少年の成長


 同盟都市内部の戦況において、一つの決着が迎えられる。

 それは帝国皇子ユグナリスと元特級傭兵ドルフの戦いであり、二人は死闘を終えながらも生き別れて傍を離れた。


 一方その頃、マギルスと悪魔騎士デーモンナイトザルツヘルムは拮抗した戦いを続けている。

 互いに己の武器と五体のみで戦い、特別な能力ちからは特に見せないまま接戦を行っていた。


 すると互いの武器を弾き合い距離を離すと、中空で縦回転しながら綺麗に着地したマギルスは不敵な笑みを見せる。

 逆にザルツヘルムも息一つ乱れぬ様子で剣を構えたまま追撃せず、互いに見合う形で声を向け合った。


「――……こういう闘争も好きだけどさ。そろそろおじさん、本気でやらない?」


「貴方が本気で対峙するのであれば、私も出し惜しみはしません」


「そっか。――……じゃあ、ちょっぴり本気でやろっかな!」


 互いに不敵な微笑みを見せた後、マギルスは大きく左足を前に踏み出しながら左半身を前に出す。

 そして両手で持つ大鎌の柄を力強く握り締め、隠していた力量の一端を明かした。


「――……『精神武装アストラルウェポン死鎌形態デスサイズ』!」


「!」


 そう叫ぶマギルスに応じ、姿を消していた青馬が一瞬だけ現れる。

 そしてマギルスに憑依した青馬は、青い魔力に変化しながら大鎌に纏った。


 すると大鎌の形状が変化し、その様相に僅かな変化が起こる。

 未来での戦いで見せた『攻撃形態アタックフォルム』とは異なり、その『死鎌形態デスサイズ』の形状は柄が骨のような形になり、その装飾は髑髏ドクロが幾つも飾られたような恐ろしい青い大鎌に変化した。


 それを見たザルツヘルムは僅かに目を見開き、変化した大鎌に注目する。

 一方でマギルスは、不敵な笑みを更に深めながら言い放った。


「んじゃ、行くよっ!!」


「!」


 マギルスは左半身を前に出したまま腰を捻り、大鎌の振りを深くする。

 その瞬間、ザルツヘルムは全身に悪寒を感じさせながら表情を強張らせた。


 捻りを戻しその場で素早く大鎌を振るマギルスは、ザルツヘルムを一閃の先に捉える。

 すると次の瞬間、大鎌を振り一閃させた前方の空間に何かが走った。


 ザルツヘルムはそれに対して特に避けもしないまま、振り終わったマギルスの姿勢を見る。

 しかし次の瞬間、ザルツヘルムの視界は意図しないまま右側へとズレ始め、そのまま地面へと落下した。


「……な……っ!?」


 思わぬ状況に驚くザルツヘルムは、左側に目を向けそこに在るモノを見る。

 それは自分自身の下半身であり、それと同時にザルツヘルムの後方に在った建築物も横一線に切断されて崩れ落ちる音と光景が広がった。


 マギルスはそれを見て微笑みを強めると、改めて姿勢を戻す。

 そして真っ二つになったザルツヘルムを見ながら、笑顔でこう述べた。


「どう? 凄いでしょ」


「……いったい、何を……?」


「すっごい圧縮した魔力を、前方まえに撃ち出しただけ! 極細でね!」


「!」


「フォウル国の干支衆おじさん達に言われたんだよね。魔力を放出させすぎだって。攻撃形態まえのは見た目は派手だったけど、死鎌形態これは極細に圧縮した魔力斬撃で一閃突破いっせんとっぱってやつ!」


