衝撃の情報


 ミネルヴァの起こした閃光事件が発生してから、初めてオラクル共和王国からの情報がガルミッシュ帝国内に届く。

 その知らせと共に訪れるという共和王国の外務大臣を迎える事となった帝都の城内は、微妙な緊張感と不安感を募らせていた。


 そして帝城へ訪れた外務大臣を含む共和王国の使者達は一時間程の休息の後に、帝城の玉座ではなく会議室に赴くよう伝えられる。

 騎士の厳重な監視の下で案内される使者達は、皇帝ゴルディオスと宰相セルジアスを含む帝国の幹部が一同に集まった会議室に足を踏み入れた。


 会議室内の一同に視線を向けられながらも、外務大臣を務める男性は怯えも焦りの様子も無い。

 そして案内を務めた騎士が、ゴルディオスやセルジアスの居る場所へ礼を向けながら伝えた。


「――……オラクル共和王国の外務大臣、ベイガイル殿を御連れしました」


「うむ」


 騎士の言葉にゴルディオスは頷き、改めて共和王国の外務大臣ベイガイルに視線を向ける。

 するとベイガイルは被っていた紳士帽子シルクハットを脱ぎ、礼節ある態度でゴルディオスと帝国幹部達に挨拶を述べた。


「――……御初に御目に掛かります、ゴルディオス皇帝陛下。そしてガルミッシュ帝国を支える重鎮の皆様。私はウォーリス陛下のしんを務めております、ベイガイルと申します。以後、お見知りおきを」


「そうか。ベイガイル殿、よく訪れてくれた。そこに用意した席に着くといい。他の者達もな」


「ありがとうございます」


 ゴルディオスは用意していた席へ座るように促し、ベイガイルはそれを承諾する。

 そして騎士達に椅子を引かれた後に席に腰掛けたベイガイルや他の使者達は、姿勢を整えながらゴルディオス達の方へ向き合った。


 ベイガイルを含む共和王国の使者達は、剣呑とした雰囲気は無く朗らかな表情すら浮かべている。

 その反面、帝国側の幹部は厳しく鋭い視線を向けながらベイガイル達の言動を観察し、そうした相反する空気が漂おうなかで皇帝ゴルディオスが問い掛けを始めた。


「ベイガイル殿。貴殿が訪れた理由を、改めて聞かせて頂こう」


「はい。私はウォーリス陛下の名代として、この度の対応に関する全権を任せられました。そして書状でのやり取りではなく、こうして直接まみえて御答えした方が宜しいかと思い、急ながら訪問させて頂いた次第です」


「ではこれからの話について、名代である君の言葉がウォーリス殿と心を同じくする言葉であると我々は認識するが。よろしいかな?」


「そう捉えて頂いて、問題はありません」


「では、改めて問わせてもらう。――……四週間前に起きた地震と衝撃。アレはオラクル共和王国から発せられた事態モノであると、多くの者達から証言を得ている。それは事実か?」


「事実です。陛下」


「!?」


 ゴルディオスの問い掛けに対して、ベイガイルは躊躇も無く肯定する。

 それを聞いた帝国側の幹部達は更に表情を険しくさせ、それぞれが鋭い眼光をベイガイルに向けた。


 ゴルディオスもまた同じように視線を細め声色を強めながら、再びベイガイルへ問い掛ける。


「ほう。では、あの地震と衝撃はオラクル共和王国が意図的に起こした事態モノだった。そういうことかね?」


「いいえ。それは違います」


「違う?」


「オラクル共和王国は、あの地震と衝撃に関与はしておりません」


「だが事態の発生は貴国で起きたものだと、先ほど君自身が認めたはずだが?」


「その通りです。しかしあの事態に関して、我々オラクル共和王国は何も関与をしておりません。我が共和王国もまた、あの事態に巻き込まれた被害者なのです」


「……被害者?」


 ベイガイルはそう述べ、オラクル共和王国が事態が発生した場所ながらも被害者である事を伝える。

 それに怪訝な様子を見せるゴルディオスに対して、ベイガイルは言葉を続けながら事態の説明を始めた。


「先年、我が国がまだベルグリンド王国を名乗っていた時期ですが。『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァに襲撃された事は、我が共和王国の国務大臣であるアルフレッド殿から伝え聞いておられると伺っています」


「……確かに、そう聞いたな」


「そのミネルヴァですが、再び我が国を襲撃したのです。そして、あの事態が起きました」


「!」


「皆様も御存知だとは思いますが、七大聖人セブンスワンは『人間』の力を超越した存在です。七大聖人セブンスワンが例え一人だけだとしても、万人に相当する軍ですら比する事の敵わない戦力である事は、重々承知しておられるかと思います」


