第32章 一筋の希望の光
セルスティーは、姫乃達の顔を一人ずつ見つめながら言う。
「単刀直入に言うわ。
これが私の目的。とセルスティーは言葉を続ける。
「少し前までは、私の計画が有効なものなのか分からなかったし…人々の不安を無闇に煽りたくなかったから言えなかったの。真偽が不確かだったというのもある。そして、あなた達が信用できるか分からなかったから。」
「……今はそうは思ってないけれど」とセルスティーは何故か話の途中で、未利の方へ視線を投げていた。
見つめられた方は、気まずげに視線をそらして、なあちゃんに気付かれている。
「未利ちゃまどうしたの」
「なんでもっ。耳元に虫がいた気がしただけだし」
とか小声で短く言い合っていた。
「今の状況なら計測器の結果は出ているし、私の予想は的中していたみたいだったから、話しても問題ないわね。聞いて恐慌を起こしそうな人々も周囲にいないもの」
と、いう事はそれなりに恐ろしい話だったりするのだろうか。
ちょっと聞くのが怖くなってきたけど、耳を傾けないわけにもいかない。
姫乃達の旅の理由だ。気になるし、知りたい。
「あの計測器は、空気中にある闇の魔力の量を調べるための物、それは分かっているわよね。なら、結果を言うわ。……信じたくない話だろうけれど、ごく微量の闇の魔力が検知されたわ」
その言葉は、エルケの町の空気に闇の魔力があったという事を示す。
「どうしてそんなものが……」
魔大陸でも聞いたけど、闇の魔力は生物の体に良くないようだった。
ルミナリアが心配してくれていたのを思いだす。
魔大陸を覆い、あの学校内に満ちたていた黒い靄……、あんなものを吸い込んでしまったら、体にいいわけがない。
だが見た感じ、エルケにそんなものは見えなかったはずだが。
微量、というなら目で見て分かる様なものではないのだろう。
「あれだっけ、空でルミナリアが説明してたとかいう、
「専門用語も未利にかかればシリアス成分が激減だねー」
「なあ、シリアルって確か食べ物だった気がするの。シリアルさんが厨房で汚染されちゃったの? なあくんくんして探してみるの」
食べたら大変なの! と、くんくん嗅ぎだしたなあちゃんは、その行為で空腹を思いだしたようでお腹の音を立てる。
「お腹のお虫さんが、お腹すいたよーっていってるの。なあ、ごはんあげなきゃ」
「いやいや、腹ん中に虫はいないから。それ、前読んだ絵本の設定だから。ていうか、探し出したら食べる気!? さっき自分で汚染されてるとか言ったじゃん……」
「えっと、啓区飴ある?」
「なるほどーさすが姫ちゃんだねー」
脱線してきて、話が進まなくなりそうだったので啓区に声をかけた。ちょっと静かにしててね、と姫乃はここ最近覚えたなあちゃん対処術、必殺お口チャックの術を施した。
そういえばそろそろお昼の時間だ。
「ご飯は……もう少し後にしましょう。確かに空いているけれど……」
ここで話を止めるのもどうかと思うしね。
「それで、話を戻すわ。本来闇の魔力は泉のように
一応辻褄はあう。
闇の魔力が、噴煙となっているなら、風で流れた遠くの地でもいつかそのチリが落下し、地面に堆積するだろう。
セルスティーはそう推測して、旅の途中にある町や村などにも一応計測器を置いたそうだ。
「どこへどんなふうに拡散するかも、調べておきたかったから。私たちが行けなかった他の地方には一応エミュレート配達人さん達にお願いしておいたわ」
計測器が生きていれば、データがとれるけれど、と続く。
セルスティーさんそんな事してたんだ。
じゃあ、今頃どこかであの配達人の兄弟達も、私たちと同じ様なことしてるのかな。
ちょっと、不思議な気持ちになった。
「その火山、今は活動してないから良いけれど、昔は大変だったはずよ」
そうだ、ルミナリアの話だと大昔は火山のせいで色々苦労したみたいな話を聞いた事がある。
火山活動が激しくなればなるほど、噴煙が上がって闇の魔力が排出されてしまうのだったら大変だったはずだ。
「私が火山と闇の魔力、二つの関係があると気づいたのは、興味を持つ機会があってたまたま昔の文献を漁ったとき……」
ふぅ、と一息をつき、話を続ける前に水筒を取りだして喉を潤す。
喋りっぱなしで少し、疲れたようだった。
セルスティーは調べた内容を話した。
「その前にまずは、コーティ―女王の統治する統治領とメイデン王女の統治する統治領の昔の関係を話しておかなければならないわ」
歴史の授業みたいなものね、と口を開く。
話すのは、二つの土地に起きた争いの話だ。
昔、コーティ―女王の前代に同じ領地……エルケの町らへん西領をシンカーという人が統治していた。
その頃もエルケの町は今と変わらず統治領都として、多くの人と共にあったのだが、その町の西側にある火山が噴火するなどして問題が起きた。
果樹や農作物で栄えていた町は、降り積もる灰の害によって畑を耕せなくなり、食糧難に陥ってしまったのだ。
当然シンカーはいくつも策を立てたが、どれも芳しい成果をあげられず、最終的に他地域から食料を奪う事になった。尋常ではない人々の戦意の高まりが決断を後押しし、戦争をする事になってしまう。
