受け継ぐ者に


 『聖剣』の効力ちからによって天界エデンと共にその内部に封じられていた時空間が破壊され、その中に在った『マナの大樹』とそれを支える大地が現世へ出現する。

 それは世界の景色を一変させ、多くの者達が目にする状況となった。


 一方で機動戦士ウォーリアーと共に退避していたアルトリア達は、マナの大樹が現世側に現れたことで内部の循環機構システムが再び自爆を再始動リスタートさせた可能性を懸念する。

 それを止める為に創造神オリジンの肉体であるリエスティアと合流し、ケイルの持つ権能ちからを介して循環機構システム一部なかを破壊する事を選んだ。


 彼女達ふたりは重傷だったエリク達を残して大樹に向かった後、拘束を解かれた『白』のみかどの口から驚くべき事実が明かされる。

 それは彼等が目にする『マナの大樹』が、かつて魔大陸において【始祖の魔王ジュリア】と呼ばれた者の身体で作られた大樹モノで、しかも意識を保ちながら大樹からヒトの姿に戻った事もあるという過去視むかしの情報だった。


 しかも次々と発生する事態の終息する気配も見えぬ中、全く異なる脅威が彼等に迫り始める。

 それをこの時点で察知できているのは、エリクとマギルスだけだった。


 そんな二人を残したままマナの大樹に向かうケイルは、権能ちからの反動で魂に亀裂キズを負ったアルトリアに肩を貸しながら歩き続ける。

 しかしただ歩いているわけではなく、ケイルの権能ちからを使い操作盤パネルを投影させ、循環機構システムを破壊し再構成させる構築式プログラムのやり方を教えていた。


「――……イ、イメージって……何をイメージすんだよ」


「だから、循環機構システム構築式パネルを打ち込む為の操作盤パネル。何度か見たでしょ? 私が出してるのは」


「見た、けどよ……。それをイメージして出せって言われてもな……。もっと詠唱とか言葉とかで出せたりしねぇのか?」


「魂を基点にして魔力を変換し具象化させる魔法と似た性質ではあるけれど、権能ちからは知識よりも感覚で行うモノだから。そういう手段だったら、むしろ貴方の方が得意でしょ?」


「……クソ、やっぱ出せねぇ……。……お前は、どうやって操作盤それを出せるようになったんだよ?」


循環機構システムの中に入った時に、ウォーリスが操作盤パネルを出して扱ってるのを見たからかしら。『そういう事も出来る』というのが分かって、試したら出来たわ」


「……」


めてよ、その顔。……やっぱり循環機構システムに介入するには、一定以上の強さを持った権能ちからが必要なのよ。今の貴方ケイルでは、無理ね」


 歩きながら権能ちからを使った操作盤パネルの出し方を教えていたアルトリアだったが、ケイルはそれを自分の権能ちからでは出せずにいる。

 それを知り権能ちからの強さに比例して循環機構システムに干渉できる能力も強まる事を推測したアルトリアは、渋い表情を強めた。


 しかし今までの話を聞いていたケイルが、改めて疑問を零す。


「……ちょっと待てよ。なんでウォーリスの奴は、循環機構システムに入って干渉できたんだ? アイツは、アタシ等みたいな権能ちからを持ってないんだろ。……それとも、アイツも欠片の一人だったのか?」


「多分、違うわ」


「なんでそう思う?」


「もしウォーリスが権能ちからを持って生まれたなら、それに実験を課して育ててたゲルガルドも気付くはずよ。私なんか最初から利用せず、自分の息子ウォーリス自分の孫リエスティアだけで世界を掌握しようとしたはずだわ」


「だったら、どうして……」


「恐らく、あの大樹に適合する為の因子を自分の体内と魂に加えたんでしょうね」


大樹の、因子いんし?」


循環機構システムはあの大樹に取り込まれる形で存在していた。だからその大樹と同じ因子を取り込んで、その内部なかに入り込めば。循環機構システム大樹側うつわの一部だと誤認して、操作権限の一部を使えるようにするんでしょうね。言わば、疑似的な創造神オリジン権能ちからとも言うべきでしょう」


