母子の対面


 天界エデン大陸だいちを自らの権能ちからで支配下に置いたメディアは、自らの意思によって世界を滅ぼす事を決める。

 それを止められる唯一の方法として提示したのは、彼女が持つ人類に対する興味を再び呼び起こす事か、その娘であるアルトリアの勝利以外に無いことが提示された。


 そんな自身の母親メディアに挑む事を決めたアルトリアは、ケイル達を置いて自身だけで天界エデンに赴く。

 天界エデン大陸だいちに置かれていた箱舟ふねの傍に転移した彼女は、その周囲を見回し自身の青い瞳を見開きながら驚きを浮かべた。


「――……これは……」


 アルトリアが見たのは、アルフレッドが待機していた箱舟ふねが残骸となり破壊されている光景。

 更に大地の表面となっている白い魔鋼マナメタルすら削られている光景を見ていると、そんな彼女に呼び掛ける念話テレパシーが届いた。


『――……来たね、アルトリア』


「!」


『へぇ。セルジアスもそうだったけど、容姿すがた父親クラウスに似たみたいだね。人間の美的感覚で言えば、美人と呼べるかな?』


「……私の声は、聞こえるのよね」


『勿論』


「何処に居るの?」


『私が生まれた場所。そう言えば分かる?』


「……分かったわ」


 届けられた念話こえを聞いたアルトリアは、今現在メディアが何処に居るのかを察する。

 そして破壊された箱舟ふねから視線を逸らし、大陸中央に見える巨大な白い神殿に目を向けた。


 すると目視で座標いちを確認し、アルトリアは再び転移魔法を使ってその場から跳ぶ。

 そうして転移した先は、神殿の入り口まで続く門と階段が見える場所だった。


 しかし転移して来たアルトリアはそこで待っていた人物を発見し、声を掛けられる。


「――……ほっほっほっ。来ましたのぉ、アルトリア嬢」


「……ログウェル……」


 そこで待っていたのは、『緑』の七大聖人セブンスワンである老騎士ログウェル。

 実時間的には久方振りの再会となる二人だったが、以前とは異なりアルトリアは老騎士ログウェルに対して警戒の視線を見せた。


 するとそれを察するように、ログウェルは微笑みながら声を向ける。


「安心しなされ。儂は、お主達の再会を邪魔せぬよ」


「……今まで私達を騙しといて、それを信用しろと?」


「ほぉ、騙すかね?」


「アンタ、こうなる未来ことを知ってたんでしょ。『黒』から聞いてたの?」


「……ほっほっほっ。まぁ、確かに『黒』からは聞いておりましたな。儂の未来、その分岐点を」


何時いつ?」


「お主の母親、メディアを拾う前ですじゃ」


「!」


「五十年ほど前でしたかな。儂は偶然、幼い『黒』に出会った事がありましてのぉ。その彼女から、あの子メディアの存在と儂の願いが叶う未来の道筋を教えられました」


「……やっぱり、そういうこと。……アンタの望みってのが、アイツメディアに加担してる理由?」


「端的に言えば、そうなりますかな」


「そう。……だったら今のアンタは、自分自身の意思でここに立ってるってことね」


 ログウェルが自身の望みによってメディア側に加担している事を知ったアルトリアは、視線を相手の右手に向ける。

 するとそれに気付き、ログウェルは微笑みながら右手の手袋を外して手の甲を見せた。


 そこには確かに、『緑』の七大聖人セブンスワンである証の聖紋が存在している。

 アルトリアはそれを確認し、僅かに驚きを見せながら問い掛けた。


「……聖紋それは残ってるのね。でも、制約が反応してない。……どういうこと?」


「おや、知りませんでしたかな。創造神オリジン欠片たましいを持つ者には、聖紋の制約ルールは効かぬのですよ」


「!?」


「元々、聖紋これは『白』と『黒』が創造神オリジン権能ちからによって生み出した『誓約あかし』。ある程度まで創造神オリジン権能ちからを持つ者ならば、その『制約ルール』を無効化できるということですな」


