力の代価
『天界』へ向かう
そしてそれぞれが
すると先に起きていたマギルスが床の上で逆立ちしている様子を見るエリクは、寝起きの声で呼び掛ける。
「――……マギルス?」
「あっ、おじさん。おはよ!」
「ああ。……どのくらい、俺は寝ていた?」
「半日くらいじゃない? 僕もそれくらい寝てた!」
「そうか。……何をやっているんだ?」
「準備運動!」
「そうか」
逆立ちしながら両手で部屋の中を歩くマギルスの奇怪な行動にも、エリクは動じる様子は無い。
そんなエリクに対して、マギルスはそのままの状態で話を続けた。
「おじさんの調子はどう?」
「……問題は無い。戦える」
「そっか。……おじさん、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「おじさんって、何かしてるよね」
「何か?」
「ほら、未来でクロエの試験から戻って来た時にさ。エリクおじさん、見た目だけじゃなくて強さも雰囲気も前と違ってたじゃん。だから、試験で何かやってたのかなって」
「……俺の
「へぇ、それだけであんなに強くなれるの?」
「……」
「『牛』のおじさん達から聞いてるけどさ。おじさん、巫女姫の修行では身体を使った訓練はしてなかったんでしょ? なんでそんなに強いの?」
「……いいや、何もしていないわけではない」
上半身を起こしていたエリクは寝台から足を降ろし、床に着ける。
そしてマギルスの方に身体を向けながら、
「俺は、俺自身に
「
「俺自身の実力では、
「!」
「アリアは自分に『
「……じゃあ、おじさんが凄く強くなってるのは、その『
「そうだ」
「ふーん、どんな『
「俺の『
「へー――……えっ!?」
エリクが自らに『
すると思わぬ返答が帰って来た事で、マギルスは驚きを浮かべながら逆立ちしている姿勢を崩して転がるように床へ倒れた。
そんなマギルスに対して、エリクは自らが敷いた『
「俺が今の自分が持つ実力以上の
「……マジ?」
「そうでもしないと、俺は誰にも勝てない。そう思って、そういう『
「……もしかして、未来の戦いでも……今までもずっと?」
「ああ」
「おじさんって、今は『聖人』だよね。だから寿命が千年だとしたら……もう、どのぐらい使ってるの?」
「……この戦いが終わるまでは、大丈夫だ」
自身の寿命がどれほど残っているかを問い掛けられた時、エリクは敢えて年数を明かさずにその言葉だけを返す。
それを聞いたマギルスは横に倒れている自身の身体を戻しながら床へ座り、改めてエリクに問い掛けた。
「それで良かったの?」
「ああ。これでいい」
「そっか。……じゃあ、僕は何も言わない。でも、ケイルお姉さんが知ったら怒りそうだね」
「……そうだな」
「そういえば、寝る前にケイルお姉さんと話をしてたんだよね。何の話してたの?」
「……『青』と協力している者が、アリアだという話だ」
「えっ?」
「だが、そのアリアは俺達の知るアリアではないと言われた。……恐らくアリアの
「ふーん、それなら色々と納得かな。ウォーリスって奴の目的を知ってたのも、未来のアリアお姉さんだからなんだね。……それで?」
「……
「あっ、そっか。
「……ああ」
「じゃあ、それでいいんじゃない? 未来のアリアお姉さんに手伝ってもらって、攫われたアリアお姉さんは助ける。それでいいじゃん」
呆気も無くそう述べるマギルスの言葉に、エリクは頷きを見せる。
しかし浮かない表情を見せるエリクに、マギルスは首を傾げながら問い掛けた。
「どうかしたの?」
「……またアリアは、自分を犠牲にする策で動いているかもしれない」
「えっ」
「具体的な方法は分からない。……だが、アリアが俺達の力を頼りながら、自分がウォーリスを倒す策を考えていないはずがない」
「あー……。確かに、何か考えてそうだね。アリアお姉さんだし」
「そうなる前に、ウォーリスを倒したいが……。……奴に飛ばれながら戦われたら、今の俺では攻撃が届かない」
「おじさんの
「いや、恐らく駄目だろう。もっと速く、自由に飛べなければ……奴に迎撃されてしまうだけだ」
エリクはそう言いながら自身の傍らに置いている破損した
如何に寿命を上乗せしたエリクの斬撃が強力であろうと、飛翔が出来なるウォーリスに対して直接的な有効打は与えられない。
遠距離で斬撃の撃ち合いとなれば、
実際にウォーリスと対峙したエリクは、今の自分が持つ装備だけでは対抗できない可能性を考えていた。
そんな時、不意に扉を叩く音が響く。
それを聞いたエリクとマギルスは扉に視線を向けると、二人の返事を待たずに扉が開けられた。
すると扉を開けた人物に対して、マギルスが声を向ける。
「あっ、『青』のおじさん」
「――……傷と、疲れはどうだ?」
「僕は平気!」
「そうか。……そちらはどうだ?」
「……身体は問題ない。ただ……」
訪れた『青』の問い掛けにマギルスは応え、エリクも自身の体調について伝える。
しかし別の懸念を抱くエリクの視線が破損した
「なるほど、装備か。……実はお前達の為に、装備が用意されている」
「なに?」
「えっ、僕のも?」
「そうだ。……もし欲しければ、また付いて来い」
「……待て」
再び付いて来るよう促す『青』は、背を向けながら扉から出て行こうとする。
しかしそれを呼び止めたエリクは、寝台から腰を上げて立ち上がりながら『青』に問い掛けた。
「俺達の装備を用意していたのは、お前の言っていた協力者だな?」
「……如何にも」
「それは、未来の……俺達と戦った、あのアリアか?」
「……それは、本人に聞くといい」
「何だと……?」
「いずれ、その
「……?」
「アレは、我等が知っておる者ではない。もっと別の
「……どういうことだ?」
「それ以上は、我からも言えぬ。……さぁ、来るといい」
敢えてそうした言い方で語る『青』は、協力者に関する素性を明かさずに扉から出て行く。
それに
こうして協力者が未来のアリアだと考えるエリクだったが、その素性を知る『青』からは何の情報も得られない。
しかし自分の為に用意された武装がある事を知り、その気遣いに僅かながらもアリアの懐かしさを感じていた。
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