 アルトリアはそう話し、ウォーリスが循環機構システムに干渉できていた理由を推測する。

 するとケイルもまた、聖域の戦いにおいてウォーリスと対峙した際、彼がマナの大樹から赤い実を捥ぎ取って食べていた事を思い出した。


「そういえばアイツ、大樹に生えていたマナの実を喰ってやがった。それが因子ってやつか」


「そういうことね。そういうのも、ゲルガルドから得た知識だったんでしょうけど。……でも結局は、それは疑似的ごまかしでしかない。だから本当の権能ちからを持ってる私の精神体たましいと接触した時、循環機構システムは本当の意味で休眠状態スリープからめてしまい、創造神オリジン計画じさつ実行さいげんしようとした」


「……結局、本当の権能ちからを強めて持ってる奴にしか操作は無理ってことか。……お前と、そしてあの野郎メディアみたいに」


「そういうことね。……やっぱり、私がやるしか――……!!」


「なんだっ!?」


 話していた二人の声を遮るように、突如として僅かな振動と轟音が鳴り響く。

 すると空を見え難くしている生い茂る樹林の先に僅かながらも赤い炎が巻き起こるのを視認し、何が起きているのかを二人は察した。


「あの火は……ユグナリスッ!?」


「この殺気かんじ、誰かと戦ってやがるな……。……まさかっ!!」 


「急ぎましょう――……っ!!」


「クソッ、また乗れっ!!」


 『生命の火』を使った戦闘をユグナリスが行っている事に気付いた二人は、マナの大樹に何が待ち受けているのかを察する。

 そして走ろうとするアルトリアは胸に鋭い痛みを感じながら膝を崩すと、ケイルは彼女それを背負いながら走り始めた。


 巨大な樹海の根を身軽に飛び移りながら超えていくケイルは、そのまま一分も立たずに大樹の根元が見える位置まで辿り着く。

 すると次の瞬間、『生命の火ほのお』を纏った人影が二人が来た方角近くに吹き飛んで来た。


「――……グァアッ!!」


「!?」


「ユグナリスッ!!」


「……クソッ!!」


 木の幹に直撃しながら停止したユグナリスは、額から血を流し傷を負った姿を見せている。

 それでも意識を保ちながら『生命の火ほのお』で自分の傷を瞬く間に癒すと、握る赤い剣を構えながら再び高速移動を始まった。


 その赤い閃光は上下左右の様々な軌道をえがき、根元に立つ一人の人物に向かう。

 そして視認する事すら難しい速度で迫ると、そこに立っている人物が無造作に振った右拳がユグナリスの左顔面に直撃した。


「ッ!?」


「――……そこそこ速いけど、慣れれば直線的過ぎるかな。君の動きは」


「!」


 再び別方向へ吹き飛んだユグナリスは、そのまま地面を削りながら背中から倒れ伏す。

 しかし直撃を受けた顔面を癒しながら上体を起こし、地面に膝を着きながらも立ち上がろうとしていた。


 そうしたユグナリスを他所に、ケイルとアルトリアの視線は彼を殴った人物に注がれている。

 それこそが彼女達の懸念していた存在、メディアだった。


 するとメディアは訪れた自分の娘アルトリアに気付き、微笑みを向けながら声を掛ける。


「やぁ、随分お早いおかえりだね」


「……ッ」


「コイツが……!!」


 皮肉にも聞こえるその言葉を聞き、アルトリアの表情は僅かに渋さを強める。

 するとケイルが表情の険しさを増し、背負っている彼女アルトリアを降ろしながら怒気を含んだ様子で前に歩み出た。


 それに気付いたアルトリアは、焦りながら呼び止める。

 