「……そう。……アンタも、七人わたしたちの内の一人だったのね。……通りで、今のアンタを嫌悪して見てしまうわけだわ」


「ほっほっほっ。――……メディアは、あの場所で待ってるよ。行きなさい」


「アンタは見届けないの?」  


「言ったであろう。儂は儂自身の望みによって、ここにる。……お主がここに来れば、必ず来る男を待つとしよう」


「……そういうことね」


 ログウェルは微笑みながらそう話し、妨害せずに神殿の門を通す意思を見せる。

 それを聞きログウェルの望みを察したアルトリアは、自ら神殿の中へ向かう事を選んだ。


 しかしそのすれ違い様に、アルトリアは足を止めながらログウェルに問い掛ける。


「……ちなみにアンタは、創造神オリジン感情なにを担ってるの?」


「そうですなぁ。儂は、『暴食』でしょうな」


「そう。……だったらエリクが、アンタの空腹はらを満たしてくれるでしょうよ」


「それこそ、儂の望みですな」


 そうした話をする二人は、そこで会話を終える。

 しかし門を通り過ぎた辺りで、機能している神殿の周囲に以前には存在した力場りきばが失われている事にアルトリアは気付いた。


 それが待っている母親メディアの意思である事も理解した彼女アルトリアは、再び転移魔法で目的地に向かう。

 ログウェルはそれを見送りながら、再び門の前に立ちながら自身が対峙する事を望む相手エリクを待った。


 そして転移で神殿前に辿り着いたアルトリアは、巨大な大扉に自身の右手を翳し向ける。

 すると彼女アルトリア権能ちからを使う前に、大扉が一人でに内側へ開き始めた。


「!」


『――……ようこそ、私の家へ。入ってらっしゃい、アルトリア』


「……ええ」


 再びメディアの念話こえを聞いたアルトリアは、相手が自分の居る場所へ導いている事を理解する。

 そして巨大な門を通り過ぎると、今度は一人でに門が閉まり、再びアルトリアは神殿内へ訪れる事になった。


 すると案の定、その通路の先にはあの異空間に繋がる光の入り口が出現している。

 それを見たアルトリアは表情を強張らせながら、相手メディアに問い掛ける言葉を向けた。


「……私が封鎖した時空間ばしょを、抉じ開けたの?」


『抉じ開けたなんて乱暴な事はしないよ。ちゃんと時空間の座標を探して、同じ場所に穴を開けただけ。……まさか、そんな事が出来るはずがないなんて、思ったりしてた?』


「……」


『まぁ確かに、凡人なら無理かもね。でも、私みたいな天才だったら可能だよ』


「……天才ね」


天才そんな私から言わせれば、君も凡人だね。本当に私の色んな部分を継いでるのか、疑ってしまうよ』


「……私も、アンタみたいな化物が母親だとは思いたくないわよ」


『化物か。でも君も、そうだと人間かれらに言われ続けたでしょ?』


「!」


『君は化物わたしから生まれたんだ。それを否定したら、君は自分自身の存在そのものを否定することになるよ』


「……ッ」


『だからこそ、聖域ここで戦おう。――……化物である私達を生んだ、家族かのじょが見ている前でね』 


 アルトリアは通路を歩き終え、その先にある時空間の入り口となっている光に入る。

 そして光を避ける為に閉じていた瞼を緩やかに開くと、そこは以前に訪れた場所ではなく、巨大なマナの大樹が目の前に見える場所だった。


 すると背後に出現していた時空間いりぐちの穴は消え、そこからは大樹の根元で腕を組みながら微笑んで待っているメディアが見える。

 金髪碧眼きんぱつへきがん銀髪紅眼ぎんぱつこうがんという全く真逆の様相をしている母子ふたりは、初めて相対しながら声を向け合った。


「――……いらっしゃい、アルトリア。私と同じ権能ちからを持つ、大事な娘よ」


「……私も欠片そうだと、最初から知ってたのね。……そして強力な権能ちからを得るまで、成長するのを待っていた」


