二人の包囲網
元マシラ共和王国の闘士エアハルトは、リエスティアが居た客室を襲撃しそこに居たアルトリアを誘拐する。
そして自身の身体能力を駆使して帝城から脱出し、貴族街の中に紛れ込んだ。
銀髪に戻りアルトリアを抱えながらも建物の屋根を跳躍し移動するエアハルトは、ある建物の路地へ降りる。
そして石畳の地面にアルトリアを降ろすと、何かを待つように周囲を確認しながら鼻を動かした。
すると後ろを振り返り、路地の中に入って来た人物を確認する。
その人物は顔を隠す茶色の
そしてエアハルトの傍で立ち止まったその人物は、自ら顔を覆っている布部分を外す。
その人物はアルトリアよりも薄い金色の髪を持つ、絶世の美女と言える容姿をした妖艶な女性だった。
「――……御苦労様ねぇ。エアハルトぉ」
「……クビア」
そこに現れたのは、エリクの
そしてクビアという名は、【結社】の仲介役としてケイルにも通じていた女性でもある。
更に黒獣傭兵団に潜んでいた魔人であるマチスに関しても、老騎士ログウェルに追い詰められていた状況で救い出した事もあった。
エリク達の旅において影に隠れながら暗躍していたクビアが、再びその姿を見せる。
しかも自ら勧誘したエアハルトと再び会うと、
「それにしてもぉ、予定とちょっと違うんじゃなぁい?」
「……」
「本当ならぁ、リエスティアって子の護衛をしてるフリをしてぇ、隙を見てアルトリアって子を誘拐する手筈だったのにぃ。どうしてこうなってるのよぉ?」
「共和王国から来た人間共が拘束された」
「あらぁ、そうなのぉ?」
「そんな状況で、護衛など出来ないだろう。だったら、目的の女を誘拐した方が早い」
「それはさぁ、ちょっと安直過ぎなぁい?」
「どんな形であれ、お前の依頼は果たした。後は勝手にしろ」
「……そうねぇ。確かにぃ、こっちの依頼者の要望は叶えたわけだしぃ。まぁ、いいかしらぁ」
エアハルトとクビアはそうした話を交え、互いに不測の事態に対する結果にある程度の妥協を示す。
この話を聞く限り、本来の計画では共和王国の
しかし裏の目的では、リエスティアと共に居るアルトリアを誘拐する事をクビアから依頼されていたらしい。
最終目的がアルトリアの誘拐である以上、エアハルトは確かにその目的を果たした。
それに納得したクビアは、エアハルトの足元に寝かされているアルトリアを見下ろしながら膝を曲げて屈んだ。
「じゃあ、この子をさっさと依頼者の所に――……えっ?」
「どうした?」
「……ちょっとぉ。これ、どういうことぉ?」
「!!」
クビアは倒れているアルトリアの乱れた金髪に触れ、その顔を確認しようと手を動かす。
しかしアルトリアの顔を見たクビアは驚愕の表情を見せ、立ち上がりながらエアハルトを睨んだ。
そしてクビアの文句にエアハルトは怪訝な表情を見せ、そこでアルトリアの顔を見る。
するとそこに倒れていたのはアルトリアではなく、木製で出来た
「人形だと……!?」
「……騙されたわねぇ、エアハルトぉ」
「騙された……!?」
「貴方が攫って来たのはぁ、本物じゃなくて人形だったぁ。そういうことよぉ」
「なっ!! だが、
「そんなのぉ、
「……ッ!!」
エアハルトは自分が騙されて
そんなエアハルトに呆れた様子を見せるクビアだったが、見下ろしていた人形を見ながら呟いた。
「どうしようかしらぁ。今からじゃ仕切り直しも出来ないしぃ……」
「……俺がまた乗り込み、本物を
「本物が何処に居るか、分かるのぉ?」
「!」
「人形を用意していた以上はぁ、
「ならば、帝城の人間全員を倒して聞き出せばいい。それから探す」
「それも手なんだけどねぇ。でも事態を
「――……随分と馬鹿っぽい話をしているわね?」
「!!」
「!?」
目的を果たす為に話している最中、突如として別の声が二人の言葉を遮る。
それに気付き声が聞こえる場所に視線を移した二人は、倒れている人形に視線を注いだ。
そして金色の
すると
アルトリアを模した人形は両手を動かし、身を起こしながら立ち上がる。
そして普通の人間と変わらぬ動作を見せながら、エアハルトとクビアに対して向かい合いながら話し始めた。
「どうも。私に騙されたお
「……ッ!!」
「さっきから話を聞いてたけど、馬鹿っぽい話をしてるわね。……そもそも、
「なに……!?」
「私もリエスティアも、共和王国から使者が来るって聞いてから別の場所に隠れてるわよ。大人しく帝城に居るワケがないでしょ?」
「く……っ!!」
「全てがアンタ達やウォーリスの思い通りになるとは思わない事ね、お馬鹿な魔人さん。――……もう出て来て良いわよ。二人とも」
「!」
アルトリアは人形を通して魔法で擬態した表情ながらに笑みを浮かべ、二人に対して馬鹿にしたような言葉を向ける。
それを聞き憎悪混じりの敵意を浮かべたエアハルトとクビアは、人形のアルトリアを破壊しようと攻撃を加えようとした。
しかし怯む様子も見せないアルトリアの声が、別の者達に向けられる。
その瞬間に路地の両側となる出入り口から降り立って姿を見せた二つの影に、エアハルトとクビアはそれぞれに視線を向けながら驚愕した。
「ッ!!」
「なんですってぇ……!?」
「こっちが何の用意もせずに、アンタ達を逃がすわけがないでしょ?」
「――……ほっほっほっ。若者達が頑張っとるのに、年寄りが暇を持て余しておるのはいかんですからなぁ」
「――……ここまで作戦通りとは、見事な
アルトリアは黒い影を見せた笑みを浮かべ、路地の両出口を塞ぐように現れた新たな二人に視線を向ける。
そしてもう一人は、その『緑』の
気配を消して現れたログウェルとバリスは、互いに似た尺度の
そうした状況でエアハルトとクビアは互いに構え、囲まれた状況に対応しようとする。
しかしアルトリアは勝ち誇る様子を見せながら、ログウェルとバリスに改めて声を向けた。
「お爺ちゃん達、期待してるわよ」
「ほっほっほっ」
「期待に応えられるよう、
「……チッ」
「本当に、厄介な事になったわねぇ……」
アルトリアの声に応えたログウェルとバリスは、互いに微笑みを浮かべながら長剣を構える。
それに対してエアハルトとクビアは表情を険しくさせ、包囲されるという予想外の状況に対応すべく構えを見せた。
こうして誘拐されたかに見えたアルトリアは、人形を使い自身の姿を擬態する。
そして誘拐の主犯である魔人達と、新旧である『緑』の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます