運命の伝導者
ウォーリスの子供を出産した侍女カリーナだったが、その際に起きた出来事である事実が判明する。
それは生まれた娘の周囲で起こる魔力効果が全て消失するという事象であり、更に両親とは異なる瞳を持つ黒髪黒瞳という姿をしていた事だった。
その事象と姿を実際に目にしたウォーリスは、自身の娘の正体がゲルガルドから聞いていた『黒』の
しかしそれを確信できぬまま半信半疑で三年という年月は流れ、ウォーリスが二十三歳になった頃に景色は移った。
『――……カリーナ。そろそろ、
『……はい』
納屋の外で日に当たりながら車椅子に座るカリーナは、呼び掛けるウォーリスに顔と視線を向けながら微笑む。
しかし身体や顔の肉付きがやや細り、表情にも以前に見えた有り余る元気らしさが失われているカリーナに、ウォーリスは表情を僅かに強張らせながら車椅子を押した。
三年前に出産したカリーナだったが、その際に起きた事故によって後遺症を受けてしまう。
出血した傷口から多くの血液を失った為に内蔵機能が弱まり、全身の筋肉が衰え続けていた。
それ故に自分の足では満足に歩く事も出来なくなり、車椅子の生活を余儀なくされてしまう。
ウォーリスはそんな
しかし日課となっている鍛錬や実験を止められてはおらず、ウォーリスは日中の介護と夜の鍛錬を繰り返す日々を送っている。
そしてカリーナの車椅子を押しながら納屋に戻ろうとするウォーリスは、庭園にある
『リエスティア、戻るぞ』
『――……はい、
そして両親とは異なる黒い瞳で二人を見ながら、ゆっくりと歩きながら二人の後を付いて来た。
ウォーリスは生まれた自分の娘に対して、リエスティアという名を付けている。
しかし父親であるはずのウォーリスは、
その理由には、主に二つの要因が上げられる。
一つ目の理由は、
その可能性を出産後に気付いたウォーリスは、それから『黒』という存在について実験室内の資料から独自に調べていた。
『黒』の
更に元四大国家であるフラムブルグ宗教国家では、『繋がりの神』として奉られる
その正体は、この世界を創造した『
端的に考えれば、ウォーリスが憎悪している
二つ目の理由は、最愛の女性であるカリーナが衰弱している原因でもある為。
リエスティアは自身を中心とした一定範囲の魔力効果を消失させてしまう体質の為に、あらゆる魔法や魔道具の効力を打ち消してしまう。
それが原因で出産後の治療が遅れてしまったが為に、カリーナがこのような状態になっているのだとウォーリスは考えてもいた。
そうした理由によって
しかし母親であるカリーナは、そうした事を気にせずにリエスティアに優しく接する母親で在り続けていた。
奇しくもリエスティアの状況は、幼いウォーリスに冷淡な
しかしウォーリスは憎悪するゲルガルドに対して、
『――……奴はまだ、
ウォーリスはそうした思考により、衰弱したカリーナを守るべく
しかし日に日に成長するリエスティアの様子を確認していく内に、『黒』の
リエスティアは赤ん坊の頃からほとんど夜泣きもせず、成長しながら教えていない言葉や物の名を口にし始める。
更に年齢に似合わず落ち着いた面持ちを見せ、凡そウォーリスの目の前では子供らしい様子を見せる事が少ない。
しかし相反するように、
ウォーリスはそんな
そんなある日、カリーナが
『――……リエスティア。話がある』
『何でしょう、御父様?』
『お前は、普通の子供ではない。そうだな?』
『……』
『この三年余り、お前を見続けて来たからこそ分かる。……お前の体質、そしてその落ち着きすぎている物腰。……お前は、【黒】と呼ばれている
率直に問い質すウォーリスの言葉に、リエスティアは動揺する様子も無く視線を逸らす。
そして逸らした視線を
『……そうです』
『!』
『貴方の言う通り、私は【黒】と呼ばれている存在です』
『……やはり、そうか。……なんで、よりにもよって……っ!!』
『何故、貴方の娘として生まれたのか。……それは、残酷な運命としか言い様がありません』
『残酷な、運命だと……!?』
『でも、その運命が私をここまで導いた。――……御父様。いいえ、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。貴方には、その運命を変えて頂きたいのです。……それが、貴方の大切なモノを救う事に繋がります』
『!?』
『黒』として告げるリエスティアの言葉に、ウォーリスは困惑の表情を浮かべる。
彼女の話す言葉は予想を超えるモノばかりであり、当時のウォーリスはその意味を全て理解する事が出来なかった。
しかしそれは同時に、彼とその周囲を巻き込むように暗雲の未来へと導く言葉でもあった。
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