めた。

 そしてこの言葉があったからこそ、今回の討伐に逮捕、処罰されることを覚悟で持ち込んだのだ。


 再び靄が全てを覆う、ふっと世界が暗転し...再び明転した。




「懐かしい...夢、でしたね」


「起きたか、ぴったし4時間...逆に怖ぇよ」


「寝坊しなかったのは俺の少ない長所でしたからね」


 軽口を叩きながら体の調子を確認する。


 疲労...抜けていない、が特に問題にする程でもない

 精神...あの夢を見たからだろうか、何処までも落ち着いて居られている

 装備...再装着完了。問題なし。


 完璧ではないにしろ及第点を遥かに越える状態に少しタダノの表情に余裕が出る。


「あぁ、タダノが寝てる間にこいつが起きたんだ。詳しい話はもうしたから挨拶でもしとけよ。俺は寝る」


 そう言ってボンダはソファから立ち上がりながら壁際を指差す。その先に大柄とは言えないががっしりとした体格の男、テイルが座り込んでいた。

 ボンダは大きなあくびをしながら俺に近づくと小さな声で「話はしたが聞いてない」と呟きベットに飛び込んだ。

 テイルは此方をの視線に気がつくとゆっくりと立ち上がり万国共通用に作られた『共通か国語』を話始める


「おはよう、救助感謝する。テイルだ」


「あぁ、問題ない。話は聞いてると思いますが、俺はタダノ、そして俺達は既に崖っぷちも良いところです、拾った労力を消費したその分の活躍を期待しています」


「当然、私は衛生兵。完全な手遅れ以外は助けて見せる、と言いたいが装備不足で応急手当プラスα程度が、限界だ」


「あの体が予想以上に重い理由はそれでしたか...この状況、怪我したから終わりだと思ってましたから助かります」


「......では、警戒に戻る」


 そう言ったテイルはAL72を携えながら壁に寄りかかる。

 あの状況で茂みに隠されていた理由は聞かなくても良いだろう。だが、何に襲われたのか情報は聞かなくてはならない。タダノは意を決して話しかける。


「いえ、少し話を聞きたいのですが」


「問題ない」


「では...」


 息を整え、タダノは視線を常にテイルへ向ける。無いとは思うが、一応の備えだけはしておくために。


「君が、茂みに隠されていた理由と、何が襲ってきたのかをお聞かせ願いたい」

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