第15章 ネコウ大捜査



 なあや未利達が休憩寮きゅういりょうに行っている頃、姫乃も大聖堂の屋根上から休憩中のルミナリアと共に手紙を捜索していたのだが、芳しい結果はなかった。


 肩を落とす私に、ルミナは笑って慰めてくれたけど。

 それでもやっぱり気にしちゃうんだよね。

 

 手伝いたいって言ったのに。

 力になれないってつらいな。





 ルミナリア家前 『姫乃』


 そして翌日。


「それで今日もこの時間がやってきたけど、どうする?」

「なあ頑張るの!」

「まあ、どのみち探すためには頑張らなきゃいけないんだけどね」


 時刻は昼ごろの休憩時間。

 セルスティーさんの依頼を終わらせ、一旦ルミナリアの家の前に姫乃達は集まった。


 ユミン達もそうずっとこの町にはいられない。

 タイムリミットは、明後日の早朝。

 それは今朝、宿泊先の宿屋に行って知らされた事だ。

 それまでに、連れ攫われた手紙たちを見つけ出さなくては。


「うん、昨日ルミナといろいろ話してみたんだけどね……」

「助っ人なのー」

「助っ人だよー」


「ユミンが手紙をとられちゃった原因を考えてみんだけど……」

「助っ人って何だろー?」

「お手伝いするんだよー」


「ほら、この間ネコウ達が、部屋になだれ込んできた時の事思い出して……」

「きしゅー」

「とりひきー」


 姫乃が説明を始めると、お願いして家から出てきた助っ人達こと、ヤアンとローノが、姫乃の周囲をぐるぐる回り始めながら、そんな感じで合いの手を入れてくる。


「姫乃、話が長くなりそうなんだけど」


 未利が心底面倒くさそうな視線を向けてくる。


 そ、そうだね。時間も限られてるし。


「なあも、なあもそれやりたいのっ」

「はい、お口開けてなあちゃんー」

「あむあむ……」

「しばらくそれなめててね、いやほんとに」


 便乗しようとしたなあちゃんに未利は、食べ物らしき物を与えたようだ。

 もはや止めるのも面倒になったらしい。

 三人もいるとね……。


「えっと、ヤアン君、ローノちゃん。ちょっとだけ静かにしてくれるかな……?」

「ヒメノおねーちゃんが言ったよー」

「りょーかいするよー」

「何この聞き分けの良さ」


 ぴたっと動きを止めて、お口チャックをしている二人の小さな子供に、未利は恨めしげな視線を送っている。


 日頃一番被害受けてるの未利だもんね……。主に温泉とかで。


「ええと、話を戻すけど手紙が持ってかれちゃった原因は、カアカアラスが食べ物の匂いに反応したんじゃないかなって思ったの。朝、ユミンちゃん達と話したんだけど……」


 とりあえず、協力するにあたってユミン達の宿泊先の宿の場所を聞いておいてたのが昨日、朝と夕方にこちらの捜索状況を報告したり、逆に向こうの様子も聞いたりして捜索方法をよく考えてみたのだが……。


