第14章 変わった子達



『セルスティー』


 援護を受けて、今まで防戦一方だった戦いが格段に楽になった。

 セルスティーは、余裕を取り戻した思考の中で考える。

 考えるのは彼ら……、この旅に連れてきた子供達の事だ。


 出会った当初は、ただの変わった子供だと思っていた。

 妙な事件に巻き込まれて、偶然この町に来てしまって、けれど困難に遭いながらも何とか適応して問題を解決していっている。そう思っていた。

 けれど、日々接するうちに彼ら彼女らはどこか普通ではないと感じるようになった。……結締姫乃以外は。

 年齢不相応に大人びていると、感じるのだ。


 エルバーンという害獣が町を襲撃しようとした時、彼女……未利は臆することなく冷静に弓を使って迎撃したと、ルミナリアから聞いた。


 時期的に、不慣れなこの土地に来てすぐの事だっただろう。混乱していてもいいはずで、害獣の脅威に恐怖し隠れていてもおかしくないなのに、彼女は出てきて戦う事を選んだ。

 だがそれは、決して前に出て戦っていた兵士達を慮ってというわけではないはずだ。彼女はなんの関係もない他人にそこまで心配するほど情の深い人間ではないはずだ。


 理由を考えて一応結論づけてみる。

 自らの力を見せつけて何らかの……恐らくこれからの生活を考えて……見返りを期待した交渉を行うための行動を彼女はとった……のではないかと。

 短い期間同じ屋根の下で過ごしたのだ。それが一番腑に落ちる可能性だと思ったからだ。


 だが普通の子供が、そんな事を考えられるだろうかと思う。

 いきなり見知らぬ土地に連れてこられてしまった子供が。

 セルスティーは、自分の子供時代を顧みてみる……。

 周囲の子供から、大人びてるねとか、冷静だよねとか、言われている子供時代を顧みて……。

 顧みて……。


 ……。


 考えられるかも…しれないわね。

 少しばかり自信を無くした。


 そしてあの啓区という少年についても考える。彼は、未利とは違う形で普通ではないと感じさせる。


 セルスティーが苦労した計測器の改善をいともたやすくやってのける、機術の腕だ。

 それだけの腕があるにも関わらず、今までまったく彼の名前はセルスティーの耳に一切入ってこなかった。

 この世界で、機術の腕を極めようと思ったら、名を広めずに活動しようなんて無理なのだ。機械の道具や環境、師事する人、多くの人と関わらなければならない。(事実、セルスティーもこの計測器を作り上げる為に、二桁では収まり切らない人の助力を得ている)


 人の口に戸は立てられない。

 人と関わらず生きられる人などいない。

 彼の話が、同じ様な事をしているセルスティーの耳に届かないはずがないのだ。


 それとは別に違和感を感じることがある。

 彼は、人間味を感じさせない。

 大人びてるとかそういう話ではなく。

 人形のようだと感じることがある。

 どんな人間に対しても、どんな物事に対しても同じ姿勢なのだ。

 歳の離れた人、近い人。異性の人間、同性の人間、良い人、悪い人。

 日常。作業中。休憩中。戦闘中。危機的状況。

 すべてをひっくるめて、多少の変化はあるにしても、みな同じなのだ。


 セルスティーには分からないのだ、どういった環境育てばそうなるのか。


 そしてそのどういう環境で育ったら、こうなるのかという人物がもう一人。なあという少女。


 この少女は分かりやすい。

 純粋すぎる。


 曇りなき心とはこの少女の為にある言葉なのではないかと、そう思えるほど 純粋無垢。

 演技でやっているのだとしたら大したものだが、見たところそうでもなさそうだ。

 天然というやつなのだろう。彼女の様な性格の持ち主のことをそう言うらしい。(未利が良く言っていた)


 彼女は、庇護する人間なくして一人で生きていけるのだろうか、と不安になる。

 ただ彼女の場合、前者二人に対してあまり危うさや底知れなさなどを感じるわけではなく、純粋に、本当に心配になってしまうだけだ。


 最後に考えるのは結締姫乃。


 彼女は普通だ。

 普通の子供。

 時々大胆な行動に(エルバーンの前に飛びだしたり……桜の木の事件に顔をだしたりなど)出る事もあるが、それらはルミナリアに引っ張られてやっている事だろうし、聞くなり見るなりしていれば、彼女なりにそれらにちゃんと悩んだり臆したりしていのだと分かる。


 あの三人に比べたら、いたって普通の子供だ。

 少しばかり、優しすぎて厄介ごとにまきこまれそうな性格ではあるが。

 飛びぬけておかしなところは、どこにもない。


 だけれど、

 セルスティーは、その彼女が大事だと思った。

 どこか危うさを感じさせるあの三人には、彼女の様な優しくて、それでいて、取り立てて目立つところのない普通の子供の存在が、何よりも必要なのではないかと思った。


 確証などはない。

 そう思った理由もあまりない。

 ただ、何となく彼らの様子を見ていて、そうではないかと思っただけだ。


 口下手な未利が一生懸命な姫乃に向かって何かアドバイスを送り、それがねじ曲がって伝わったりしてないかとなあが心配して、変わらない笑顔の啓区がそれを心配して作業場所からわざわざ離れお菓子を勧めて差し出したり……、そんな何気ない様子を見てそう思っただけだ。

 あくまでもセルスティーの勘であるが。


 そんなような事を頭の片隅でちらりと考えていたセルスティーは知らない、ついさっき木を持ち上げる時にした未利のミスを、姫乃がいなくなった時の啓区の反応を。

 何しろクロフトの町には絶えず空から魔力攻撃が降り注いで轟音が響いていたのだから、戦闘に一定の注意を払わなくてはならないセルスティーには背後の会話など、耳に届きはしなかったからだ。


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