第14章 真相
ロクナと黒い魔獣との戦いの後、姫乃達は集会所まで戻ってきた。
と、言っても中には入らず、建物の外にいるが。
そこまで戻ってきた後、姫乃はラルラに聞く事があった。
ちなみにレトはいない。彼は先ほどの事についてバール達に報告しに行ってもらっている。
「あの人が言ってたことは本当なのかな?」
姫乃は周囲に人がいないことを確認してから、気になっていたことを訪ねた。
「ラルラ君は、あの人が私達を殺そうとする理由に心当たりがあるんだよね」
「まあなー」
ラルラはいつもと変わらない様子で肯定する。
最初はバールたちにも聞かせようと思ったのだが、それは他でもないラルラ自身に止められた。そしてどうしてだか、集会所に戻る前にまず姫乃達が聞いておく事になったのだ。
本当どうしてだろう。
未利と啓区が内容の危険度について尋ねると、ラルラはこくりと頷きを返す。
「人払い……とはちょっと違うか、場所を選んだって事は何かやばそうな話?」
「聞いたら口封じされちゃうーとかかなー」
「まあ、体のいいスケープゴートてやつだからなー」
彼らがそう会話すれば、なあがこっくりと首を横に傾けた。
「ケープゴーストさんなの?」
「なあちゃん、何かゴースト系のモンスター名みたいになってる。まあ、意味は……説明しないほうがいいか」
そんなやりとりを横でしたあとに、ラルラは詳しく説明してくれる。
「あくまでも自分の考えだけどなー」と前置きとして。
「推理みたいになるけどなー。あの敵の兄ちゃんがそうだって言うなら間違ってはないと思うぞー」
先ほどのことを思い出してるのか、らルラは空を見上げながら建物の壁に背中を持たれさせて、腕を組む。
「行儀が悪いよ」って言いたかったけど、今はそんな事気にしてる場合じゃない。
ラルラは前置きして、内容を語りだした。
「ちょっと、他の人には特に町の兄ちゃん姉ちゃんたちには刺激が強すぎるかもなー」
あのなー。
港では何か凶暴な魔獣が暴れてして、船がばんばん沈んでるらしくてなー。避難する人達の船が足りなくなってるって話なんだぞー。予定よりも島からの脱出が遅れてるらしいってなー、大人達が話してるのを聞いたからなー。
でだなー。そこでどうしてもさっさと逃げ出したい人間は考えるわけだぞー。人数をとりあえず減らしちゃえばいいかもなーって。
簡単な理由だろー?
と、ラルラは腕組してうんうん頷きながらした説明を終えた。
「ぴゃ?」
「え、ちょっと待って。それって。どういう……」
理解が追いついてないのは、なあと姫乃だ。
反対に未利と啓区は分かっているようだった。
「……ふん」
「なるほどねー」
二人の方を見て見る。啓区は心中は分からないが、未利は分かりやすく憤りの感情を表情に出している。
「まだ分かんないのかー。なあの姉ちゃんはともかくとしてなー」
壁から背を離したラルラに言われて、姫乃はだんだんと理解してきた。ラルラが説明した言葉の意味を。
だって、それって、つまり。そういう事……?
姫乃が結論を述べるよりさきに、未利が冷たい声で答えを告げる、
「つまりは、自分達が助かる為に同じ町の人間を犠牲にした、ってそーゆー事でしょ?」
啓区がその言葉を引き取って、確認の意味でこれまで起こった事を訪ねていく。
「それじゃあー、薬がすりかえられてたのもーキリサメ灯がつけられてなかったのもー、あの人が襲ってのもー、そんな感じかなー」
「むしろそれ以外に何があるんだって思うけどなー。厄介な体質の持ち主も、簡単にまとめて処分できるしなー」
ラルラはやっと理解が及んだか、という態度。
犠牲にされる所だったのに、当人であるラルラには怒りも憤りも感じられない。
そこで、首を傾げつつも自分なりに話をかみ砕いてきいていたらしいなあが、悲しそうに言葉をはさむ。
「どうしてなの? ラルラちゃまは物じゃないの。しょぶんは物を捨てるときに言うって知ってるの。人はしょぶんできないの。でもでもなの、物も簡単にしょぶんしちゃいけないってなあ知ってるの」
なあの疑問に誰も言葉を返せない。
純粋な性格の彼女が言うからこそ、かもしれない。
どうして?
どうしてなんだろう。
どうしてこんな事ができるの?
