第51話 水礼祭二日目



 シュナイデ 大通り二番 出店通り


 水礼祭二日目、最終日。

 本日の姫乃達の予定は午前中に町を回って、午後に港で行われる水上ショーに出る、そして最後に船の中で行われる後夜祭に参加する……といった具合だ。


 ショーの出番の時間になるまで、護衛としてつけられたエアロと共に屋台をねり歩きながら、祭りの空気を肌で感じていく。


 シュナイデは海に面している町だけあって、食べ物屋などでは、新鮮な魚を使った料理が提供されていたり、魚の解体ショーなどがあった。

 その中で驚いたのは、お醤油じゃなくて果物を使ったソースで食べた刺身だ。


 お店の人の話では近場の果物を使っているが、果物の生産で有名なエルケのものならもっといい味がだせるだろうと言っていた。

 なんだか自分の住んでいた町を誉められたみたいで少し嬉しい。


 他には、この地域の特産品がならんだそれぞれの露店を見比べたりもしてみた。

 綺麗な細工が施された小さなアクリリュートがそのまま売られてたり、首飾りなどの装飾の付属品として売られてたりしていた。

 後は、東の島で作った焼き物や使用済みのキリサメ灯の石などの品物も、少なからず並べてあった。


 けど、それだけじゃなくて見た事がない、色々な地方の物が店ではたくさん売られている。


 そういうのを見るとよく文化の違いとか、積み重ねた歴史の違いとかをよく感じられた。


「昨日はレースもあってよく周れなかったけど、こうしてみると凄い賑やかだよね」

「ほんとだねー、まさにお祭りって感じだよー」

「わいわいしてて楽しいの」


 だが、そんな中で一番好き勝手やりそうな未利が大人しいのが気にかかった。

 朝からずっと元気がないみたいで、口数も少ないのだ。

 どうしたんだろう。

 聞いてみても、「大丈夫だから」としか言わないし……。


 そんな風に町の中をあっちこっち歩いての店を見たり、食べ物を食べたりしていると、段々と人の視線が気になって来た。


「ほら、あの子じゃない?」「そういえば、昨日のレースに出てた」「あんな子供達がか?」


 レースで優勝したなあちゃんの事かな、と思ったのだがそれだけじゃなかった。


「あんな子供達なのにすごいなあ」「どうやって練習したんだろうな」「鳥なんて飼育するのもお金かかるんだろ?」


 出場選手たちの平均年齢から一回りも二回りも若い、姫乃達全員が視線の対象だったのだ。


「だから、町に出たらこうなるかもしれない……って言ったじゃないですか」

 

 城を出る前に忠告してくれたエアロが呆れたような視線をしてる。

 ごめん。こんなになるとは思わなかったんだ。


 その中には、関心や驚愕とは別の反応もあった。


「まああれだ。生きてりゃいいことある」

「がんばれよ。ある意味すごかったぜ」

「どんまい。気にしちゃ駄目よ」


 未利だけが同情のと励ましの色を含んだ視線、そして言葉を掛けられていた。

 悪乗りした人々が肩を叩いていく。

 あ、それやったら怒りそう。


「ええい、あたしゃ見せもんかっ! そんな可哀想な生き物を見るような視線を送んなっ!!」

「あははー、人気者だねー」

「ぴゃっ、未利ちゃま怒っちゃめっなの。」


 当然切れた。


「あ、可愛そうなニンゲンだー」「不幸なニンゲンだ」「追い打ちかけろ」「それ追剥ぎだあ」

「子供にまで!? ちょ、っ寄るな来んな、そして憐れんだ視線を向けんな!!」


 子供達にたかられた未利は、数の暴力によって翻弄されている。

 服を引っ張られ、体当たりされ、ぶらさがれたり、色々だ。

 すごく大変そう。


 でも、元気になったみたいで良かった。


 そんなこんなな調子で祭りを楽しんでいくと、小一時間もしない頃には……


「祭りだ、蹂躙しろい」

「わはー」「わー」「やはー」「なの!」


 何か、もうすっかり普段の調子に戻っていた。

 その後、


「も、もう勘弁してください……」


 シュナイデの休憩寮に住んでいるという子供達と意気投合した未利は、出店を蹂躙して楽しんでいた。


「どんまいー」


 涙目になっている店の主人を啓区が遠くから慰めている。

 さすがに可愛そうになって来たので止めに入る。


「未利、その辺にしてあげた方がいいんじゃないかな」

「でもさ、姫ちゃん聞いてよ。さっきコイツすっごい嫌みな顔して「何だ子供か」って言ったんだよ、ぎゃふんと言わせてやりたいじゃん」

「それは、そう思うかもしれないけど。もう泣いてるし許してあげよ、ね?」

「えぇー。……はぁ、仕方ないなぁ」


 そんな言葉でようやく解放された店の主人が、姫乃を拝み倒す勢いで頭を下げて感謝の意を表してくれるが、注目されて恥ずかしいので慌ててその場を立ち去った。


「お菓子、おもちゃに、ナニコレ装飾品? うわ、要らないし」


 未利は出店の輪投げで得た戦利品を楽しそうに子供達と分配している。


 しばらくしていると、子供たちの保護者らしき女の人がやってきて、目を離しているうちにいなくなったという子供達をにこやかに脅した後、姫乃達に礼を言って去っていった。


「まったく、いくらはしゃいでても子供だけで出歩くとかどーよ」

「ふぇ、でも未利ちゃまも昔よくしてたの。冒険だって言って外でて……むぎゅっなの」

「はいはい、なあちゃんはお菓子食べててね」

「あむあむあむ、美味しいの」


 どうやら人の事は言えないみたいだ。


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