「確かに、そうした話も聞く。……それで、再び襲撃したという七大聖人セブンスワンミネルヴァが、どのように今回の事態に関わっているというのだ?」


「『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァはフラムブルグ宗教国家に属し、転移魔法を始めとした数多の秘術を得意とする者です。あの事態は、まさにミネルヴァが行使する秘術によってもたらされた出来事なのです」


「!」


「ミネルヴァは襲撃した際、我が国の精鋭で対応し迎撃しました。……時に、『砂の嵐デザートストーム』を御存知ですか?」


「『砂の嵐デザートストーム』……。ああ、知っている。四大国家では禁止されている銃という武器を使用する、多国籍の傭兵団だな」


「我々オラクル共和王国は、再びミネルヴァの襲撃に見舞われる事を考え、彼等を一時的に雇い入れていました。ミネルヴァの秘術に対抗する為には、禁忌とされるぶきも必要になるだろうという、ウォーリス陛下の御考えです」


「……それで、『砂の嵐デザートストーム』とミネルヴァが戦ったのか?」


「はい。そして戦闘になった状態の末、ミネルヴァを追い詰める事に成功したそうです」


「!!」


 ベイガイルは共和王国で起きたという話を伝え、再びミネルヴァを退ける事に成功した事を伝える。

 しかしその話を聞いていた各幹部達は、別の理由で驚きを漏らしていた。


七大聖人セブンスワンを追い詰めた……!?」


「ただの傭兵団が?」


「銃とは、それほど強い武器なのか……?」


 幹部達は七大聖人セブンスワンが一傭兵団に追い詰められたと聞き、半信半疑の様子を浮かべる。

 彼等の中には銃という武器の存在は知りながらも、実際に用いた場合の戦力がどれほどなのかを理解できていない者も多い。


 しかしそうした幹部達の驚きを抑えるように、皇帝ゴルディオスが言葉を発した。


「『砂の嵐デザートストーム』にも、ミネルヴァと同じ聖人がいる」


「!」


「スネイクという名の男だ。彼も加わり、彼の用いる銃を使えば、あるいは七大聖人セブンスワンすらも追い詰める事は可能だろう。それほど驚くことではない」


「……わ、分かりました」


 動揺していた幹部達をそう諭して抑えたゴルディオスは、再びベイガイルへ視線を戻す。

 それから改めて、ミネルヴァと『砂の嵐デザートストーム』に関する話の顛末を聞いた。


「それで、ミネルヴァを追い詰めてからはどうしたのかね?」


「はい。どうやら『砂の嵐デザートストーム』は転移魔法を阻害するすべを持っていたようで、ミネルヴァの逃亡を阻止しました。そして逃げるミネルヴァを追い、共和王国の南方まで追ったそうです」


「南方……」


「我が共和王国くにの南方は、三十年以上前に起きた内乱から復興しておらず、ほとんどの土地に人の手が入らずに放置されていました。そうした地にミネルヴァは逃げ込み、あの事態を引き起こしたそうです」


「……そうですとは、君自身が見たわけではないのだな?」


「はい。ここからの話は、ミネルヴァを追い詰めた『砂の嵐デザートストーム』の証言です。彼等はミネルヴァの手足を銃で撃ち抜き動けぬようにした後、拘束して捕らえようとしたそうです。しかしミネルヴァは抵抗し、最後の手段を用いたと話しています」


「最後の手段?」


「秘術を用いた、自爆攻撃だそうです」


「!?」


「ミネルヴァは自身の肉体を爆発させ、巨大な衝撃を起こしました。その影響で南方領地の大地が大きく削れるように吹き飛ばされ、共和王国と帝国に広範囲の被害を与えました。それが、四週間前に起きた地震と衝撃の真相です」


 ベイガイルは臆する事も無い口調で、事態の全容を帝国側へ伝える。

 それを聞いた帝国幹部を始めとした皇帝ゴルディオスや宰相セルジアスは、より一層の驚愕に見舞われる事になった。


 その話を総合すれば、あの地震や衝撃は『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァが起こした事態こと

 しかもミネルヴァは転移を封じられて徒歩で共和王国の南方へ逃げ込み、捕らえられる事を拒んで命を賭した自爆行為を行ったという。


 つまりこの事態は、『黄』の七大聖人ミネルヴァが死んで起きた出来事。

 主な七大聖人が属する四大国家に与しているガルミッシュ帝国にとって、衝撃を隠せない大きな情報だった。

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