神人の条件
屋敷にて軟禁されていた
それを聞き入れたジェイクと別れを告げた後、アルフレッドとリエスティアが乗る馬車に合流し、再び三人でゲルガルド伯爵領地までの帰路を辿る事になった。
しかしその途上、ウォーリスは改めて『黒』であるリエスティアに問い掛ける。
それは帝都の
『――……では、聞かせて貰おう。あの
『ただの女の子ですよ。まだ幼くて、とても未熟な女の子です』
『ただの女の子が、あの年齢であんな
『そうじゃないですよ。あの
『ではアレも、聖人の
『そうですね。……アレは、人が本来できること。けれど知識と技術を頼り繁栄させる形で進化した人間では、辿り着けない領域の
『……?』
『聖人とは、言わば人間という種族の進化によって辿り着ける最高の領域です。肉体と精神を鍛え抜く事で、超人的な能力を身に着ける事が出来ます。……しかし、それだけでは本当の聖人ではありません』
『本当の……聖人ではない?』
『真の聖人とは、肉体と精神、それに合わせて魂すらも鍛え抜いた存在。その三つが合わさり一つの存在として極められた時、聖人を遥かに超えた聖人、神の領域へ辿り着ける【
『
『人の身のまま、神の領域へ至れる人間。それこそ、私達が唱える真の聖人ということですね。……過去に不自然ではない形でそうした存在に成れた人間を、私も数人しか知りません』
『……では私のような
『そうですね』
『そして、あの少女こそが……その
『それは、まだ
『……まだか。つまり将来、神人にまで至れる可能性があるということか。……そしてゲルガルドも、
ウォーリスはリエスティアの話を理解し、自分には無い
『人間』という種族が進化した『
それこそが倒すべきゲルガルドが到達している領域であり、どれだけ鍛えても自分が敵わぬ存在だと察知する原因でもあったのだ。
『
『どうやったら、私もその
『……やはり、なる気ですか?』
『そうしなければ、私はゲルガルドを倒せない。……教えてくれ』
『……【
『ならば私は、一つ目の条件を
『はい、私が見る限りは。……そして二つ目が、多くの者達から信仰の対象にされる事です』
『信仰……?』
『人々の想いが集まる者。それが希望であれ絶望であれ、様々な感情を向けられる立場になること。それこそが、二つ目の条件です』
『……国の王や指導者という立場になれば、自然と己の身に集まる
『そういうことですね』
『なるほど。……それで、三つ目は?』
最後の条件を問い掛けるウォーリスに、リエスティアは躊躇うように口を閉じる。
それを察したウォーリスは、先程よりも強い口調で問い掛けた。
『教えてくれ。三つ目の条件を』
『……
『!』
『自分の身でも、自身が因果として関係する人物達でもいい。貴方の選択によって、多くの
『……!!』
『多くの者は、一つ目や二つ目の条件を達成することは難しくありません。……しかし三つ目を達成できる聖人は、あまり多くありませんね』
『……聖人であっても、三つ目の条件を達せられる程の
『そうですね』
『どれだけ殺せばいい?』
『軽く、万単位は』
『!?』
『そして
『条件の中に、更に条件があるのか?』
『はい。……それは奪う生命の中に、愛する者も含まれていることです』
『……!!』
『その三つの条件を満たす事で、貴方もまた
ウォーリスは『神人』に至る為の条件を聞き、その中に当て嵌まる者達が自然と頭に浮かび上がる。
その中には
だからこそウォーリスは両手を握りながら力を込めて、震える口で言葉を漏らす。
『……私は、愛する者さえ殺さなければ……奴に勝てないのか……っ!?』
『彼も偶然ながら、そうして
『……だが、あの少女は……。……あの
『少し違います。彼女の場合、魂が特別なんです。だから既に、生まれながらに二つ目と三つ目の条件を満たしてしまっている』
『!!』
『あの子はまだ聖人ではなく、身に余る
リエスティアはそうして『
それを聞かされたウォーリスは顔を俯かせながら表情を強張らせ、短くも荒々しい息を漏らした。
ゲルガルドを倒す為には、自分も同じ『
しかしそれを達成する為には、自身が愛すると言える者達を殺さなくてはならない。
言わば最悪の『
『先程の話は、自然に【
『!』
『
『……言葉だけは聞いた事はある。マナの樹という大樹に生える、果実のことだな?』
『そうですね。
『!』
『それを食べる事が叶えば、三つ目を無条件で
『なら、私もそれを食べれば……!』
『貴方も
『……ッ!!』
『もう一つ、マナの実に変わる代用品は存在します。ただそれに関しては、二つ目の信仰に関して
『代用品……?』
『現在の人間大陸では、それを【
『……仮に
『そういうことです。……現状の人間大陸で最も現実的に作れそうなのは、
『ならば、どうすれば……』
『神人』へ至れる為の説明を続けていたリエスティアは、そこで続けていた言葉を止める。
顔を伏せていたウォーリスはそこで改めてリエスティアと向き合うと、そこには真剣な表情を浮かべた幼い顔が見えた。
『ここから先は、貴方自身が決めなければいけません』
『……君の、制約か?』
『はい。……私は、必要だと思える事なら教えられます。導くことも出来る。けれどその知識を用いて何を成すかは、貴方が選択次第です』
『……』
『私が教えた事を、覚えておいてください。それがきっと、貴方の運命を切り開くことに繋がります』
『……君の予言だ、覚えておこう』
『そして、もう一つだけ。……これから先、何が起こっても耐え抜いてください』
『……?』
『私が貴方に言える事は、これで全部です。……後は全て、貴方に託します』
『託す……? 何を言っているんだ』
『少し、眠くなりました。……おやすみなさい』
『おい……っ』
唐突にそう言いながら座席へ身体を預けたリエスティアは、周囲にある毛布で身を包みながら眠り始める。
それを止めようと手を伸ばしたウォーリスだったが、瞼を閉じてそのまま横になるリエスティアを止められず、数秒で寝息を立て始めた為にそれ以上の追及を出来なかった。
二人の会話はそれ以後も途切れ、食事時以外の時間はリエスティアが眠る事が増える。
まるで会話を拒むようなリエスティアの対応は、ウォーリスに不穏な未来を予感させるのに十分だった。
二日間の帰路は過ぎ、三人を乗せた馬車はゲルガルド伯爵領地に戻る。
そこでウォーリス達を待っていたのは、当時の彼等には予測できない
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