第2話 陰り出した太陽

 どれくらいの時間が経過したのだろうか分からなくなるくらいにタダノ達二人は疲れ果ててしまい近くの岩影に隠れるようにして体を休めていた。

 タダノは無言でヘルメットのバイザーを下ろし備え付けられた特殊な無線通信装置で本部との通信を試みている。しかし、どれだけ応答を期待しても返事が帰ってくることはなかった。考えたくはないがこんなことが各地で起こっておりそれの対処に手一杯なのだろうと希望的感想にすがっていた。

 せめて救援物資の転送くらいは欲しかったのだが諦めるしかないな、と溜め息を1つ吐きながら隣の盆田を見る。


(......そういえば自己紹介すら済ましていなかったですね)


 何処の分隊に所属していたとか、恐らく日ノ本の生まれだろうがバイザーの下を確認していないのでそれも不明。

 お互いに体力回復のため口を開くまいとしていたが必要なことだと思い、口を開いた。


「すみません、今よろしいか?」


「...ん!?っとすまんいいぞ。なんだ?」


 今まで黙って作業していたのに突然口を開いたのでさもあらん。タダノは悪いことしたかなと内心思いながら言葉を続けた。


「えぇっと、そうだなぁ、俺はタダノと言います。階級は...」


「いらん。違いが大きすぎたら揉めそうだ、二人で指揮もなにも無いだろうしな。俺はボンダだ。同じ出身国か」


 ボンダと名乗り、バイザーを上げ顔を晒した。

 タダノと同じ『日ノ本』系の顔立ち。しかし濃い眉毛はその顔を印象立たせる。

 にっこりと破顔させたボンダは肩に掛けてある小銃を外し地面に置くと次々に装備を解除する。


「装備の点検と確認をしようか。そっちは何を持ってる?何が足りない?少ないながらも共有しよう、俺とタダノ、お前は一蓮托生だぜ。どうせお前も配布された装備以外にも持ち込んでるだろ?」


 そう言ってボンダは内ポケットから1つのマガジンを取り出す。

 手早く中身を取り出したそれに装填されていた弾薬はゴム弾ではなく、光沢のある金属で出来た本来ここにはないはずの物。


「......実弾?」


「ああ、化け物を狩りに行くのにゴム弾のみなんてふざけてるだろ?さっき死んだ上官に無理を言ってな1つだけ持ち込んだ。撃てば即座に懲戒免職だって脅されたがな」


「上官が...」


 それ以外にも様々な罪に成ると笑いながらボンダは話す。

 その価値はあった。と言いそのマガジンを床に置いた。


「この自動小銃AL72とそれに装填が出来るゴム弾マガジン2つで1つが半分以下、催涙ガス、携帯食料2日分、スポーツドリンク入りの水筒、特殊警棒...後はこの特殊繊維の軍服、ヘルメットそしてこの実弾弾倉30発入りだ。.....あんだけ転げ回ったのにこの服には穴1つないんだよなぁ。どういう理屈なんだろうな」