 この方法で大丈夫かな。

 今朝方に会って来た一人の少女の顔を思い浮かべる。

 今だ見つかる気配のない配達物に、ユミンは目に見えて落ち込んでいるようだったが、姫乃にはそれを見せまいと無理しているようだった。


 ううん、心配して不安になってても始まらないよね。

 こういうとき頼りになる太陽のような彼女なら、「悩んでいる暇があったら行動!」って言うだろうし。


「……ということを話したんだけど、どう思うかな」


 捜索方法の大まかな内容を、二人に話し終えて反応を伺ってみる。


「へぇ、いいんじゃない」

「なるほどなの、すごいの。なあとってもいいと思うの」


 とりあえず問題はなさそうだった。


「しっかし、原因がソレとはね」

「なあも昔やってたの。みかんさんで文字とか絵を描いて、お手紙出すの! そしたら燃やしちゃってあちちで、びっくりで、でもとってもとっても楽しいの」

「まさか、そんなんでカラスもどきに強奪されるとは……。匂いがもれないように、差出人も何かで包むとか対策しとけっての」


 そういえば、向こうの世界でもゴミだし袋とかつついて、中身持ってちゃうカラスとかいるよね

 この世界では、カラスみたいなカアカアラスはどこにでもいるのだろうか。


「アタシもそーいうの受け取った事はあるけど、最初真っ白でなんなのか分かんなかったわ。姫乃はあるの?」

「うん、だけど前の学校の授業でやっただけだよ。出したりはしなかったなあ……。ほら、送られる人が知ってないと」

「だよねぇ」


 何て言葉を交わす、話題の主はあぶり出しという技法についてだ。

 これが今回の手紙誘拐事件のきっかけであり、同時に捜索の一手にもなる。

 あぶり出しとは、果物の果汁、絵や文字を書いて乾かした後に、火であぶるとその描いた物が浮かび上がってくるというものだった。


 ユミン達配達兄弟の情報によると、そんな手紙を書きそうな人に心当たりがあるということだから、可能性として考えても悪くないと思う。

 そして、この野菜や果樹の農産物生産が得意なエルケの町に住んでいるカアカアラスが、手紙にしみ込んだ果汁に反応して持ち去った、とそう考えるのが妥当なところだと姫乃は考えている。


「じゃあ、そろそろ時間もないし始めよっか」

「よっしゃ、やるか」

「なあも始まるのっ」

「でばんきたーがんばるー」

「でばんだねーがんばろー」


 姫乃が声をかけると、それぞれが応じるように声をあげ拳を天へと突きあげる。

 頑張って手紙を見つけなきゃ。





 エルケ 噴水広場


 エルケの町の待ち合わせ定番場所である、水ではなくお湯の出る噴水広場では、多くの子供の声と鳴き声が上がっていた。


「にゃー! にゃにゃにゃっ!」

「だいいちそーさく隊はっけーん」「はっけんだってー」「みつけたー」「たっ」

「にゃーん、ごろごろごろ」

「だいよんそーさく隊もはっけーん。何かみつけたってー」「なんだろー」「何かー」「何かだよー」


 何か、すごい事になっちゃってるなあ……。

 姫乃達はさっそく思いついた捜索方法を試しているのだが……。


 広場から出ていくネコウ、広場にやって来るネコウ、疲れたのか噴水に浸かってるネコウ、昼時で眠いのか日当たりのいい場所で微睡んでいるネコウ。

 見渡すと、広場はネコウだった。

 ネコウだらけだ。


 そして、


「よーし、さがそー」「さがしにいこー」「いここー」「どこいこー」


 そのネコウ達に交ざる様にしてはしゃいでいる休憩寮きゅういりょうの子供たち。


「うるさ……」

「みんな元気いっぱいなの!」


 そんなやたらネコウと子供の活気で満ち溢れる広場を見て、未利となあちゃんはそんな正反対の感想を述べた。


「近所迷惑になってないかな……」

「広場の近くなんてこんなもんでしょ、そんな所の近くに家を建てた奴の責任」

「そうかな……」


 いいのかな、それで。

 後で、子供達が怒られたりしなきゃいいけど。


「ぷんぷんされたら、なあ達が一緒にごめんなさいするの。だから、うんうんしなくても、姫ちゃまはいいの。おっけーなの」


 ああ、やっぱり怒られること前提なんだ……。

 でも、他に良い方法が思いつかないし、私が謝ってユミンの手紙が戻ってくるなら怒られるのは仕方ないかな……。


「姫乃おねーちゃん、手紙みたいなのみつけたってー。すごいー?」


 ローノが、手紙を前足ではしっと器用に掴んでいるネコウを腕に抱いて、こちらに走り寄ってきた。


「わ、もう見つけたの!? すごいよ、ローノちゃん。……あとネコウちゃんもね」


 頭をなでてあげると、えへへーっ、と嬉しそうに笑みが返ってくる。腕の中のネコウも、その様子を見て、自分もとみーみー鳴いて自己主張するのでこちらもなでなでだ。

 なんかちょっと心が和んだ。


 ネコウから手紙を受け取り、確かめる。


 うん、間違いないと思う。


 手紙が見つかった時の確認方法。ユミンちゃんとカミルさんの家名であるエミュレという名前、その名前のエミュレ配達業印が、ティアラを象ったおしゃれなハンコが隅に捺してある。

