虚無の漂流者
膨大な
しかし
そんな彼等は現在どうなっているのか、実際に把握できている者はいない。
しかし当の本人達もまた、自分達がどのような現状に置かれているのかを完全に把握できていなかった。
「――……おい、もう何日になるよ……。ここに居るの……」
「……さぁ……」
そうした声が聞こえるのは、何も存在しない真っ暗な空間。
しかしその中に灯火のような仄かな光が一つだけ存在し、その中に包まれるように存在する幾人か人影が見えた。
その光の中を覆われながら暗闇の
彼等は一つに光に覆われながら無事な姿を見せていたが、全員が酷く疲弊した様子を見せていた。
逆に肉体的な疲弊よりも精神的な消耗の激しさを愚痴るように
「あーあ……どうしてこうなっちまったんだろうなぁ……」
「……またその話するの、飽きないわね」
「うるせぇな。……まったく、お前のやる事に付き合うと毎回こんな感じになるんだよな……」
「ちょっと、私のせいみたいに言わないでくれる?」
「いや、お前のせいだろ」
「コレは私のせいじゃないでしょ!」
「……お姉さん達、元気だね……」
「……そうだな」
ケイルとアルトリアの口論を聞きながら、疲れ切ったマギルスとエリクは互いにそうした
そんな一同に囲まれながら表情を強張らせるアルトリアは、大きな溜息を漏らしながらこうなっている現状を改めて口にした。
「もう、しょうがないでしょ。
「……んで、逃げ遅れたアタシ等はこうなってると。……
「何度も言っておくけど、私はアンタ達に逃げろって言ったわよね? それに
「へいへい、分かった分かった。……んで、ここは何なんだよ。あの世か?」
「さぁね。……少なくとも、現世でもないし
「アタシ等が前に巻き込まれた、
「そう言えなくもないし、違うのかもしれない。
「なら、どうしてアタシ等は生きてられるんだよ……」
「
「だろうな……。……アタシ達、このままどうなるんだ?」
「この魔力を利用すれば水は作れるし、
「……はぁ、結局は運頼みかよ……」
暗闇を見上げるように浮遊しながら寝そべるケイルは、自分達の状況がほぼ絶望的である事に溜息を漏らす。
しかし彼女の口から漏れる言葉には皮肉こそ込められながらも、アルトリアに対する悪意や憎悪は感じられなかった。
それを把握しているアルトリアもまた、悪態こそ漏らしながらも状況を分析しながら現状から脱出する為の手段を考え続けている。
悲観的な状況にも見える彼等だったが、それでも自分達の生存を諦めるつもりが無い様子が窺えた。
しかし時間の流れも分からず何も無い暗闇の空間において、彼等は状況を脱する為の手掛かりが無い。
アルトリアが
しかしそうした絶望の中でも、彼等が決して認めない脱出手段もある。
それは誰かを犠牲にするような脱出方法であり、それをアルトリアが提案すると他の三人が同時に止めていた。
「……仮にここが時空間だとしたら、それを破壊するか、
「駄目だ」
「ダメ!」
「絶対にやるなよ!」
「……なんでよ?」
「お前がそういう余計なことすると、もっと厄介な事になるのが目に見えてんだよ」
「今度は未来じゃなくて、過去とかに飛ばされそうだもん! それはそれで面白そうだけどさ!」
「俺はもう、君を失いたくない」
「……分かった。やらないわよ」
脱出する手段を選ぶに際して自分を犠牲にする代償ばかりを考えるアルトリアを、エリク達はそうした意見で留める。
そうしてアルトリアの自己犠牲を妨げる三人によって、彼等は何もない真っ暗な空間をただ漂いながら変化を待ち続ける状況が続いていた。
全員が聖人や魔人である為に、本来の人間に必要な栄養を彼等は取る必要性が薄い。
しかし終わりの見えぬ無限の暗闇を漂い続ける彼等を最も苦しめていたのは、ただ無為に流れ続ける時間だった。
それを紛らわす為に、彼等は他愛もない話を続けている。
しかしその時間は、彼等がそれぞれに知らなかった互いの情報を知る良い機会にもなっていた。
「――……そういや結局、お前って
「まぁ、そうね」
「なんでいきなり、使えるようになったんだ? ……やっぱり、
ケイルは今まで疑問に思っていた事を口にし、
するとアルトリアは考えながら、それを否定するように首を横に振って答えた。
「いいえ。
「じゃあ、どうやって?」
「私が魂を二つに分けてた話は、アンタ達にしたっけ?」
「それ、あの未来で初めて知ったけどな」
「私は小さな頃に、自分の魂を二つに分けたのよ。そして基本となる魂は肉体に、そして短杖の方にもう一つの魂を付与した。それから十年近くあの
「……それがワケ分からねぇんだよ。どうしてわざわざ、魂なんてモンを分けたんだ?」
「私が扱えてた
「!?」
「私は子供の頃から、魔法とは違う奇妙な
「だからって、その
「そう。そして成長する
「……だから記憶の無い未来の君は、
「そういうこと。ほとんどの
「そして今のお前は、その二つの魂が融合して更に強い
「半分正解、半分ハズレね」
「えっ」
そうした話を行っていたアルトリアの言葉で、ケイルは自分が知る情報から結論を導き出す。
しかしそれに対して曖昧な答えを返すアルトリアに、ケイルは首を傾げながら不可解そうに問い質した。
「どういうことだよ」
「確かに分けていた二つの魂が掛け合わさるように融合した事で、私は更に強い
「そうなのか?」
「
「!!」
「あのマナの
「……じゃあ、お前は
「ええ、
「えっ?」
「そのエネルギー源だったマナの
「……でも、記憶自体は覚えてるんだろ?」
「まぁね。……でも、つまんない記憶よ」
「つまらない?」
「全部を知った気になってた女が、実は何も知らなかったっていう
「……」
溜息を漏らすようにそう語るアルトリアに、三人はそれぞれに思うような表情を向ける。
するとアルトリアは苦笑を浮かべながら、
「そんな事より、もっと面白い話でもしましょ。……例えばケイル、私が居ない間にエリクとはどこまで進んだの?」
「……は?」
「えっ、嘘。まだ何もしてないの? 未来から戻って、あれだけ時間があったのに?」
「……お前、アタシ等がどういう状況だったか知らねぇのかよ」
「それはそうよ。
「……」
「えっ、何よ。
「……おい、エリク。コイツ、思いっきりぶっ叩いていいよな?」
「ちょっと、何そんなに怒ってるのよっ!」
「うるせぇ! お前のそういうとこが、アタシは大っ嫌いなんだよっ!!」
「……ふっ」
そう言いながら再び揉め始めるアルトリアとケイルを見て、エリクは久し振りに微笑みを浮かべる。
すると二人の喧嘩を呑気そうに見ていたマギルスが、横の暗闇へ視線を向けながら何かに気付いた。
「……ねぇねぇ、アレ見てよ」
「え?」
「……っ!!」
「ちょっと、アレって……!?」
マギルスは声を掛けると、喧嘩していた二人やエリクは指が向けられている方角へ視線を送る。
すると彼等はそれぞれに驚きを浮かべ、暗闇の中に浮かぶモノに気付いた。
それは真っ暗な空間とは対照的に、遠くからでも分かる程に白く輝いている巨大な門。
彼等は『虚無』と呼べる世界で長い時間を浮遊する中、初めて暗闇以外の
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