革命編 七章:黒を継ぎし者
反逆の道筋
その最中にマギルスは自身の肉体を犠牲にして攻撃の隙を作り出し、エリクは自分の
しかし結果として、
それは誰もが望む結末ではあったが、その仮定まで導いた者を知るのは、極少数だけだった。
その極少数に数えられる人物に居るところに、場面は移る。
それは
「――……クッ」
「……生きて、いるな?」
「ええ……」
続けてルクソード皇国の皇王シルエスカが歩み出ると、その後ろからアズマ国の
黒い塔の内部で
しかし周囲の惨状を改めて見るシルエスカは、表情を険しくさせながら呟いた。
「……酷い有様だ。……他に、生きている者は居るだろうか……?」
「生きています。親方様ならば」
塔の瓦礫や
そして
「……その
「!」
「血の匂いは無い。恐らく無事だろう」
「……感謝します、魔人殿。……シルエスカ殿、私は親方様と合流させて頂きます」
「分かった。何かあれば、すぐに呼んでくれ」
それを見送ったシルエスカは、続けて口を開くエアハルトの言葉を聞いた。
「あっちには、ゴズヴァールだな」
「生きているか?」
「血の匂いはある。だが、そこまで多くない。奴なら生きているはずだ」
「そうか。……良かった」
ゴズヴァールの匂いも嗅ぎ取ったエアハルトは、そうした情報も伝える。
すると安堵の表情で口から息を漏らすシルエスカは、自分達を先へ進ませる為にを庇い残ったゴズヴァールの生還に胸を撫で下ろした。
しかし次の瞬間、エアハルトの視線が細まりながらある方角に睨みを向ける。
それはテクラノスが破壊した黒い塔の先端部分であり、そちらから漂う匂いをエアハルトは感知して見せた。
「……だが、敵も生きているようだな」
「!」
「人形達を操っていた、魔力の匂いだ。……まだ、術者は生きているということだろう」
「……そうか。……私一人で手に余るようであれば、頼めるか?」
「俺だけでも、問題は無い」
「そうは言うがな。……この戦いに身を投じた者として、決着は見届けたい」
「……フンッ」
エアハルトの伝えた方角へ身体を向けたシルエスカは、大きく疲弊した様子を見せながらも赤槍を支えにして歩き始める。
それを追うように歩き始めるエアハルトは、周囲の匂いを嗅ぎ取りながら索敵を続けた。
そうして二人が辿り着いたのは、巨大な敵施設の瓦礫が山積みとなっている場所。
そこをエアハルトに案内されながらよじ登るシルエスカは、共に異様な施設を自身の目で見る事になった。
「これは……!?」
「……脳みそか?」
二人が見つめる施設は、脳の形を模した人工物。
その下には脊髄と思しき黒い骨も見え、脳も含めて全て
更に異様なのは、それが青い
まるで生物研究に使うようなホルマリン漬けにされた人工の脳髄を見て、シルエスカは眉を顰めながら呟いた。
「何故、こんなモノが
「……コイツから、死体や人形共を操っていた魔力の匂いがする」
「なに……?」
『――……そう、これが私の本体です』
「!?」
エアハルトの言葉を聞き、死体と人形達を操る魔力が目の前の脳から放たれていると聞いたシルエスカは困惑を浮かべる。
それを肯定するように、脳髄から僅かに赤い点滅が放たれると、試験管内を通して二人に聞き覚えのある声が届けられた。
その声を聞いたシルエスカは目を見開きながら身構え、赤槍を向けながら問い質す。
「……貴様が、アルフレッド……なのか?」
『ええ』
「まさか、脳だけで生きている……と、呼べるのか……!?」
『私には肉体が無い。だからこそ、表で動く為には機械で造られた
「……だから、脳だけを切り離して……遠隔で、機械の身体や人形達を操っていたとでも……?」
『そうです』
「……そうまでして、生き永らえたかったのか? こんな姿で生かされながら、ウォーリスという男に忠誠を誓っていたと言うのか?」
脳髄だけで生かされるアルフレッドの姿を目にしたシルエスカは、その心情を理解できずに首を横に振りながら問い掛ける。
しかしその答えは、シルエスカの予想するモノとはならなかった。
『いいえ』
「!」
『私は確かに、ウォーリス様に忠誠を誓っています。しかしそれ以上、私は彼の友として、そして同じ志を抱く仲間として、彼の目的に付き従った。だからこそゲルガルドを騙す為に、私達は利用されているフリをし続けたのです』
「ゲルガルドだと……!? どういう事だっ!!」
『ゲルガルドは、ウォーリス様の
「!」
