厄災の正体
そうして
するとエリクは入手した『聖剣』を自ら振り上げ、その
それは暗雲に覆われた人間大陸に青い空を再び戻し、荒れ狂っていた地上の
「――……な、なんだ……?」
「急に、空が光ったと思ったら……」
「……嵐が、無くなってる……」
暴風と豪雨と共に降り注ぐ雷撃に見舞われていたガルミッシュ帝国でも、それ等が全て消失したことが避難しようとしていた民衆によって確認される。
それは帝国を代表するローゼン公爵家の領地でも同様であり、急激な天候の変化をローゼン公セルジアス自身も屋敷から出て確認していた。
「――……空が戻っている……。……いったい、何が……?」
「……恐らく、あの
共に屋敷の外に出ながら空を確認するウォーリスは、カリーナに付き添われながらそうした推測を述べる。
それを聞いたセルジアスは、怪訝さと不可解さを宿した表情を浮かべながら問い掛けた。
「消し去った? アレほどの異常気象を、消し去れる者が……。……アルトリア?」
「いや、彼女ではない。……彼女は今まさに、メディアと戦っている」
「!」
ウォーリスはそう話し、自分の真横に投影されている映像へ視線を移す。
そこには銀髪紅眼のメディアと向かい合う、金髪碧眼のアルトリアが映し出されていた。
その事からこの異常気象を晴らしたのが別人である事を推察し、ウォーリスの脳裏に一人の男が浮かび上がる。
「……傭兵エリク」
「えっ」
「鬼神の魂を受け継いだ男。……彼が、アルトリアを助けに来たということか」
ウォーリスは晴天となった空を見上げ、遥か遠くで浮遊する
それに続くようにカリーナやセルジアスも視線を向け、ウォーリスと同じようにエリクの姿を思い浮かべた。
そうして地上における異常気象が沈静した頃、再び場面は
ドワーフ族の族長バルディオスが扱う
「――……な、何が……?」
「エリクの奴が、『聖剣』を使ったんじゃ」
「せ、聖剣……!?」
「あの
「そ、そんな剣が……?」
「あるんじゃよ。魔人や魔族の儂等にとっては、天敵みたいなモンじゃがな。――……ほれ、外は綺麗になっとるぞ」
「……!!」
ユグナリスは顔を上げて
すると更に顎を上げて真上を見たユグナリスの視界に、足裏と股下を覗かせるエリクが映し出されている。
更にその右手には白く輝く『
そしてユグナリスの
「……ログウェル……!」
「むっ!?」
ユグナリスがその名前を呟くと、バルディオスも反応しながら真上に見える
するとそこには
対して見下ろすログウェルは自身の
「――……ほっほっほっ。まさかドワーフの機械人形だけではなく、伝説の
「……ッ」
遠く離れた上空で笑みを浮かべながら言葉を零すログウェルの声は、エリクには届かない。
しかしログウェルが自分に向ける態度に敵意と呼べるモノが感じられない事を悟り、訝し気な表情を更に強めた。
次の瞬間、ログウェルの姿が消える。
瞬きすらせずに見逃そうとしなかったエリクは、それが転移魔法だと理解し周囲を探ろうとした。
そこでエリクは背後に悪寒を感じ、素早く振り返る。
するとそこには、ログウェルが浮遊したまま微笑む姿を見せていた。
「――……久し振りじゃのぉ、傭兵エリク」
「……あの
「あぁ。
「……」
「それより、お前さんが戻って来てくれて嬉しいぞい。――……お前さんには分かるじゃろう? 儂の目的が」
「……俺か」
「ほっほっほっ」
しかしエリクは敵意も見えないログウェルの様子に不気味さを増大させ、わざわざ自分の傍に現れて話し掛けて来た目的を推察して答えた。
それを肯定するような笑みを向けるログウェルは、改めてエリクに問う。
「さて、
「……どうして、そんなに俺と戦いたがる?」
「お前さんが強いからじゃよ」
「!」
「儂はな、お前さんの成長を待っておったんじゃ。……お前さんと初めて会った、あの時からのぉ」
「……王国に来ていた時か」
「ほぉ、覚えておったかね?」
「ああ。……あの時から、俺と戦いたがっていただと?」
「そうとも」
「ならばどうして、あの時に……あの港町で戦った時に、俺を殺さなかった?」
「儂はお前さんを殺したいわけではない。強くなったお前さんと、本気で戦いたいだけなんじゃよ」
「……本気の、俺と……」
「だからこそ、この場を設けたのだ。……お前さんが本気で戦えるよう、
ログウェルは『緑』の
それを聞いたエリク自身は、ログウェルの思惑を理解し難い表情を浮かべた。
するとログウェルは、改めて脅迫に近い言葉を向ける。