 マギルスはそう言いながら自身の新技を自慢するように述べ、真っ二つにしたザルツヘルムに教える。

 それを聞いていたザルツヘルムは目を見開くと、冷静な面持ちを戻しながら呟いた。


「なるほど。やはり私の読み通り、君は危険だな」


「へへぇ。……でも、おじさんは平気そうだね?」


生憎あいにくと、以前のようには死ねない身体なのでね」


「そっか。……でも、元に戻るかな?」


「そんな事は、造作も――……っ!?」


 真っ二つにされながらも平然とした様子のザルツヘルムを見て、マギルスは首を傾げながら問い掛ける。

 それに応じるように体を復元させようとしたザルツヘルムだったが、ある異変が起きている事に気付いて驚愕を浮かべた。


 その異変を知るかのように、マギルスは微笑みながら声を向ける。


「身体、元に戻らないでしょ?」


「……何をした?」


「僕の大鎌かまってさ、ちょっと特殊なんだよね。昔は首無族あのすがたにならないと出来なかったけど――……今は僕の意思で、切った相手の生命いのちを絶てるんだよ」


「!」


「復元とか、再生とか、治癒とか。僕の大鎌に切られた相手は、そういうので回復できない。……悪魔だからって、油断したね。おじさん?」


「……ッ」


 相手の再生や復元を阻害する大鎌の能力ちからを明かしたマギルスは、『悪魔』という異常な再生能力を持つ存在になったザルツヘルムの油断を指摘する。

 そしてマギルスは再びその場で大鎌を振り構えると、今度はザルツヘルムの倒れている首を目掛けて縦一閃に大鎌が振られた。


 次の瞬間、ザルツヘルムの首を切断しながら建物群が縦に割られる。

 それによってザルツヘルムの首が飛ぶと、転がる首を見ながらマギルスはつまらなそうな声を向けた。


「あーあ、もう終わっちゃった。……また首だけになっちゃったね、おじさん」


「……」


「……あれ……!」


 そうした煽りに近い物言いを向けるマギルスは、地面を転がるザルツヘルムの首を見る。

 しかし残されたザルツヘルムの肉体は泥のように変化しながら地面へ溶け落ちると、その場に黒い泥溜まりが作られた。


 それを見たマギルスは何かに気付き、別の方角を見ながら身体を向ける。

 するとそこには、五体満足で建物の上に立つザルツヘルムの姿が確認できた。


 それを見た瞬間、マギルスは訝し気な表情を浮かべる。

 するとザルツヘルムは自ら地面へ降り立ち、マギルスに向けて言葉を放った。


「――……君の手の内を明かしてくれた礼として、私も教えよう。……残念ながら、私の命は一つではない」


「!」


「私が取り込んだ悪魔達と、人間達の生命いのち。数万を超えるだろう命が尽き果てない限り、私を殺すのは不可能だ。少年」


「へぇ。あのランヴァルディアって人と同じ感じかな?」


「ランヴァルディアは優秀な科学者ではあったが、戦闘に関しては素人だった。だからこそ、君達もある程度は拮抗できたようだが。……だが、私は違う」


「!」


「どれ程の能力ちからを得ようとも、生ける者の生命ちからには限度がある。――……私を殺し切れるまで、君の体力と魔力が持つだろうか?」


 ザルツヘルムはそう述べ始めると、マギルスの視界に新たな景色が見え始める。


 それはザルツヘルムの後方に現れる数多のザルツヘルム達と、彼等の影から溢れ出る異形の下級悪魔カイブツ達。

 更に自らの肉体を瘴気の鎧で覆い始めたザルツヘルム達は、マギルスに対して一斉に攻め込み始めた。


 それを見たマギルスは驚愕と同時に嬉々とした表情を見せ、歯を見せながら笑う。

 そして大鎌に纏わせた精神武装アストラルウェポンを解きながら、今度は両足に纏わせる俊足形態スピードフォルムに即座に変えた。


 すると次の瞬間、マギルスがその場から消える。

 そして次に現れたのは、現れたザルツヘルム達と怪物達の首や胴体を真っ二つにし、それ等の後方に現す姿だった。


「ッ!?」


「……ようはさ、おじさんの命を全部刈り取ればいいんだよね。――……そんなつまらない雑魚戦ことなら、何万回でも余裕だねっ!!」


 マギルスはそう微笑みを強め、再び影の中から現れるザルツヘルム達に視線を送る。

 そして中空に浮かんだまま物理障壁を生み出し、それを足場にして音速にさえ届く素早さでザルツヘルム達や下級悪魔カイブツ達を真っ二つにしていった。


 瘴気を纏うザルツヘルムの鎧すら諸共しないマギルスは、次々と現れるザルツヘルムのストックを排除していく。

 自身が目指すべき境地へ二年余りの時間で辿り着いていたマギルスは、凄まじい機動力と殺傷能力によって悪魔達とザルツヘルムを圧倒する様子を見せていた。


 こうしてザルツヘルムと対峙するマギルスは、未来の戦いを経てフォウル国で修練を施された結果、更なる成長した強さと姿を見せつける。

 その姿は数で圧倒するザルツヘルムに反撃させる暇さえ与えず、まさに死を司る『死神かみ』を彷彿とさせる首無族デュラハンとしての能力ちからを発揮していた。

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