悪魔の進化
そしてザルツヘルムは追い付いたマギルスと再戦するも、
更にエリクやケイルを始めとした強者の気配が近付くのを感じ、苦境に立たされながらある決断を行う。
それは自身に身体に組み込まれた赤い
巨大な瘴気の怪物へ変化したザルツヘルムに対して、マギルスとエリク、そしてケイルは立ち向かうように各々の武器を握り構える。
そして大階段を這い上がるザルツヘルムの巨大な瘴気の手が迫り、エリクがそれを払おうと気力斬撃を放とうとした。
「俺が――……」
「アタシがやるっ!!」
黒い大剣を振ろうとしたエリクに対して、それを抑えるようにケイルが横から踏み出す。
そして迫る瘴気に塗れた巨大な手に対して、居合の構えから自身の技を繰り出した。
「
「!!」
ケイルが踏み込みながら腰を切って身体を捻ると同時に、長刀を鞘から引き抜く。
その加速による抜刀と同時に、ケイルも身に着けている新たな
今までエリクが見せていた
そして手の部分を消滅させながら肘辺りまで真っ二つに切り裂き、見事に
それに驚くエリクとは別に、ケイルも自身が放った
「この威力は……アタシの
「ケイル!」
「……エリク、お前は
「いや、俺も……」
「お前が戦うと、寿命を減るだろうが――……っ!!」
「!」
『制約』によって自らの
しかし瞬く間に斬り飛ばされた瘴気の右腕を再修復したザルツヘルムは、更に膨れ上がる巨体で三名が居る大階段をよじ登り始めた。
それを確認したエリクとケイルは、互いに這い上がって来るザルツヘルムに構えを向ける。
しかしその合間をすり抜けるように、
「マギルス!」
「最初に
「こんな馬鹿デカい奴相手に、一人じゃ無茶だぜっ!?」
「大丈夫! ――……今度こそ邪魔されずに、僕達の戦いを決着させないとねっ!!」
『ウヴォオオオオオッ!!』
瘴気の怪物と化したザルツヘルムに対して、マギルスはそう微笑みながら大きく跳躍する。
それに呼応するように瘴気で形成された両手を伸ばすザルツヘルムは、マギルスを握り潰そうとした。
しかし口元のニヤけさせたマギルスが、自身の左手で胸の中心を掴み握る。
そして握る左手を捻りながら青い魔力を心臓部分に帯びさせると、マギルスは今まで見せていなかった
「――……『
「!?」
「ッ!!」
マギルスがそう叫ぶと同時に、青い魔力と生命力の白い輝きが交わるように周囲を包む。
するとマギルスの身体を中心にそれ等の光が纏い始め、半透明の巨大な肉体を形成し始めた。
その大きさはマギルスの身長を大きく上回り、二十メートル前後まで膨れ上がる。
更に半透明の肉体には
『――……そっちも
『ヴォォオアアッ!!』
『僕の、変身だぁっ!!』
まるで
その大鎌から放たれる衝撃と威力は瘴気すらも微塵も残さず消滅させ、マギルスの形成した巨体を落下させながら、迫る怪物の脳天へと大鎌を振り下ろした。
しかし次の瞬間、
それは赤黒い瘴気が瞬く間に黒の色合いを強め、それが巨大な大鎌の刃を受け止めながら弾き飛ばした。
そして大鎌と巨体ごと弾かれたマギルスは、大階段側へ着地しながら驚きを浮かべる。
『うぇっ!?』
『――……すまないな。少年』
『!』
『全てを制御するのに時間が掛けて、醜態を見せてしまったようだ』
『うわっ、マジかぁ』
「あの化物、喋ってやがる……!?」
「……嫌な感覚が、さっきより強まった……ッ」
突如として黒く染まりながら鎮静化した怪物の中から、落ち着いた声が響き渡る。
それを聞いたマギルスは状況を察するように苦笑いを浮かべ、ケイルやエリクは状況が悪化し始めているのを感覚で察した。
そして肥大化を続けていた怪物の瘴気が、瞬く間に収縮しながら一箇所へ集まっていく。
その中心地に人の姿を模した瘴気が集まり終えると、そこには再び一人の
しかしその存在感は、対峙する三名に悪寒を走らせる。
悪魔の背格好はザルツヘルムに似ながらも、顔立ちは二十代に見える程に若々しく変化していた。
