自我心理の怪物

月光画面

序章

第1話 目が覚めた砂ぼこりの中で

 北部大陸の町外れの荒野、1人の男が気絶した男の介抱をしていた、介抱している男、ボンダは必死の形相で気絶した男タダノを引き起こす


「...っ...きろ......起きろってんだよ!」


 とうとう気が限界に達したボンダが鳩尾に重い一撃を落とす、それを受けたタダノの肺から空気が完全に抜けきり最悪の目覚めと共に視界がブラックアウトしかける。


「おし!起きたな?起きてなくてももう無理だ置いていくぞ!」


「な、にが」


「混乱すんのは後にしてくれ、逃げるぞ撤退だ」


 タダノのは誰が話しかけているかも分からないまま無理矢理立ち上がりさせられ肩を借りながら走り始める。記憶が混濁し、現状を正しく認識出来ていない状態で体に染み付いた走るという動作を繰り返す。


「衝撃で記憶がトんでるかも知れねぇから改めて説明だ。俺達は未確認生物IDの討伐に来た軍隊の後詰めで民間人の保護が目的、装備もろくにない」


「あ、あぁ...すまないもう大丈夫だ、走れる」


「サンキュー、それは良い知らせだ。で、ここからが本題だ...っ!」


 そう言うとボンダはいつの間にか握っていた鏡らしきものの破片を見ながら小さく悲鳴を漏らす 。


 直後、タダノの脇腹に鈍い衝撃が走る、ボンダの自分ごと吹き飛ばす蹴りを受け吹き飛ばされる。タダノは混濁した意識のままそれが盆田から蹴り飛ばされたと認識するまで一瞬の時間を要した。


「ごぼっごぼ!」


 突然走らされ、蹴り飛ばされる。訳がわからない事の連続で混乱から抜け出せないまま、多少のいらつきもあり文句の一つでも言おうとタダノが顔をあげた時だった。


 目の前にが地を割るような轟音と共に叩きつけられたのは。


「ぁぁあ゛!?」


 衝撃と風圧で体が浮く、理解不能、現状把握が出来ないまま更に体が吹き飛ばされタダノは地を転がる。


「ぅ...」


 軍服のお陰で傷は無いが身体中を打ち付けられ服の下はあざだらけだろうな、そんな事を考えながらタダノは体を引き釣り物陰に移動し、この何かを確認するために目を向けた。


「...は?」


 それは、人の形をしていた。手足が二本ずつ、頭が一つ、胴体が一つ。だがどれ一つとっても異常な姿をしている。

 目玉が一つ、大きな目玉をギョロギョロと動かしている、取り逃がした獲物を探しているのだろうか。その腕はの形をしており、異常に太く、長かった、長さだけで軽く成人男性2人分は有るだろうし太さすら人間の胴が2つ分はある。なにより衝撃だけで人を軽く吹き飛ばせる強さで腕らしき部位を地面に叩きつけたのに一切の傷やへこみもない。


 そしてタダノは思い出す、これは『i'd《アイドゥ》』だと。

 正確には『ID《イド》』という正体不明の化け物が発狂させた犠牲者から産み出るように出てきたこれまた正体不明の化け物。

 タダノ達の部隊が救助のために寄った街の道端に倒れていた瀕死の犠牲者を助けようとして。

 出てきた化け物に数人が潰された。タダノの上官の人物が『i'd』だと叫んできたのをタダノはたまたま覚えていた。

 必死に抵抗し、応援を呼ぼうとして...建物の影から2体目が現れ上官と通信兵が死んで指揮系統が完全に崩壊し散り散りに逃げたしたのだ。通信を受けた上官が絶望した表情をしたまま潰されていったの見て元々ボロボロだった指揮が完全に壊滅したのだ。


 只野は何も出来ない。無力感が体を支配し、心がざわつき出した事を自覚する。こんなところで終わるのか?何もできずに?こんなことなら、こんなことなら...後悔が渦となり言葉が頭の中を巡り続けた。


(こんな、ことなら、せめて......)


「逃げろ!暫くは引き付けてやる!」


 ボンダの声、それと同時に小気味良い発砲音を響かせた。

 無駄だ。自分達暴徒鎮圧チームに配られているゴム弾では、地を割る化け物に敵うわけがないとタダノは思う。


 白い巨人が煩わしそうに腕を振るう、たったそれだけで足がすくむ程の風圧が生み出される。


「早く、早く行け!」


「......っ」


(それでも、この人は自分を助けてくれた。自らが危険に成ることを承知で助けてくれた。気絶してた自分を置いて1人で逃げていれば追い付かれずに逃げれたかもしれないのに。今も、囮などせずに逃げていれば先に死んだのは硬直していた俺の方だったのに)


「俺は何してる?助けないと、助けられたのなら返さないといけない。貸しと借りは1対1でなければならない」


 再度轟音がなり響く。白い巨人がその腕を振り上げもう一度。

 タダノの背中に冷や汗が流れる。覚悟を決めるのが遅すぎて手遅れなどそれこそ死んでも死にきれないからだ。小銃の安全装置を解除しながら経過を見守る。


 巻き上げられる土ぼこりの中から男がボロボロの体を引き釣りながら転がり出る。ボンダだ。


 タダノのは安堵の息を吐きながら小銃を構える。狙うは目玉、次点でその足だ。腕は固すぎて話にならないだろうと予想を付けた結果の判断だ。

 ボンダの無事を確認する声は出さない。不意打ちは一度きりを確実に。


 腰を落とし銃を安定させる、視界のギリギリ外斜め後ろから飛び出る目玉に標準を合わせる。

 セミオートで2発撃ち込み結果を認識する前に足、それも膝裏の関節らしき部分を狙ってゴム弾を3発ぶちこむ。


『ォォオオオ!!??』


 全弾命中。不意打ちだからか目玉にクリーンヒットし白い巨人が悲鳴をあげる。足はこれぐらいでは崩れず体制が崩れた程度に収まる。


「今です逃げましょう!」


 今度はタダノがボンダの手を引き、走り出す。何処かは分からない、人から生まれたあの化け物だ人の居ない場所を探せばあるいは...

 辛い行軍の記憶を思い出しタダノは人の居ない場所に検討を付ける。


「...逃げなかったのか」


「......」


「助かった...」


「......このまま森に入ります。遭難の危険がありますが」


「はは!あの化け物に殺られるよりマシだろ場所は分かるのか?」


 タダノは必死に記憶を漁る。ここの現在地、通った記憶がある、ならばと更に思い出す。


「有ります。来る途中山と洋館らしき屋根を見ました。洋館が不安要素ですがどちみち人の居る場所にいかなければ飢えて死ぬでしょう」


「違いねぇな、あの化け物らの大きさからその洋館がでかくても中には入れねぇだろ。外から見て行けそうだったら入るか」


 その言葉に頷いてタダノは走りながらもちらりと背後を見る。

 先程の化け物は既に遠くに見え此方を追いかけているようには見えない。だがもしかしたらの恐怖を払えず完全に姿が見えなくなるまで2人は走り続けた。

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