 これ、たぶんユミンちゃんの名称がモチーフになってるんだろうなぁ。


「じゃー、もっかい探してくるー。いこー、ネコウ丸―」「みゃー!」

「あんまり遠くに行かないようにね」


 飛んでいったボールを追いかけに走る犬のように、あっという間に広場から出て行ってしまう。


 ちゃんと聞こえてたかな。

 ルミナに言わせると、昔と比べてこの辺もちょっと物騒になってきたらしい。ローノちゃん達には、だから広場の近くから離れないように言ってあるけど、やっぱり心配なんだよね。

 今の所、ルミナと話して思いついたこのネコウ捜索方は上手くいっているようだ。


 こっちの世界のネコウは、あっちの世界のネコウと違う点が大きく二つある。


 一つは羽が生えてて、空が飛べる事により高所の移動が可能だということ。空を飛べない人の視点からでは分からない場所もチェックできるというわけだ。

 もう一つは、人の言うことをある程度理解できる知能が備わっているということ。個体差にもよるが、ヤアンちゃんやローノくんぐらいの年齢の子供と意思疎通できるくらいの知能はあるというらしい。


 未利と合流した翌日、大量のネコウ達を部屋に突撃させられた事を思い出せば、こんなこともできるのではないかと思ったのだが。

 想像以上だった。


 まだ、手紙は三つほどしか見つけてないけど、捜索を始めて数分しかたってない。

 この分なら、間に合うかもしれない。ネコウ達の頼もしい戦力に姫乃は少しだけそう思った。


 ただ、問題なのがヤアン君とローノちゃんの言うことしか聞かない事だ。

 しかも、もう一つ、どこでどう知ったのか休憩寮きゅういりょうから続々と子供たちが集まってきて、広場を大変賑わせる原因になってしまっている。


 怪我とかしないように気をつけてあげなきゃいけないなあ……。


 そんな事を考えてると、ローノちゃんが来た方とは反対の方から、ローノちゃんと同じようにネコウを抱えたヤアン君がやってきた。


「手紙あったよー。でも取れなかったってー、むずかしーとこにあるのー」


 小さなネコウは申し訳なさそうに、にゃうぅぅと鳴いた。


「そっか、でも見つけてくれてありがとうね。とっても助かったよ。ヤアン君もネコウちゃんもすごいよ」

「ほんとー? すごいー?」


 しょんぼり、といったふうにうなだれているヤアン君と、耳をぺたんと倒している ネコウを撫でてあげる。


「私たちにはお手紙を見つける事すら出来なかったんだもん。充分すごいと思うな」

「えへへー、すごいってー」「にゃうっ」


 嬉しそうに、笑顔をみせるヤアン君とネコウちゃん。


「お手紙もっと見つけてくるー」「にゃううっ」


 立ち直ったらしい一人と一匹は、これもまたローノちゃんと同じように広場を後にする。


「姫ちゃま、すごいの」

「意外な才能だね。姫乃には、人を使う才能があったりして……」


 その様子を見ていた二人がそんな事を言っているが、


「そんな才能、無いと思うなぁ……」


 信じられないのは当たり前だった。

 そういう人を悪く言うわけじゃないけど、何もしないで指示とか出したり命令したりするのは、私には出来ないと思う。むしろ、自分がどうにかしたいって思っちゃうだろうし。


「じゃあ、人に好かれる才能とか」

「なあ、姫ちゃまの事好きなの! みりちゃまもなの! さいのーなの! あれ、さいのーって何なの?」


 人に好かれる才能かあ。

 嬉しいけど。あったとしても……うーん、私としては、もっと実用的な才能が欲しいんだけどな。


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