決死の覚悟
シスター達の村に紛れ込んでいた
それを妨げようと
その事情を明かした後、シスターと孤児院の少年達が
更に
そうした村人達に謝罪して
「――……クラウス。
「
「そうか。まぁ、こんな危険な役目をやらせてる奴に、人質の価値は無いか。……今はアンタの知恵が頼りだ。村の連中を生き残れる可能性が少しでもあるなら、策を言ってくれ」
「ああ。……ところで、村に
「……村を囲んでいる連中の中に、マチスが居た」
「なに? 私を殺そうとしたという、お前の仲間か」
「ああ。アイツは魔人だから、人間大陸で生まれた魔人共が暮らせる場所を得る為にウォーリスと手を組んだらしい。……そして
「……その男が、
「そうだ。俺が
ワーグナーは苛立ちを浮かべながら、マチスについて話す。
それを聞いたクラウスは眉を
「そのマチスという男は、他に何か言っていたか?」
「え? ……アイツは『
「……フォウル国の『
「らしいぜ。よく分からんが、エリクを『当たり』だとか言ってたな」
「……他には、何か言っていたか?」
「他は……欲望塗れの人間は、嫌いだってよ。あとは村の連中が隠れてるのを庇ってたとか、俺達が共和王国に潜り込んでた事を秘密にして裏切り者だと思われてるとか、そんな事も言ってた気もするがな。何処まで本当か分からん」
クラウスに言われるがまま、ワーグナーはマチスから聞いた話を伝える。
それを聞いていたクラウスは神妙な面持ちを浮かべ、床に伏せられている
「……何故マチスという男は、
「え?」
「
「……!」
「恐らく敵の突入時、
「……まさかマチスが、俺に親切に教えたって言うつもりかよ?
「そう考える方が、不自然さは
「だが
「確かに、それは事実なのだろう。……だがそれは、
「……真実じゃない?」
クラウスはそう述べ、マチスが村に潜り込んでいた
それを否定的に捉えるワーグナーだったが、以前から真に迫る物言いをするクラウスの言葉には、何かしらの考えがあるのではと察する事は出来た。
そうして二人が話している時、シスター達が居る方向で再び騒めきが起こる。
気絶させていた
「――……クソッ!! 離せガキ共――……グッ!!」
「暴れたり大声を出したら、肩を外すよ」
「ガ、ァ……ッ!!」
暴れる
そして異常に上がった左肩は外れる寸前の角度で留められ、密偵達は苦痛を味わいながらも体勢的に叫び声を上げられずに苦しんでいた。
クラウスはワーグナーに肩を借り、右足を引きずりながら密偵が倒れ伏す場所に近付く。
それから密偵達の目の前で立ち止まると、クラウスは見下ろしながら話し掛けた。
「……お前達の狙いは、味方の突入時に
「ッ!!」
「何故、ミネルヴァを生きたまま確保しようとする? ……答えなければ、私達と同じような痛みも味わってもらうぞ」
クラウスは密偵を見下ろしながら影が宿る表情を見せ、僅かに視線を横に向ける。
そこには密偵の持っていた
そして
「ミネルヴァを生きたまま確保しようとしていた理由は? 答えろ」
「……ッ」
「!」
「!?」
その時、男女の密偵が視線を合わせながら僅かに口を開ける。
しかしその口からは何も語られず、ただ閉じた男の口から何かを噛み砕く音が聞こえた。
その音を聞いたクラウスとシスターは、何が起こったのかを即座に察する。
そして密偵達を押さえている少年達に向けて、焦るように声を向けた。
「
「毒ですッ!!」
「えっ!?」
クラウスとシスターが密偵の口内に毒が仕込んであった事を知り、少年達より早く身を屈めて手で密偵達の口を開けさせようとする。
しかしそれは間に合わず、密偵達は噛み砕いた毒を飲み込んだ。
それから数秒後、密偵の男女二人は強い痙攣を起こし始める。
そして互いに白目を向き、口から泡を吹き出しながら一分後には動かなくなってしまった。
シスターは密偵達の自殺を防げずに表情を曇らせ、クラウスは小さな悪態を漏らす。
それを後ろから見ていたワーグナーは、動揺を浮かべながら聞いた。
「クソッ」
「……この連中。まさか毒を仕込んで、自分で飲んだのか……!?」
「ああ」
「なんで……!?」
「捕まって敵に情報を与えるくらいなら、
「……!!」
クラウスはそう語り、
その話はワーグナーにも理解できる事だったが、躊躇せずにそれを実行できる人間が目の前にいた事を驚き、死んだ二人の遺体を見下ろしながら息を飲んだ。
そうした状況の中で、ある人物がよろめきながら立ち上がる。
それは壁際の木箱に背を預けていたミネルヴァであり、それに気付いたシスターは振り返りながら走り寄った。
「ミネルヴァ様! ……まだ、御無理をなされては……」
「……敵が何故、私を生かしたまま確保しようとしているか。その理由は、私自身がよく知っている」
「!」
「なに……!?」
ミネルヴァはそう話し、シスターの肩を借りながらクラウスとワーグナーの傍に近付く。
そして倉庫内に居る村人達も視線を集めると、ミネルヴァは自身が生きたまま捕らえられようとしている理由を語った。
「あの
「布石……?」
「私は、私自身の魂にある秘術を施した。……私という存在の『死』を基点として発動する、とても危険な秘術を」
「!」
「私の肉体が死を迎えると、我が身と魂を糧にした力が周囲一帯を消滅させる。そういう秘術が、今の私に施してある」
「な……っ!?」
「過去にその秘術を用いた者は、山一つを軽く消し飛ばした。……
「それじゃあ、まさか……。アンタが今、ここで死んだら……!?」
「……この辺り一帯は消え去る。何もかも」
「!!」
ミネルヴァはそう述べ、自身に施した秘術の事を明かす。
それは悪魔であるウォーリスを討ち取る為に選んだ、まさに決死の秘策。
自身の死を基点に発動する大規模な消滅魔法が今も解かれないまま、ミネルヴァの魂に刻まれていた。
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