「儂を無視してアルトリア嬢の下に行くのは、止めておくことを勧めておこう」
「何故だ?」
「儂が倒されないまま、あの
「!?」
「儂を倒さぬ限り、アルトリア嬢の居る聖域へ踏み込むことも、地上の破壊を防ぐことも出来ぬぞ。……どうするね?」
自身と戦わせるためにアルトリアと人間大陸を人質にするログウェルに、エリクの額に僅かに血管が浮かぶ。
更に表情を強張らせるエリクは、その
「……分かった。やってやる」
「ほっほっほっ。そうこなくてはな」
「場所は、
「そのつもりじゃよ。では――……」
「――……待てっ!!」
「!」
そうして互いの意思によって決闘が決められる中、二人の会話を遮るように怒鳴り声が下から響く。
すると二人は視線を見下ろすと、
「ログウェル! アンタと戦うのは、俺だっ!!」
「ユグナリス……」
「どうして俺じゃなくて、
「……弟子だからじゃよ」
「!」
「お前さんは儂の『弟子』であっても、『敵』ではない。……儂はな、儂が本気で戦える『敵』が欲しかったんじゃ」
「……え……?」
「儂にとってもお前さんは『弟子』であり、お前さんにとって儂は『師匠』でしかない。……儂がこの世で最も望む存在は、儂と殺し合える『
「……そんな……」
ログウェルは感情の無い
それを聞いたユグナリスは身体中から滾らせる『
そしてエリクへ視線を戻したログウェルは、再び告げる。
「では、行こうか」
「ああ――……!」
「むっ」
改めて決闘を行おうとした時、エリクとログウェルは互いに何かに気付く。
そして互いに真横に視線を向けると同時に、そこに人影が現れた。
二人はそれが転移魔法だと気付き、僅かに身構える。
するとその場に現れた長い銀髪を
「――……そっちの
「!」
「……お前さんは?」
「余は『
「!」
「
「……!!」
堂々とした面持ちで名乗りを上げる『
それと同時に
ログウェルとエリクはその
しかし次の瞬間、その真下から赤い
「えっ!?」
「……ログウェルに、何をする気だ……!?」
「ちょ、ちょっと……ま――……うぉっ!?」
何等かの攻撃をログウェルに仕掛けようとした『白』のである
突如として現れた
それと同時に、
その為に常人ほどの能力となった
更に自分の立っていた
「イタタ……お、お主……ルクソードの子孫かっ!?」
「それがなんだ! それより、どうしてログウェルをいきなり殺そうとしたっ!?」
「だ、だって……
「マズいってなんだよっ!?」
「イタッ、痛いって! 話す! 話すから!」
突如として現れた『白』の
そうした様子を一同が窺う中で、僅かに緩んだ腕の拘束に安堵の息を漏らす
「ふ、ふぅ……。……ま、マズいんだよ。『白』と『黒』以外の
「だから、その理由は?」
「……聖紋だよ」
「!」
「聖紋は、言わば世界の
「世界の事象を、書き換える……?」
「余や『黒』は、それを
「……!!」
「普通は、聖紋に施してる制約のせいで
「歪み……?」
「五百年前の天変地異も、そのせいで各地に発生した歪みをどうにかしなきゃってことで起きたんだよ。……余が見た限り、もうそこに居る『緑』からは歪みが生じている!」
「!!」
「このままだと、世界そのものに歪みが起きる! 歪みはいずれ空間だけじゃなく、時空間にも干渉し、全宇宙そのものの時空を捻じ曲げて、現在と繋がる過去や未来すら消滅してしまうんだ」
「過去や未来が、消滅……!?」
「だから、そこに居る彼が望む通り……すぐにでも消滅させてあげなきゃ……!」
「……え?」
そして
するとユグナリスは、寂し気に微笑むログウェルの見下ろす顔を見てしまう。
「ログウェル……?」
「……これは儂の、最後の
「!」
「対等な『敵』と戦い、その末で打ち倒されたいんじゃ。……その相手に選んだのが、ここに
「……そんな……」
ログウェルは
今まで隠していたであろうその真意を明かしたログウェルは、改めてエリクに頼みを向けた。
「傭兵エリク。儂と本気で戦っておくれ」
「……お前は……」
「儂自身が、この世界の厄災そのものなんじゃよ。……しかし、それも癪であろう?」
「!」
「ならば儂は、儂自身の望みによって世界の厄災となることを選ぼう。……そして
「……!!」
ログウェルは自身について
それは彼自身が望まぬ
こうしてログウェルがこの凶行に及んだ理由が、彼を直視した『白』の
エリクとユグナリスはそれを聞き、唖然とした様子で目の前にいる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます