第44話 こんな子だっけ?
未利と姫乃達は、大会関係者と共にレースの最中に不穏な会話をしていた選手をつきとめようと移動していた。(なあちゃんは、啓区と一緒に休憩している最中だ)
そこに、選手達がいる控室に戻ろうとするエアロがこちらへ歩いてくる。
コヨミの様子を見たいと言っていたので、一時的に離れていたのだ。
戻って来ていたらしい彼女は何故か杖を手にした状態でこちらに話しかけてきた。
「先ほど戻りました。それであの……、皆さん。部屋の前で、あの人達が何だか物騒な話をしているんですが……」
エアロは、迷惑そうな表情で部屋の方……、正確にはその近くにいる男女を視線で示した。
姫乃達はその言葉に顔を見合わせ、そちらの方へと近づいてく。
確かにエアロの言う通り、男女二人が話をしている声が聞こえる。
一人はレースの優勝候補である女性選手、ライア・ミティシーだった。
もう一人は、なんだかつい最近視界の中に入れた事があるような男の人だ。
「レースを中止にするつもり!?」
「……きひひ、そ、そうだ、だから大人しく言う事、聞け」
姫乃達の耳に入って来る言葉は、何だかとても穏やかならざる言葉ばかりだった。
どうやら二人はレースの未来を巡って言い争っているらしい。
「そんな事して許されると思ってるの!?」
鋭い声の一喝と、ライアにの眼光に射抜かれた男性は体を一瞬びくりと震わせたものの、視線を泳がせながら答える。
「そそ、そうだ。犠牲が、出ても……い、良いのか……」
「良いいわけない! でも、中止になんてさせないわ。皆、この日を楽しみにしてたのよ! こんな時ぐらい辛い事を忘れて笑っていたいじゃない。貴方はそんな時間を台無しにするつもりなの!?」
「俺には、かか、関係ない……。優勝、俺の。お、お前、……きき、棄権しろ。ほ、本当は、大会、中止になるはずだ、……だった。なのに、予備の選手……ここ、子供入って……、続行。裏から手を回したのに、だから、お前、棄権だ」
あ、私達がレースに出ちゃったから、こんな事になってるんだ。
男の声を聞いて、姫乃は自分たちがレースに出られるようになった原因を知った。
この事、雪奈先生知ってたのかな。
全然姿見当たらないけど。
「ていうか、アイツ何か様子おかしくない? なんか普通じゃないって言うか、変人みたいな」
「人に対して言うような言葉ではないと思うんですけど……。でも、確かにろれつが回ってませんし、挙動もおかしいですよね」
仲違い中を意識しつつも、エアロは私情を交える事なく意見を口に出す。
それを見て、気まずいのか未利は微妙な表情のまま顔をそらした。
一緒に行動する機会は増えたはずなのに、一向に歩み寄る気配がないんだよね。
「きき、棄権……しろ」
「私一人がいなくなったぐらいじゃ、中止になんかならないわよ。私はどうしてもこのレースで優勝しなきゃいけないの、今代の姫様は肝要だって話だから。それで姫様にお願いするのよ。イビルミナイをもっと住みやすいようにしてって。こんな話、あなたを捕まえれば済む話でしょ」
そうそうと同意するように頷く未利を見て、今度はエアロが微妙な顔をしていた。
二人共……。
互いに距離を広げ合ってどうするの。
とにかく、ライアにはライアなりの、この大会にかける理由があるみたいだった。
皆、色々な思いを抱えて今日のレースに臨んでいるんだよね。
もちろんそうじゃなくったって、卑怯は許せないけど。
男はライアの言葉を聞いて、その言葉を待ってましたとばかり表情を変化させる。
あ、何か良くない感じがする。
「そ、そうかそれがこ、答え、か。きひひ……言う事を聞かないなら爆破す……するぞ」
「まさか……」
不気味な程笑顔になった男は、四角いボタンのようなものを取り出して、ライアに見せつける。
姫乃は自分の目を疑った。
なぜならそれは、機械のように見えたからだ。
どうしてそんな物を持っているのだろう。
男はそれを躊躇なく押すと、離れた場所……レースコースの一画が爆発した。
「本当にやるなんて、何て事を……」
「もっと、ここ……、壊してやる」
絶句するライアの前で男がまた何かを取り出そうとしたところで姫乃は動いた。
これはあれだろう。やるしかないだろう。
「えいっ、ファイアっ!」
というわけでやってみた。
姫乃は躊躇せず、男を炎で吹き飛ばしたのだった。
「姫ちゃん……。ナイスだけど……、ちょっと思い切り良すぎない?」
「比較的まともな方だと思ってたんですけど、わたしの勘違いだったんでしょうか」
そんな光景を見て、未利とエアロのそんなコメントが聞こえた。
あれ、何か違ったかな。
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