第三の選択肢
その後に発生するであろう世界の破壊を防ごうと、マナの
彼等がこの
それをマギルスが提示した時は、まだエリクとケイルが揉めていた場面だった。
『――……ねぇねぇ、二人とも』
『!』
『エリクおじさんはアリアお姉さんを連れて帰りたくて、ケイルお姉さんはアリアお姉さんを置いてでも逃げた方がいいって思ってるんだよね?』
『……ああ』
『そうだ』
『僕も未来で、クロエから頼まれてるからさ。アリアお姉さんと一緒に居た
『そうだって言ってたろ』
『じゃあさ、世界が消えずに皆で帰れる方法をやろうよ。それで誰も揉めないじゃん!』
そう言いながら笑顔を向けるマギルスに、エリクとケイルは互いに驚きながらも徐々に表情を渋らせる。
するとマギルスはそんな二人の様子を見ながら、首を傾げて尋ねた。
『どうしたの? それじゃ駄目?』
『いや、駄目じゃねぇけど……。……その方法が無いから、アリアの奴がまた自分を犠牲にしようとしてるんだろ』
『そうかなぁ? 僕、今のアリアお姉さんはらしくない気がするんだよね』
『らしくない……?』
『アリアお姉さん、前に僕に言ったんだよ。大人なら、二択を迫られたら三択目を考えて選ぶって。……なのに今のアリアお姉さん、二択の内から一つしか選んでない感じなんだもん』
『!』
『このまま世界が消えちゃうか、それとも自分を犠牲にして世界を消えさせないか。その二択だけしか考えて無くて、三択目を考えてない。それって、アリアお姉さんらしくないよ』
『……』
過去にマシラで出会ったアリアが宣言した言葉を覚えていたマギルスは、現在のアルトリアが自分の知る
それを聞いて初めて過去と現在のアルトリアで思考に大きな違いがあるのだと気付いたエリクとケイルは、唖然としながら表情を強張らせた。
するとマギルスは、旅を通じて
『それにさ、なんか
『?』
『何かを
『……!!』
『僕達が今まで頑張って来たのって、アリアお姉さんを助ける為じゃん。なのにそのアリアお姉さんを助けられずにこのまま帰っても、僕等は今まで何してたのってなるもん』
『……ッ』
『僕、そういうの
成長しながらも子供らしい意見を述べるマギルスの言葉に、大人であるエリクとケイルは自分達の思考が酷く硬直していた事を自覚させられる。
成長し現実に向き合う時間が増え続ける『大人』にとって、この世界が綺麗事では何も解決しないという状況が多い。
それ故に思考は硬直しがちなり、解決できる手段が現実に見合うような限られた
そうした『大人』に知らず知らずの内に至った事を自覚したエリクとケイルは、現在のアルトリアもそうなっているのだと気付く。
マギルスは『子供』故にその違和感に気付き、誰の悩みも解決できる方法を選ぶよう促した。
それを聞いて改めて思考を柔軟に戻そうとするエリクとケイルは、第三の選択肢を考えようとする。
しかしその前に、ケイルはそうした事を伝えたマギルスに敢えて問い掛けた。
『……分かった。でも、その第三の選択ってのを考える時間の余裕が無さそうだぞ。それに考えられたとしても、アリアの奴を説得して納得させないと……』
『それなら、僕に考えがあるよ!』
『!?』
『あるのかよ、アリアを助けて世界を救える方法が……!?』
『うん! でも、成功するかは分からないけどね』
『どんな方法なんだ?』
『ほら、
『
『ほら、なんだっけ。相手の乗り物に何か仕掛けて、僕達が追ってるのをバレないように騙してたやつ!』
『……偽装の事か?』
『そうそう! それと同じ事をして、システムってやつを騙すんだよ。――……世界は、もう消えちゃってるんだってさ!』
『!!』
『そうすればさ、システムってのも計画を止めるんじゃないかな? もう世界は消えちゃってるんだから、計画を進める必要は無いんだし。ね、どうかな?』
マギルスは自分が考えた手段を自信満々に明かし、それを聞いたエリクとケイルは一層の驚きを浮かべる。
それは『子供』のマギルスだからこそ、辿り着けた
そうしたマギルスの言葉によって、エリクとケイルもまた第三の選択肢に導かれる。
するとアルトリアが居るマナの
そうして場面は、再びマナの
するとマナの大樹に近付きながら虚空の前方に両腕を広げたアルトリアは、自身の周囲に投影された
それを両腕を動かし各指で操作を始めると、アルトリアは後ろに控える三人に伝える。
「――……私が
「五分って、そんな短時間で出来るのかよっ!?」
「作るだけなら、偽装情報は間に合うわ。でも問題は、その
「どういうことだ?」
「
「……そ、そうか。凄いな」
「
アルトリアは
そして騙す為の手順について話すと、疑問を抱いたケイルが後ろから問い掛けて来た。
「……だが、自爆はどうやって止める? ギリギリで偽装した情報を送っても、自爆を止められなきゃ意味が無いだろ」
「それも偽装した
「……よく分からんが、最初からそれをやって自爆を止めた場合は?」
「さっき言ったのと同様に、
「じゃあ、その命令って言うのを二重にした時点で、偽装がバレるんじゃねぇか?」
「可能性はあるわ。でもウォーリスや私がさっきまで
「……だから計画が上手く進んでいるように騙して、システムって奴が目的を達成させたように思わせるわけか」
「そういうこと。――……さっき、エリクと戦ってたウォーリスと同じよ。
「!」
「でもそのままだと、現世で死んだ魂が
ケイルの疑問についてこう答えるアルトリアは、偽装情報を下にした一時的な自爆回避も時間稼ぎにしかならないと教える。
しかし背後に立つエリクが、力強い言葉でアリアに伝えた。
「だが、それでもやるしかない。頼む、アリア」
「……分かったわ。騙してやろうじゃない、世界をっ!!」
エリクの励ましを受けながら偽装情報の作成を急ぐアルトリアは、次々と投影される
そうして一つの
そして時間は残り三十秒となった時、アルトリアは息を吐くように告げる。
「――……はぁ……。……騙す為の
「!」
「後は、時間ギリギリに
「俺は、今の君を信じる」
「僕も!」
「
「そう。――……じゃあ、行くわよっ!!」
「っ!!」
残り時間が三秒を切った時、アルトリアは完成した
そして自分達が選んだ第三の選択肢が成功することを願うように、その場に居る全員が表情を強張らせながら瞼を閉じた。
そして
それは世界の消失を意味し、同時に
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