「対暴徒用に燃えにくく破れにくく切れない。衝撃までかなり緩和してくれるらしいですね」


「非戦闘員でこれなら前線に出る部隊に配られたって言うパワードスーツやアーマースーツはどんな化け物なんだってな」


 2人はお互いに軽口を叩き合い空気を緩め、緊張をほぐす。

 ボンダは手の内を全て晒した。本部に知らされるだけで自分へ危険が及ぶ実弾の弾倉も含めてだ。

 では今度は俺の番だろうとタダノは、先程は使えなかった物も含めて全てさらけ出そうと考えた。


「同じく自動小銃のAL72とゴム弾のマガジンが2つ、1つは9発を消費して残り21発。携帯食料二日分、特殊警棒」


 装備を外し次々と地面に並べていく。ボンダはその姿をじっと見つめるだけ、なにも喋らない。


「煙草、ライター。そして軍服とヘルメット携帯食料2日分、水筒...そして俺が持ち込んだのはこれです」


 軍服の内側、背中にくくりつけてある紐をほどきそれを2つ取り出す。


「拳銃か、ハイロゥだったかそいつは」


「よく知ってますね。完全な私物です。装填数11発特殊な弾薬のみ扱えるゲテモノなんですが」


「はは!んなことより銃器の無断持ち込みとは恐れ入った、俺よりもやべぇなお前!良くバレなかったもんだぜ」


「ははは、普段大人しくしてたらこう言うのって意外とバレないもんなんですよね今回はどたばたしてましたから余計に」


「あの上官の事だから分かってて見逃したのかも知れねぇがな...で?もう1つは?」


「...あぁ、これですね。こいつはその上官の人に渡されたんです」


 あの時は訳がわからなかった、初めは持ち込んだ拳銃がバレたのかと処罰を覚悟したタダノだがその予想の遥か斜め上を行った。

 いわく、腕の信頼できる奴に持っていてほしい自分は上手く使えんとのこと。バレたら二人ともお縄なのだからしっかり隠すようにと半場無理矢理押し付けられた物だった。


「自慢になりますけど俺、クレー射撃の大会4位だったんですよ。それを見込んで...いややっぱ違うような気もする......」


「あの上官... 今回の討伐についてなにか知ってたんじゃねぇか?それで出来るだけ戦力を高めた...」


 それだと、つじつまは合うのだろうか?とタダノは考える。

 危険を察知し実弾を望む者と銃器の成績上位者に銃を与える。ならば何故隠さなければいけなかったのか、何故公開されていないその情報を知っていたのかとなる。

 考えてもしょうがない、今出来ることをしなければいけない、胸に残るもやもやを振り払い、再び銃の説明に戻ろうとする。


「これですけど、名前はデザイナー80装填数8発のまぁ普通の拳銃ですね。とりとめて特徴はありません」


「取り回しの良さと汎用性の良さを売りにしているやつか」


 そう言ってボンダはデザイナー80を手に取り構えをとる。

 その構えは様に成っていたが何処か違和感があったのか、暫く弾倉の交換などいじくってたが銃を地面に置くと大きな溜め息をついた。


「あー、使えそうなら拳銃を1つ分けてもらおうと思ったがこれは無理だな。いきなり撃って確実に当てれる気がせん」


「そうですか?かなり使いやすいと思うんですが」


「このグリップ自体片手で撃つことも想定してあるんだか知らねぇが若干の違和感がなぁ、そっちのハイロゥはどんなやつだ?名前しか知らねぇんだが」


 として拳銃を持ちたいと言うボンダはタダノの持つハイロゥへ視線を向ける。

 タダノが2つ持つ必要はないので1つは渡しても良いのだがデザイナー80でしっくりこないのならハイロゥは扱えないな、とタダノは苦笑いを返す。


『ハイロゥ』それは、室内と言う至近距離で取り回し出来る事を前提にアーマースーツの装甲を抜く事を主題に作られた、前提からして間違っている、拳銃で一昔前の至近距離のショットガンの速射を耐える重装甲歩兵を越える装甲を持つアーマースーツを倒すと事が目的の頭のおかしい銃である。

 当然のごとく開発は困難を極め最終的に弾丸や基本構造まで一から作り出すと言う工程を得て成し遂げてしまった。

 その代償として有効射程は15mでそれ以上は空気抵抗で訳のわからない場所にとんで行き、特殊回転式弾倉の他に更に特殊なバッテリーを交換しなければ扱えない産敗と化した。バッテリーは回転式弾倉の11発を撃ちきったら丁度無くなるように調整されており使いきったら新しいのを買わなければならない。

 唯一の救いは射程圏内であれば狙撃銃顔負けの速度で真っ直ぐ飛んで行き主題通りアーマースーツを貫通できるという点だろう。


 つまるところ、これを撃ち込めば強靭な肉体を持つあの怪物にも通じる可能性が高いが反面扱いが難しいこの銃を扱えるかタダノは不安に思った。


「どうぞ、貫通力だけなら化け物ですよこいつは」


「おう、射程と威力は?」


「射程は15で、それ以上は基本的に当たらないですね。プロ野球選手の変化球並みに曲がっていきます。威力は...射程内ならアーマースーツを貫ける位ですね」


 ぎょっとしたようにボンダは目を見開き銃を見ている、正直タダノも頭おかしいと思っているのでその行為はまともだ。


「狂ってんな...」


「作った会社が会社ですからね」


「あぁ、最近オートマタにもその搭載するAIにも手ぇだしたあの会社なぁ、他の銃器もこんなんなのか......」


「はい」


「......そういや、なんでこれを私物で持ってるんだ?タダノは」


「貰いました。完成祝いだそうです」


「はぁー、成る程なぁ知り合いがいんのか」


「えぇ、そういう感じですね」


(あいつに貰ったときはかなり迷惑に思いましたが、今このときはかなりの感謝をしないといけませんね。ハイロゥは初めて開発に携わった銃器なので思い入れが強いらしいから死ぬ気配があるなら持っていけと言われましたが...本当に持ってきてよかった......)


