第1章 やりすぎ



 シュナイデ 悪徳通り イビルミナイ 『緑花』


 そこはシュナイデ領都内の一画、治安の良くない場所だった。

 シュナイデには大きく分かれて、三つの場所がある。ほんの一握りの富裕層のものたちが住む高層地帯ヘブンフィート、一般的な所得の者が住むカランドリ、そして所得の低い者達の住むイビルミナイ。


 イビルミナイのその場所では犯罪は毎日のように発生する。通りで女性や子供の一人が一人歩きしている姿はまず見かけられない場所だった。


 しかし、そんな見るから危険そうな場所を二人の子供が歩いていた。


「緑花さんっ、今回の依頼頑張りましょうね!」

「そうね、たすきが別の仕事に入っちゃったから初めてのコンビになるわね。よろしくお願いするわ」


 楽し気に会話するのは快活そうな印象を受ける少女と、一見少女にも見える可愛らしい顔立ちの少年。

 緑花りょっかとミルストだった。


 彼女等はとある場所で受け取った依頼を、荒くれ者退治をするためにここに足を延ばしたのだった。


 二人は今は、顔を隠すようにローブを着こんで歩いている。

 当初は何の対策もせずそのままの姿で行こうとした緑花にミルストだったが、コヨコ達や華花(はなか)などが猛烈に反対した為今の様な姿になった。


 何か因縁をつけられた後でも、襲撃してきた者達を百パーセント返り討ちにできるであろう実力の持ち主の緑花達。

 そんな彼女達が姿を隠すのは、自分達のためではない。

 成敗された人間に顔を覚えられ、仕返しにきたせいで周囲の人間に迷惑がかかることを防ぐためだった。

 花華や水連は特に戦う力を持っていないし、何の関係もない一般人たちに迷惑をかけるわけにもいかないということで二人は納得したのだった。


「今更だけどミルストの髪って白なのね。他に見た事が無いから気になったんだけど」

「あ、はい。これ、体内の魔力量が多すぎてなっちゃってるみたいです。最初はこんなじゃなかったと思うんですけど」

「魔力の量で髪の色が変わるの? 不思議ね」


 世界が違えば人間の髪色も違うものだと納得していたが、そんな理由があるとは思わなかった。


「そうみたいですよ、最近分かってきた事ですが」

「へぇー」

「白桜だって魔力をたくさん内包してる影響で白いですよね。昔でいえばクレーディアって人が白髪だったみたいですけど、それ以降はあまり見ないみたいです。すごく珍しいみたいで。まあ、目立つからトラブルに巻き込まれやすいし隠したいって理由もあると思うんですけど」

「じゃあ、ミルストも大変だったのね」

「僕は、それほどじゃないですよ。幸いにして魔法の才能がありましたし」

「確かに、凄かったわね」


 以前に受けた依頼にて発揮した、ミルストの魔法の威力を思いだし、緑花は納得する。

 あれは凄かった。

 なんか呪文みたいなのを一言喋ったら、建物がボーンとなったのだ。

 一瞬で爆発して破砕して粉々だ。

 凄かった。

 そうとしか言い様がない。


 しばらく緑花達はそんな感じで、とりとめのない雑談をしながらイビルミナイを歩いていた。

 話ながらも二人の足はとある場所に向かっていく。


 そこはゴロツキのたまり場だ。背の高い建物の裏手にある場所のそこに、素行の良くなさそうなお兄さんたちがたむろしているらしいのだ。

 目的の人物の目撃情報があったから。


「着いた、ここね。あ、いたいた」


 足を止め、建物の角から覗き込む緑花。

 聞いていた特徴どおりの姿を見つけ、安堵する。

 無駄足を踏まずにすんだようだ。


「トサカ頭に白い羽毛のマント……。 本当にそんな人物がいたのね。ニワトリの仮装でもしてるのかしら」

「緑花さんっ、依頼はあの人を懲らしめるんですよね!」

「ええ、そうだけ……。あ、ちょ」


 ミルストは、そこにいきなり魔法を打ちこんだ。


「ファイア!」


 持っている杖の先の空間から炎の渦が出現、トサカ男を襲ったのだ。


「うお、熱ぃ、あちちちち」


 ゴウゴウ音をたてて、大変勢いよく燃え盛っている。


「や、やりすぎよ!」

「え、そうですか? すいません。ウォーター」


 再び魔言を唱え、トサカ男に大量の水をお見舞いする。

 凄い勢いで。


「うわああああ……」


 悲鳴を残しながら男は遥か彼方まで吹き飛ばされていった。


「ミルスト……。やりすぎの意味、理解してる?」

「?」


 してないようだった。


「何か違いましたか。ひょっとして依頼内容を間違えたとか」

「違わなけけど……、違わないんだけど……」


 どう説明したものかと悩んでいると、その場にいた他の者達が二人を取り囲んだ。


「あぁん? 何してくれとんじゃワレェ」

「どー落とし前つけてくれるんだよぉ」

「ケンカ売ってんのか? 買ってやんよぉ」


 無駄だとしても、できればまず最初に話をしたかったと、緑花は思った。

 細かい事とか考えられない性格ではあるが、戦闘を回避する方法があるならまずそうしている。

 好き好んで争いに飛び込んでいっているわけではないのだ。

 だが起こってしまった事はしょうがない。


 緑花は思考を切り替えた。


「しょうがないから初仕事として張り切ってやらせてもらうわよ。この辺りに住んでいる人達が迷惑しているの、依頼料は少ないけど、しっかりこなさせてもらうから」


 一人は拳をならし、もう一人は杖を構える。

 緑花とミルストは臨戦態勢。次の瞬間には嬉々として荒れくれ者達へと突っ込んでいった。



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