その場に満ちた空気が重くなるのを感じていると、啓区が新たな疑問を声にした。
「でもー、これぐらいの事で、船に乗り込むのってそんなに順番が変わったりするー?」
そして、「ここにいる人達ってそんな大それた人数じゃないよねー」と続ける。
確かにそうだ。せいぜい十数人程度だというのに。
「そこのところは子供には分からないんだぞー。お偉い大人たちが、何か根回しでも暗躍でもしてるんじゃないかー?」
そのあたりの詳しい状況はラルラにもよく分からなかったらしい。
年齢が年齢だし、そこまで分かってたら逆に怖いというか驚くけれど……。
話しているとだんだん気分が沈んでくる。これ以上は頭を悩ませたくなかったがそうもいかない。考えないといけない事があった。
「この話、どうしよう」
この事をバールたちに教えるかどうかという事だ。
皆、顔を見合わせる。
「さすがに、言えるワケない……か」
「どうしようねー」
できる事なら言いたくはない。
しかし、そんな結論でいいんかとばかりにラルラが会話に割って入る。
「でもなー、言わずにロングミストの町行ったら大変だぞー、そうなった時どうするんだー?」
それもそうだ。
そっちの方が知った時よりも、よりまずい事になる。
ラルラはこちらの気持ちを確かめるように、姫乃の瞳を覗き込む。
ため息をつきそうな素振りを見せた後、言葉を続ける。
「けど、ねーちゃん達は当事者じゃないだろー。そんな真剣に悩まなくったっていいと思うぞー」
「でも」
それだったらどうして姫乃達だけに、この事を話したんだろう。
自分では、真相を話したくないから。姫乃に話すかどうか決めてほしいからじゃないのか。
「バール達にはどっちみち話すつもりでいたけどなー。姉ちゃんたちに先に話したのは自分の立場について、早めに決めといた方がいいと思ったからだぞー」
立場?
「ここを出れたとしても町の人間達と一緒に行動してたらまた巻き込まれかねないって事だぞー。もともと他人なんだししなー、そんな人知りませんって顔をしておけばー、暗殺者につけれ狙われる事もなくなるんじゃないのかー?」
そんな事考えてくれてたんだ。
ただ、それについては。
「なあ思うの、それはラルラちゃまを知らない人になってほしいって事なの。なあはそんなの嫌だって思うの」
なあと同じ意見だ。
ここまで一緒に来て放っておくなんて私にはできない。ましては関わりを消すなんて。
それが出来てたらきっと、今頃私はこんなところには来てないだろうし。
「予想してたけどやれやれだなー」
ラルラはそんな姫乃の表情を見て、肩をすくめてみせる。
そして、「でも悪い事ばかりじゃなくてよかったぞー」と続ける。
「バール達を巻き込んで自爆するような事にはならないで済んだしなー。なにより町に着くまでには。否定されるかもとは思ったけどー、暗殺者とやらが出てきたおかげでこの話の説得力が出てきて助かったぞー」
それは、何も起こらずにバールたちに真相を話しても信じなかったという事だろう。
キリサメ灯のことや薬のすり替えだけなら、単なる思い込みや勘違いで済んでしまうからだ。
ひょっとしたら少しは、ラルラが言った様なことも考えなかったわけでもないかもしれないが、目に見えるはっきりとした証拠がないかぎり、意図的に仕組まれたものだという結論にはならなかっただろう。
「そこら辺は本当に良かったぞー。だって、そうだろー? 信じて町にたどり着いて無警戒で出ていってもなー、背中からぐっさり刺されるだけなんだからなー」
姫乃達がロクナたちの襲撃に会わなかった場合、運よく暗殺者の手にかからずに町にたどり着けたとしても彼らの運命は……。
考えたくない事だった。
だが、その前の一番最初の街道で、あの霧の魔獣に全滅させられてたかもしれないけれど……。
話の終着点が見えてきたところで、不機嫌な感情を隠さない未利が吐き捨てるようにつぶやく。
「嫌な奴」
「そりゃ、命狙ってくる人が良い人なわけないよー」
「うっさい、餅」
「僕、餅にされちゃったよー。いひゃいー」
「で、今回のことを発案した奴、計画した奴は? そこんとこは分かってんの?」
隣の餅……ではなく頬をつなりながら言う未利は、ラルラに気になったことを尋ねる。
「さあなー。でもただの一般市民がするにしては結構でかい事だと思うぞー」
「てぇと、上の連中か。それも複数人」
薬をすり替える事も、キリサメ灯をつける事も、暗殺者を雇うことも、全部を一人でやるには不可能なことだ。
そこまで会話を聞いて考えた姫乃は思う。
「よく、そこまで考えられるね」
そんなことまで思い至る未利に感心すれば、彼女は心底嫌そうな顔をした。
「あー、何か。習性?」
そんな餌を集めてくる動物みたいな風に言わないでほしいけど。聞かれたくない事?
そういう反応するときって大抵、何かを誤魔化したいって思ってる時だよね。
「それが嫌なら、ここにずっと残るって手もあるけどなー」
ラルラの言葉に、それはさすがに嫌だと思う。
「結局、話すしかないんだよね」
となると、とる行動は一つしかない。気が進まない事この上ないが。
「そうだよなー。そうなるよなー。まあ、ちょっと前までは、残るのもいいと思ってたけどなー」
ラルラはそんな姫乃の出した答えに、小さく呟いた。
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