「すみません、やっぱりそいつは俺が持っていきます」


「ん?分かった。サブが欲しいのも出来たらだからな、どうしてもって訳じゃない」


「どうも、さてホルスターを何処に巻こうか...」


 タダノは手早く抜ける様に足にハイロゥ、腰にデザイナー80を巻き付ける。そしてゴム弾のマガジンから弾を抜きボンダに手渡した。

 小銃を使うのは恐らくボンダよりもタダノの方が機会が多いだろうから効果は薄いだろうけど一応の名目で渡した。裏の目的でマガジンを懐に入れることで防御力を高めるという考えがあったがそれを口に出すことはなかった。


 これでボンダはゴム弾フルマガジン2つと実弾30発、タダノはデザイナー80が8発とハイロゥ11発、ゴムマガジン1つとなった。


「催涙は俺が持たせて貰うぜ?」


「了解、それを投げる時は撤退するときにしましょうか」


「そうだな、呼吸器があるかもわからんし軽い煙幕ぐらいと思っておくか」


「そう言えばi'dも居たんでしたか」


「おう、上官の居た付近を吹き飛ばしたやつだな。知覚はどうなってやがるんだ、ホントによぉ」


「それ以前に生物としても成り立っているか怪しいところですねぇ」


 2人の部隊を襲った『i'd』には姿形に置いて巨体以外の統一性がない、先程のi'dは腕が円柱状だったが顔の無いi'dは腕らしき部位に関節があり指が5本づつ存在していた。

 見たことの無い巨人の化け物は全てi'dと仮称しているがその内それだけでは認識が追い付かないくらいに増えていく可能性をタダノは考え内心に冷や汗をかく。

 無数の巨人の怪物、地を砕き、 吠え猛るように迫る巨体。

 そんなものが故郷の町を襲う、ひとたまりもないだろう。戦車などを持ち出して倒したとして、1体を通してしまうだけでも多大なる被害が出るからだ。


「北陸の皆さんには申し訳無いがここで押し留めないと......」


「...そうだな、あいつらは見るだけでも頭がおかしくなりそうになる。適正試験を受けて合格した俺らはともかくそれ以外は戦いにすらならないと言うのが本部の見解らしいが」


「......」


「本部との通信が出来ればなぁ、指示を仰げたんだが無理なら自力で帰るしかない。一番近い仮設基地を目指したいが...」


 一瞬の沈黙、ルートをどうするべきか考えている。取り敢えずi'dが居ないと思われる森を目指しているがそこを最終目的地点にするわけにはいかない。あくまでも体を休めて、出来れば物資を調達できれば良い。その程度の目的地にする。


 タダノはトントンとヘルメットを叩いて操作し、記録されているこの辺りの地図を表示する。現在地と近くに居るヘルメットを装備したボンダの生態反応がマップに表示される。目的地との距離、避けなければいけないであろう場所、休憩の時間を考えある程度の目算を出す。


「ここから急いでも森まで半日、夜になります。森、そして安全を確保できそうなら洋館で1泊、そこから強行軍で2日ほど進めば仮設キャンプにたどり着けるでしょう」


「かっー!遠いなぁ、徒歩以外の移動手段がなければそんなものか」


「来るときは1日かかっていませんからね...」


「何処かで乗り物を調達できれば良いんだが、犯罪覚悟で盗むとしても映画みたいにキー無しでエンジンを掛けるなんて無理だしな」


「指紋、生体、識別認証を誤魔化すなんて無理ですよ。そろそろ移動しましょう」


「そうだな。最初はゴム弾を装填しとくぜ、咄嗟に取れる場所に実弾の弾倉を用意しておく」


 2人はは立ち上がり遥か広い荒野を見渡す。人は居ない、化け物も。だが身を隠す場所が少ないこの場所は遠くからでも此方を見つけられる、ここからが正念場。


 警戒を厳に、ボンダを先行させタダノが背後を警戒する。


(本部では既に戦いが始まっているはず、最新気鋭の兵器がところ狭しと並んでいた。殆ど飾りのような扱いでしたがこの現状で使わないという選択肢はないでしょう、こちらには来た形跡がまだ無いけれど人類は戦っている、はず...)


 タダノは自分自身に強く言い聞かせ緊張で震え、力が抜けかける足を一歩前へ踏み出す。日はもうすぐ傾き出す、段々と陰り出す世界に2人は言い様のない不安を覚えていた。

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