更に額と頭部に合計で五本の角が生え、背中には悪魔の翼と思しき四枚の羽が生えている。
更に上半身は裸体ながらも、獣染みた黒い毛に覆われた下半身と両腕は、今まで見せていたザルツヘルムの姿とは大きく異なっていたのだ。
その形態が今までとは更に異質な姿である事を理解しているマギルスは、頬に一つの汗を流しながら口元を微笑ませる。
『おじさん、何やったのさ?』
「……私の肉体には、ある
『!』
「私は
『……!!』
「君達がその
『え――……ガハっ!!』
そう言い放った次の瞬間、ザルツヘルムはその場から姿を消す。
瞬きもしないままザルツヘルムを見失ったマギルスは、
しかし次の瞬間、凄まじい衝撃がマギルスを襲う。
消えたように見えたザルツヘルムはマギルスを包み込む
その威力と衝撃波は胸の内部に居たマギルスに届くように響き、大きく口を開けさせながら赤い血を吐き出させる。
大階段の
辛うじて巻き込まれずに済んだ二人だったが、すぐに後ろを向いて確認した時には、
「マギルスッ!!」
それがただの一撃で重傷を負わされるという事態は、少なからずマギルスの実力を知るエリクを動揺させた。
しかもエリクの動揺が治まらず気を僅かに逸らしたエリクの背後に、ザルツヘルムの黒い姿が見える。
それが悪寒としてエリクの身体を震撼させると、死を予感させるようなザルツヘルムの黒い拳が放たれた。
「グゥッ!!」
「フッ」
エリクは咄嗟に悪寒が走る背後に大剣を振り翳し、ザルツヘルムの黒い拳を迎撃する。
しかし
「ぐぉ……っ!!」
吹き飛ばされたエリクは、マギルスと同様に大階段へ激突する。
叩きつけられた衝撃と傷みでエリクは短く悶絶すると、その隙を逃さぬようにザルツヘルムが右手を手刀に変えながら飛び掛かろうとした。
しかし次の瞬間、迫ろうとするザルツヘルムの
それを察知し身体を引かせながら
そして庇われる形で目の前に立った人物を見て、エリクは苦々しい声を浮かべる。
「ケイル……!」
「二人共、少し休んでろ。――……それまで、時間稼ぎはしてやる」
悪魔として更なる進化を遂げたザルツヘルムを前にしたケイルは、倒れながら悶えるエリクとマギルスにそう伝える。
そして自らが会得した『
目の前に居ながら気配が薄れていくケイルに、ザルツヘルムは僅かに眉を顰める。
しかしそれを意に介さぬように、自身も瘴気の長剣を右手に生み出しながら言葉を口にした。
「その髪、その肌。……皇国の南方に居た、ルクソードの血を引く部族か」
「!」
「話には聞いていたが、本当に生き残りが居たとは。……それは不運なのか、幸運だったのか。分からないものだ」
嘲笑染みた言葉と笑みを浮かべるザルツヘルムに対して、
しかし昂りそうな己の精神を沈めつつ、ケイルは鋭い眼光を向けながら口を開いた。
「……捕まった一族を、どうした?」
「ルクソードの血を継ぐ
「……」
「その実験を皇国で引き継いだのが、ランヴァルディアだった。……あの一族で生き残っているのは、お前だけだ」
「……そうかよ。……テメェ等だけは、絶対に許さねぇ」
自身の一族について改めて結末を知らされたケイルは、無意識の境地に至りながら揺らぎの無い怒りを向ける。
それと同時に踏み込んだケイルは
エリクでさえ捉えるのが難しいケイルの動きに対して、ザルツヘルムはそれを凌駕する反射神経で対応する。
迫るケイルの長刀を瘴気の剣で受け止め、逆に弾きながら攻めるように瘴気の剣を縦横無尽に幾度も放った。
しかし凄まじい速さと威力で放たれる瘴気《ザルツヘルム》の剣を、ケイルは避けると同時に受け流しながら逆撃を行う。
未来では悪魔化したアリアに一方的に蹂躙されるしかなかったケイルだったが、
こうして悪魔として更なる進化を見せたザルツヘルムに対して、『赤』の
その傍らでマギルスとエリクは魔力と
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