「奴は肉体から引き離しても、精神体のまま永遠に現世を彷徨い、次の依り代を探して生き続ける。そして取り逃がせば、奴は己の目的を成し遂げる為に身を隠し、奴の存在が忘れられた頃に次の犠牲者が生まれてしまう。……だからウォーリス様と我々は、表向きは奴の計画に協力し、奴に従う忠実な駒であるように思わせていた』
「!?」
『しかも、奴は
「……!!」
『だから私達は、奴が目的を叶える寸前……肉体から離れられない絶好の機会を待ち続けた。……それは同時に、
「……まさか、それが……!?」
『そう、それが
そうした言葉を電子音で伝えるアルフレッドに、シルエスカは理解し難い驚愕を浮かべる。
二人の話を傍らで耳にするエアハルトは、その話を理解する素振りは無く、ただ黙って二人の話を聞いていた。
すると神殿の入り口に続く大階段付近においても、その話を語り聞く者がいる。
語るのは『
「――……
「……」
「
「……その
「他にやり方は、幾らでもあったはずだ。奴の存在を我に知らせれば、犠牲も少なく、滅する方法を幾らでも手伝えたというのに」
「お前は信用できないと、ウォーリス様が判断した。……奴が血族に憑依していた秘術も、元はお前の一族が編み出した秘術なのだろう?」
「……だからこそ、そんな事をしている者がいると知れば、我が真っ先に止めていた」
「だから、お前には絶対に気取られたくは無かった。下手な事をされてゲルガルドが逃走し、潜んでしまう可能性があったのだから」
「……ッ」
「それに、この方法はナルヴァニア様とウォーリス様の望みでもある」
「望み……?」
「皇国と帝国の支配層に潜む、ゲルガルドの勢力。それを可能な限り、ナルヴァニア様は減らしたかった。……だからこそ私とアルフレッド殿は、ナルヴァニア様とウォーリス様の意思を実行する役目を背負った」
「!」
「私は皇国とその同盟国を中心に、アルフレッド殿はそれ以外の他国を。互いにゲルガルド勢力を潰し合わせ、それ等を全て【結社】の仕業に偽装し、ゲルガルドに怪しまれない程度に戦力を削り続けた」
「……ルクソード皇族の殺し合いも、その一つか」
「そうだ。……当時、皇国内部の皇族と各貴族派閥のほとんどはゲルガルドの支配下に置かれていた。奴等自体はそれすらも認識していなかっただろうが、経済面でも人材面においても、全てゲルガルドが掌握し操れるようになっていた。……唯一ゲルガルドの手が伸びていなかった皇族は、継承権の順位も低く
「……帝国に嫁いだ姫君か」
「だが次期皇王の候補者が手元に無かったハルバニカ公爵家が、クレア様を旗印として候補者に立てようとした時。ナルヴァニア様はクレア様を政争に巻き込むことを嫌い、当時の帝国皇帝に預けるようにした」
「……何故、その
「例え血の繋がりが無くとも、クレア様はナルヴァニア様にとって、大事な妹君だった。……だからこそ、幸せになって欲しかったのだろう」
ザルツヘルムはそう語り、過去に起きていた事件もまたゲルガルドを仕留める為の下準備であった事を語る。
そして自身の仕えていたナルヴァニアの内情を語り、血の繋がらぬ
すると語り終えたかのように口を閉ざしたザルツヘルムに、『青』は再び問い掛ける。
「では、ウォーリスは?」
「……」
「ウォーリスは何時から、ゲルガルドに反逆しようと考えていた?」
「……五歳頃からだと、アルフレッド殿からは聞いている」
「!」
「ウォーリス様は五歳の時、ゲルガルド伯爵家の秘密を知る立場になった。……そして母親であるナルヴァニア様と引き離され、父親であるゲルガルドに教育を施された。……常人ならば耐えられない、過酷な教育を」
「……ッ」
「自分の父親が代々当主の肉体に憑依している
「出会い?」
「『黒』だ」
「!」
「ウォーリス様は、ゲルガルドよりも先に自分の子を『黒』だと知った。……そして喋れる程に成長した『黒』から、予言を聞いた」
「予言……!?」
「『
「……何だとっ!?」
その話を聞いた『青』は、表情を強張らせながら僅かに震える。
そしてその話はアルフレッド側もシルエスカ達に伝えており、あの『黒』がウォーリス達の反逆に関わっているという事実を初めて聞かされた事に驚愕を浮かべていた。
こうして側近であるアルフレッドとザルツヘルムの二人から、この反逆に至るまでの
それは『ゲルガルド』という
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