求めぬ姿
紙札を用いて妖狐族クビアと交信できた帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトの二人だったが、そこで思わぬ情報が飛び込む。
それは『
それを聞いたユグナリスは憤慨していたが、エアハルトの鋭い言葉によって逆上させた感情を引っ込められてしまう。
更にこうした事態を引き起こし多くの者達を巻き込み犠牲としたことをエアハルトに咎められ、見限られる形となりユグナリスと別れる事になった。
こうしてウォーリスを追う二人が分散し、同盟都市建設予定地までエアハルト単独で足を進める。
一方でその頃には、夜に覆われている帝都でも次の異変が目に見える形で押し寄せようとしていた。
「――……閣下! 魔法学園に依頼していた通信用魔道具の修復が、完了したようです!」
「そうか。
「確認してみます!」
貴族街の正門内側にて生存者達の指揮を執っていた帝国宰相セルジアスの耳に、魔法学園に借り受けていた小型通信用の魔道具から報告が入る。
それは
この
そうなれば帝都に及ぶ危険度と周囲に対する対策が行え、帝都に留まる上で必要な物資が優先的に集める事が出来るとセルジアスは考えた。
しかし
そうした対応も魔法学園側から依頼していた為、セルジアスは苦労するであろう
そこで魔法学園から寄越された返答は、セルジアスが納得できる内容として返って来る。
「……駄目です! 少数での移動ならば可能ですが、
「そうか。
「しかし、
「移動自体はパール殿の
「ハッ!!」
「魔法学園側には、
セルジアスは即座に決断し、自ら魔法学園に赴いて各領地と各国への救援要請を行う事を決める。
そして壁内の部屋から出て来ると、パールと飛竜が休む広場側へ向かうように走った。
それから十数分後、二人を乗せた
多くの者達が
今度は背中側に乗る二人は、下を覗き見ながら帝都内に入り込んでいる
そして
「――……死体の侵入は、かなり防げていますね」
「だが、
「そうですね。一刻も早く、各領地にその情報を伝えて、
「間に合わなくても、私と
「頼りにしていますよ。――……あそこです。あそこが、魔法学園です」
「分かった。……
「ガォッ」
簡易的ながらも首の根元に巻かれた手綱状の縄を握る二人は、暗闇の中で見える魔法学園の
すると魔法学園に展開されていた幾層もの結界が様々な色合いで輝くと、上空部分に円形状の穴が空けられたのが見えた。
パールは
そして学園内に避難している一万人近い民間人が様々な場所で見上げ中、広場に着地した
すると
それに応じるように背広を羽織るセルジアスは、その三人に近付きながら前に居る老齢の人物に自分の名を伝えた。
「帝国宰相を務めています、セルジアス=ライン=フォン=ローゼンです。御久し振りです、オイゲン学園長殿」
「御久し振りでございます、宰相殿」
互いに国柄として異なる礼を見せながら挨拶を交わした後、二人は顔を上げて互いを見る。
しかしオイゲンとその後ろに控える付人らしき魔法師達は、セルジアスよりもパールと共に居る
「……伝え聞いていた事ながら、信じ難いものでした。しかし、
「突然の事で驚かせてしまい、申し訳ありません」
「いえいえ。まさか滅びたはずの
「
「ええ、是非そうさせて頂きましょう」
初めて見る
この言葉により
そしてガゼル子爵家に面倒な
「まず初めに、感謝を御伝えしたい。この非常事態において、多くの市民達を学園に避難させて頂きありがとうございます」
「本校を
「そう言って頂けると、心強い限りです。そして御依頼していた
「いえいえ。修理はしたものの、
「聞き及んでおります。故に私から
「ええ、こちらに設置させて頂いております。案内をしましょう」
「感謝します。――……パール殿は、
「分かった」
セルジアスはそう伝えながらその場を後にし、
そして塔内の部屋に赴いたセルジアスは、様々な魔導施設に繋がれながら修理を終えた通信用
すると魔道具の中央に設けられた円形状の空間に丸く大きな
そして定められた
「……確かに、修理は終わっていますね。ありがとうございます、オイゲン学園長」
「こちらも、修理が成功している事を確認できて幸いです」
「それでは、ここで
セルジアスは更に操作盤に扱い、泡状の内部に新たな映像を映し出す。
そこにゼーレマン侯爵領地の首都に設けられている通信用魔道具と繋がる数式と
しばらくその黒い映像が続くと、今度は晴れるような白い光が浮かび上がる。
そして黒い映像が雲のように晴れて行き、その向こう側にある人物の姿が見えながら声が響いた。
『――……御久し振りですね。セルジアス=ライン=フォン=ローゼン殿』
「ッ!?」
その声と泡内部に浮かび上がる人物の顔を見た時、セルジアスの表情が思わず強張る。
そして内心の驚愕を隠しながら小さな息を吐き出すと、それに応じるように言葉を返した。
「……貴方こそ、御久し振りですね。ウォーリス=フォン=ベルグリンド。……いや、フォン=オラクルでしたか?」
『いいえ、どちらでもありませんね。私については、アルフレッドで構いませんよ。それが私の、本当の名ですから』
映像内に映し出される人物は、そう微笑みながら自分の
そしてセルジアスが思い出すのは、まだオラクル共和王国が旧ベルグリンド王国を名乗っていた際にベルグリンド王として赴いた、
こうして各領地と各国に
それはウォーリスの影武者を務めオラクル共和王国の王として君臨していた、アルフレッド=リスタルだった。
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