そして、大陸の南の地にあるラダンでも、メイデン女王の前代に同じ領地を統治していたロゼという人が、時を同じくして戦争を起こそうと決めたのだった。
理由は、調合士、治癒士の技術や医療薬の獲得だった。ラダンでは長年続く内乱の影響があり、そのせいで伝染病が流行したためだった。かの地は皮肉なことにその危機の影響で、内乱の火を一時的に沈めて一つにまとまったが、代わりに他領域との戦争という大きすぎる火種を起こしてしまったのだった。
二つの国は、時を経て戦争状態に陥ってしまう。
その戦争は、多くの犠牲を出さずに紆余曲折あって平和的解決に至るのだが……。
戦意高揚の他に、その当時の人々の身体には異変が起きていた。そこでは、もともと浅黒い肌の人が多い地域だったがそれよりもさらに肌が浅黒くなる、そして硬質化する、頭部に角が生えるなどの影響が出ていたらしい。
闇の魔力に触れ、汚染された人間は、そのような影響を受けてしまう。
しかし当時の人々や今の歴史学者も、それは敵側の作戦で放たれた珍しい魔獣の力だと思っていたようだ。
しかし、そうでないとしたら、あれが原因かもしれない、と。
セルスティーはその資料達の内容から、偶然にも一つの推論を立てることができた。
もちろん、内容を証明する手立てはない。
なので、推論を立てたセルスティーは確かめて見ることにしたのだ。
火山の火口近くまで行き、データーを採集する方法で。
結果は今姫乃達に言った通りだ。
火山の噴火と闇の魔力発生、人々への悪影響が裏付けられた。
「昔の人達は、本当に気付かなかったんですか。闇の魔力が地面の底から湧き出していて、それが人に悪い影響を及ぼしているって事を。えっと、その当時にいた魔獣という生物のせいで……?」
話が途切れたので、姫乃は思ったことを素直に質問する。
「ええ、魔獣は魔石を体内に取り込んだ……害獣でも憑魔でも普通の動物でもない生物なのだけれど、確認される事がめったにないから」
その珍しい生物が現れたのだから、目に見える分かりやすい異変として、人々の影響と魔獣とが関連付けられてしまった、らしい。
そうセルスティーが答えるが、未利は呆れた表情だ。別のことを考えていたみたいだ。
「魔獣を使って戦争とか。使われる方にしてみれば、いい迷惑だし……」
「そうでもないわ。わざわざ好戦的な魔獣を探して、捕まえてきたらしし、えらく楽しんでたそうよ。その子も」
「南の地域に住む生物はワイルドな性格なんだねー」
「昔は戦争してたけど、楽しかったの? なあ不思議なの?」
「なあちゃんその超訳は危険だから。いろんな意味で」
なあちゃんの言葉に「そうなったら終止刻に終わらさす前に世の終わりだよ」と未利が突っ込む。
話の切れ目を見計らって、話題は続く。
それが分かった上で、私の目的は……、とセルスティーは本題に入る。
「私がしたいのは、被害を最小限に食い止める事。火口から吐きだされる闇の魔力を、この塔を利用して、星の内部に還す。そういう事よ。その研究が進めば、各地の終止刻の影響も最小限に抑えられるかもしれない」
「星の内部に還す……」
「それだけでなく、浄化能力者の出現を待たずに……いいえ、これは少し希望を見すぎね」
話に熱中していた自分に気づく様に、はっとした様子を見せたセルスティーはいったん言葉を止めた。
先ほどの歴史の話を聞いていた時も思ったが、姫乃達が関わっている事柄は、予想よりもかなりスケールが大きかったようだ。
そんな事できるんだろうか。
どうやって、どんなふうに、するつもりなんだろう。
目的が大きすぎて、脳裏に何も浮かばない。
姫乃を含めた聞き組みは無言だ。
皆、どういう反応をしたらいいのか分からないでいるみたいだった。
訳も分からず不安を覚えてしまう。
でも、
「私たちが頑張れば、できるんですよね」
やってみようと思う。
自分にできることは、なんでもやっていく気でいなきゃ。
いつまでたってもルミナリアの隣には並べない。
自分の無力を嘆いてばかりではいたくない。
「ええ、そのためにここにいるのでしょう」
セルスティーは優しく微笑んで見せた。
うん、そうだ。
私は、私にできる事をするために、この旅に出たんだから。
「私にできる小さな事を、していかなくちゃ」
自分に言い聞かせるように小声で呟く。
「だったら、アタシが言うのは、やりたいようにやって生きる、か」
「僕は、とりあえずやれるかどうかー、やってみよー。だねー」
「んと、なあはよく分かんないって思うの。だけど、一生懸命頑張るの!」
姫乃の言葉に反応するようにして、皆が己の指針を固めていく。
「その調子で頑張ってくれると嬉しいわね。ちなみに私は、出来る最善は全て尽くす、かしらね」
微笑みながら、セルスティーもそんな事を言って合わせてくれる。
自然と笑みがこぼれた。
皆一緒なら、もっと大きな事だって出来るかもしれない。
そう思えた。
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