「ケイル、ダメよ! 貴方でも、アイツには……!」


「……ッ」


 右腕を掴みながら止めたアルトリアの言葉に、ケイルは感情いかりを鎮め切れない。

 そんなケイルも見たメディアは、何かを考えながら声を向けて来た。


「あれ、そっちの子も権能ちからを持ってるね。……あっ、思い出した。あの時の子か!」


「……!!」


「ちゃんと今まで生きてたんだねぇ。君がその子アルトリアの仲間になってんだ。あっ、そうそう。君と一緒に居たお姉ちゃんは元気かい?」


「……テメェがッ!!」


 自身の知る女魔法師おんなと同じ声をしたメディアが、幼かった姉妹じぶんたちだけがかされた事を知っている。

 その言葉によって確信したケイルは、目の前に居る相手メディアこそが一族の仇と呼べる相手だと認識した。


 その瞬間、アルトリアが掴み止めている手をケイルは振り払う。

 更にユグナリスと同じ『生命の火ほのお』を身に纏いながら、瞬時に『の境地』へと至った。


 すると次の瞬間、ユグナリスにも引けを取らぬ速度でケイルは走り出す。

 それと同時に左腰に携えた長刀の柄に右手を触れさせ、瞬く間に迫ったメディアに『生命の炎ほのお』を纏わせた居合の斬撃を放った。


 コンマ三秒にも満たぬ程の接近と、コンマ一秒にも満たぬ居合の斬撃。

 合わせればコンマ五秒となる一太刀こうげきは常人ならば反応すら出来ないはずだったが、メディアの赤い瞳は静かに揺れながら左手をそれより素早く動かした。


 そしてメディアとケイルの動きが僅かに重なった瞬間、二人の動きが止まる。

 それで二人の様子を視認できたアルトリアは、外れなかった自身の予想に悪態を漏らした。


「……だから、言ったのに……っ」


「――……ッ!?」 


 そんなアルトリアとは裏腹に、ケイルは『の境地』が解ける程の驚愕を浮かべる。

 驚愕の理由は、彼女ケイルが放った全力の一太刀が、メディアの左手すでで摘まみ止められているという状況だったからに他ならない。


 そして引いても押しても微動すら出来ない摘まみ止められた長刀に、ケイルは咄嗟に左腰に留めている小太刀を左手で引き抜く。

 すると長刀を止めている左手を落とそうとすると、今度は右手で摘まみ止められてしまった。


「クソッ!!」


「最初の一太刀やつは良かったよ。でも二太刀それは駄目だね。……君、あんまり権能ちからが育ってないね? ちゃんと権能ちからに合った生活してた?」


「!?」


「うーん。まぁ、しにはなるだろうし。こんなんでも取っておこうか」


「ッ!!」


 メディアはケイルを見ながら微妙な表情を浮かべて呟いた後、摘まみ取っていた大小の刀をケイルから取り上げる。

 更に別方向に投げ放ち、ケイルからぶきを奪った。


 そして次の瞬間、刀を放り投げたメディアの右腕が手刀を作り出す。

 すると動揺し『の境地』へ至れていないケイルの胸部むねに、手刀それを刺し向けた。


 アルトリアはその目的こうげきに気付きながらも、権能ちからの反動によって対処が間に合わない。

 立ち上がったユグナリスも『生命の火ほのお』で傷が癒えながらも、頭を殴られた衝撃で脳が揺れ脳震盪を起こしていた。


 この場において誰もがメディアの手刀こうげきに反応できず、ケイルの胸部むね指先やいばが届く。

 そして指先それ胸部むねを突き進み、そのままケイルの胸部をメディアの右腕が貫いた。


「ケイルッ!!」


「ぇ……あ……?」


「……え?」


 アルトリアはケイルが胸を貫かれたと視認し、必死の形相で叫ぶ。

 当人ケイルもまた唖然とした表情を見せたまま視線を落とし、貫かれた自分の胸元を見た。


 しかし貫いたメディア自身が微笑みを浮かべ、静かに呟く。


「……まいったね、そういう防ぎ方もあるわけだ。『黒』――……いや、今はリエスティアかな?」


「!?」


 メディアはケイルの胸部から右腕を退くと、何故か手刀から右肘の先が切り取られたかのように失っている。

 それを見たアルトリアは驚愕し、メディアが視線を向けた先を追った。


 するとそこには、藍色の外套コートを纏った長い黒髪の女性が立っている。

 そしてメディアに対して黒い瞳を向けながら両手を翳し向け、その傍には行方不明だったメディアの右手が地面に落ちていた。


 それを見たアルトリアやユグナリスは、彼女の名を呼ぶ。  


「クロエ……!?」


「リエスティアッ!!」


「――……もう、貴方の思い通りにはさせません。……今度は私も、みなさんと一緒に戦います!」


 その場に現れたリエスティアはそう言い放ち、覚悟を持った黒い瞳を向ける。

 その肉体からだには既に『クロエ』の人格せいしんは消失していたが、その想いと技術ちから今の彼女リエスティアは受け継いでいた。


 こうして圧倒的な脅威ちからを持つメディアと対峙する者の中に、リエスティアが参戦する。

 今まで様々な者達に守られるだけだった彼女が、ついに『黒』を通して自身の能力ちからを学び、彼等と並び立つ戦力ちからとなれたのだった。

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