第3話 死に体の彼

 2人が歩き出して既に3時間が経過した。

 道中、洋館へ行く目的の1つであった物資補給はは思いがけず解決する事になった。


「......何人目だ」


「10から先は数えていません」


「......すまん」


「今度は俺が辺りを警戒します。『補給』と『所属確認』『死因』を、お願いします」


 それは、同じ軍服を着た軍人の......遺体。

 最初に見つけたのは歩き始めて半刻も経たない、道路上に倒れる同胞の姿。

 最初、血を流してうつ向けに倒れていた彼に助かる可能性があると信じ、駆け寄って仰向けにした時、心臓のある位置を綺麗にくり貫かれ、恐怖に歪む表情をしたまま死んだ男の姿があった。

 まともに弔うこともできず、せめて遺品を回収し家族に届けてやろうと盆田が提案し同意。

 ドッグタグを回収しようとした時、予備のマガジンがまだ残っている事に気が付いた。

 その様子に気づいたボンダが『死体漁りのようで気が進まないのなら置いていこう、まだ、余裕はあるんだ』そう声を掛けてくれたが......その少しの違いで死ぬことになったらのなら悔やみきれないそう言ってタダノは持っていくことを決断した。


 それからポツンポツンと多種多様な死因で死んでいる様々な人種の軍人を発見し、精神を磨耗しながら物資を回収し続け4人目の時点で吐き気を我慢しながら2人は死体の検死を行うようになった。

 タダノは何度も吐き散らした。吐き散らし、体力を消耗させながらも、何が起きたか分からないままにしない為に情報を優先させ素人判断で何が起きたかを調べていく。

 何度も繰り返していくと、何か大切なモノを犠牲にしたような感覚のあと何が起きたかおぼろ気なままに理解できていく、不思議な感覚に襲われた。それを少しでも防ぐ為に交代しながら余裕がある方が遺体を調査することとなった。


「...... 終わった、携帯食料1日分と中身が空の水道、空の弾倉1つそして死因は......」


 タダノがぐるぐると巡り回る負の思考を中断するように努力しながら耳だけを盆田の声に意識する。

 割り切れ、割り切れと、思ったけどこの借りた物資はいつか返す、遺品を親族に渡す事で、無駄死にしたのではないと証明することで借りを返す。

 ただの自己満足で精神を持たしていることを自覚しながらボンダの報告の続きを聞く。


「今までとは毛色が違う。殺意を持って、その上で不可思議な事になってやがる」


「不可思議な事?それも殺意って今までもそうだろ」


「いや、今までは圧倒的な力で吹き飛ばされたり、潰されたり、何かの目的のついでで死んでしまったみたいな状態しかなかったんだが」


 例えば、心臓を抜かれている 足を切断されている 首を持っていかれているなどという2人が見てきた遺体の状態。ボンダのその表情は苦しげに歪んでいて、話すことすら辛いことを伺わせるが話を続けることを止めず言葉を紡ぐ。


「こいつは、まるで何度も殴ったかのような痕が人を殺すのに必要な分だけ叩き込まれている」


「......」


「まず足を潰し逃げられないようにする、次に腕を壊し抵抗できないようにし、首の骨を完全に砕いた...... 怪我の状態と周りの状態からの判断だが恐らくそうだろうな」


 タダノが一旦周囲の警戒から目を離し、戦闘の痕跡を確認する。

 いくつも生えている腰ほどのある茂み、踏み荒らされた地面に、足を引きずった跡、暫く引きずった後にAL72の破片、そして少し離れたところに手足がへし折られた遺体が静かに横たわっている。


「...そう、みたいですね」


「......先を急ぐか、これをやった奴に見つかれば死ぬしかねぇ」


「そうですね、行きましょう」


 タダノのヘルメットの機能でマップを確認し、驚きに目を見開いた。


「生態、反応あり!」


「なっ今か!?...登録してない識別反応だから近くに寄らないと表示されなかったのか?」


「恐らく...確認、しにいきますか?」


 生態反応が有ると言うことはヘルメットをかぶっておりまだ息をしているという事。ヘルメットは微弱な脳波と呼吸によって生産される二酸化炭素に反応して生存状態かどうかの判断を下す。息はある、それが分かるだけで手遅れかどうかは別だが様子を見にいくかも別の話になる。

 今現在でも2人共に限界に近い、マップの表示が動かないということは怪我でもして動けない可能性が高く治療器具も1つもないこの状況に置いてそれは絶望的だろう。

 だが、生きていることを確認してしまってそれを見捨てると言うことは。


「行くぞ...それしかねぇ」


 盆田のその宣言に只野も頷き、肯定を返す。

 ゆっくりと、慎重にその歩を進める。


「......返事は分かっていますが、一応の確認を」


「あぁ」


「要救助者を発見、我々の消耗は大。救助は」


「する」


 茂みの中。隠されるようにして気絶している1人の男を発見した。


「了解、俺が担ぎます。警戒を更に厳に、俺は拳銃しか使えない状態です気軽な援護は不可能です」


「おう、すまねぇな」


「いえ......生存者が居て良かったです」


 精神的に同じ軍服の死体を見続けるのはずっと苦しかった。体力の損耗を考えてもこれが最善であった、と思う。

 倒れている彼の下へ潜り込み左手を足へ引っ掻ける。肩と背中を上手く使い彼の体を持ち上げた。


「休憩を削り進みます、夜までには森にたどり着きますよ」


「了解っと!」


 タダノは片手を常にデザイナー80に添えながら森への道をたどり始める。

 訓練生時代に教えたもらった呼吸法を意識しながらも足の使い方、歩方を意識して疲労を軽減する。この際周りの警戒は盆田に任せると割り切り、タダノはルートが外れていないかと要救助者の搬送に全神経を集中させた。

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