「そうだよ。その為に、君達には宿題ゲルガルドを残しておいたんだから」


「!」


「あら、もしかして知らないと本気で思った? ……ちゃんと知ってるよ。君と一緒に居た、欠片達あのこたちのことは」


 初めて対面するはずの母親メディアは、自分の娘アルトリアと同行している者達が創造神オリジンの欠片である事を察している。

 それを聞いたアルトリアは僅かに歯を食い縛った後、両拳を握りながら声を振り絞った。


「……もう一つだけ、聞かせて」


「なんだい?」


循環機構システムの自爆だけを止めて、大人しく私達の前から去る気は?」


「無いよ」


「……そう……。――……じゃあ、仕方無いわね」


 無感情に拒否するメディアの様子を見て、アルトリアは説得が不可能だと判断する。

 そして自らの権能ちからを解放しながら聖域全体に溢れる魔力を掻き集め、それを膨大な生命力オーラに変換しながら自分自身からだに吸収し始めた。


 それを見ながら微笑むメディアは、自分の娘アルトリアが本気で自分に挑む様子に喜びを見せる。


「良かった。母親だからって説得するような子だから、本気で戦ってくれないかと心配したよ。――……おかげで、私も少しは楽しめそうかな」


「……アンタを倒して、その権能ちからを奪い取ってやるわッ!!」


 取り込み変換した生命力オーラを自身の肉体に纏ったアルトリアは、以前にウォーリスが行っていた生命力オーラ闘衣ふく錫杖ぶきを作り出す。

 更に自身の背中に『魂で成す六天使の翼アリアンデルス』を作り出し、大きく後方へ飛翔しながら錫杖の先端で直径数キロは超えるだろう凄まじい破壊光線こうげきを放った。


 それはメディアの後方に在るマナの大樹ごと狙った攻撃であり、その目的は循環機構システムの停止と回避の妨害。

 しかしそれを察するようにメディアは微笑みを強めると、右腕に掛かっていた赤黒い外套を払いながら命じるような声を呟いた。


べていいよ、『魔王の外套スフィール』」


「――……ッ!?」


 メディアがそうした言葉を発した瞬間、彼女の身に纏っていた外套がその面積を無視するように拡がり迫る破壊光線こうげきを飲み込む。

 最初から全力の一撃を放ったアルトリアは、自身の攻撃を飲み込んだ外套マントに驚愕を浮かべながら錫杖を引いて破壊光線それを止めた。


 すると放ち終えた破壊光線こうげきを全て飲み終えた外套マントは、再び元の形状に戻る。

 そして平然とした様子を見せるメディアは、微笑みを絶やさずに話し掛けた。


躊躇ためらいの無い良い攻撃だね。大樹これを破壊して、修復中の私を捕まえて新たな大樹の依り代にするつもりだったのかな? 循環機構システムの代替品は、君自身の魂ってとこだろうね」


「……ッ」


「それより、コレ。良いでしょ? 魔大陸むこうで見つけたんだ。似合うかな?」


「……何よ、その外套マント……!」


「あれ、知らない? そういえば今の人間大陸って、【始祖の魔王】に関する記録が極端に無いんだっけ」


「……!?」


外套コレは私と同じ、『マナの実』の血肉で作られた武器であり防具。――……【始祖の魔王】ジュリアが自分の名を分けて愛用してた、【魔王の外套スフィール】だよ」


 まるで自分の娘アルトリアに自慢でもするように話すメディアは、自身が身に着けている外套マントをそう称する。

 それはかつて、第一次人魔大戦において人間大陸と人間を絶滅させ掛けた【始祖の魔王ジュリア】が用いた、【勇者】の『聖剣けん』と対を成す『魔王の外套ぼうぐ』だった。


 こうしてアルトリアとメディアの母子ふたりは相対し、聖域にて死闘を始める。

 しかし圧倒的な実力の他にも圧倒的な武具を手に入れいた母親メディアを前に、アルトリアの全力は無力に等しいモノとなっていた。

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