襲撃の推察


 リエスティアの実兄ウォーリスがローゼン公爵家の都市に到着した頃、魔導人形ゴーレム達に侵攻された別邸にある二人が訪れている。

 魔導人形ゴーレム達に荒らされ瓦礫などが散乱した無人の別邸の中を歩くのは、『風』の七大聖人セブンスワンである老騎士ログウェルと帝国皇子ユグナリスの師弟だった。


「――……ログウェル。俺と話をしたいって聞いたけど、なんで別邸ここに?」


「うむ。ちと、人に聞かれると面倒な話じゃからな」


「面倒……?」


 ログウェルはそう話しながら廊下を歩き、その背中を追うようにユグナリスは付いて行く。

 そしてある部屋に辿り着いた時、その場所を知るユグナリスは僅かに驚きながら呟いた。


「……ここは、リエスティアが居た部屋だよな?」


「そうじゃのぉ」


「なんでここに……?」


「……ふむ。例の襲撃者とやら、お主は戦ったそうじゃな?」


「あ、ああ。……でも、不意打ちに近い形だったから、まともには……」


「転移魔法か」


「そうだ。突然、アイツはこの部屋に現れて……。別邸ここを襲った魔導人形ゴーレムも、転移魔法で侵入したんだよな?」


「確かに、その者は転移を使ったかもしれんが。魔導人形ゴーレム達は違うのぉ」


「え?」


「アレは、召喚魔法じゃな」


「しょうかん……?」


「召喚魔法とは、せいの無い物体を魔力化させ地脈を通じて移動させる方法。簡単に言えば、そういう魔法モノじゃな」


「そんな魔法もあるのか……。確かに、魔導人形ゴーレムは生き物じゃないからな……」


「転移魔法は、色々と制約が多いからのぉ。術者のみが使用するならともかく、あれほど多くの魔導人形ゴーレムをここに出現させるとなると、転移ではなく召喚を使ったと考えるのが妥当じゃな」


「そうなのか」


「しかし多くの者は、アレを転移魔法だと考えた。……故に、今回の襲撃が大規模な敵勢力に因る侵攻じゃと考えてしまっておる」


「……アンタは、違うと考えてるのか?」


「そうじゃのぉ。……今回の襲撃、儂は単独か少数によって起こされた事じゃと考えている」


「!」


魔導人形ゴーレムの性能は確かに高かった。儂が幾度も斬り付け吹き飛ばしても、傷一つ負わんかったからのぉ。アレは多分、ミスリル製じゃな」


「……ミスリルって?」


「鉄に膨大な魔力を帯びさせて出来たモノ、と言えばお前さんには分かり易いかね?」


「鉄に魔力を?」


「うむ。それだけでは普通の鉄と変わらんが、魔法による付与効果を加える事で、恐ろしい程に頑強になる。あの魔導人形ゴーレム達は、そうした作りをされておった」


 ログウェルはそう述べ、今回の襲撃で使われた魔導人形ゴーレムから得られた情報を教える。

 それを聞いていたユグナリスは感心した様子を見せたが、何かに気付き疑問の表情を見せながら尋ねた。


「……アンタが言う程に魔導人形ゴーレムの性能が良かったなら、単独や少数で今回の襲撃を起こしたという話はおかしくないか?」


「ほぉ、どうしてそう思うね?」


「だって、都市ここの内外を含めて数百体以上の魔導人形ゴーレムが襲って来たんだろ? それだけ多く魔導人形ゴーレムを作り、召喚魔法で送り込みながら操っていたなら、間違いなく大勢力が関わってるはずだ」


「ふむ」


「俺だって、魔導人形ゴーレムを操作するのに術者が必要なことくらい知ってる。普通の魔法師でも一人で一体の魔導人形ゴーレムを精密操作するのが限度なのに、数百体を少数でなんて――……」


「アレは、術者が操っておる魔導人形ゴーレムではなかった。としたら?」


「……え?」


「あの魔導人形ゴーレムは性能こそ良かったが、動きがあまりに稚拙過ぎた。まるで『そういう動き』しか出来ないように、定められておったかのようにの」


「……人が操作してる魔導人形ゴーレムじゃなかったってことか?」


「そう考える方が妥当じゃろう。魔導人形アレは簡単な動作を出来るように組み込まれたモノだったということじゃ」


「……!!」


「故に、今回の襲撃は最低でも二名。お主の前に現れた襲撃者ものと、魔導人形ゴーレムを召喚魔法で移動させた者。少なくとも魔導人形ゴーレムをアレだけ作り、襲撃を成功させるだけの実力ある魔法師が二人、関わっておるのは確実じゃな」


 今回の襲撃が少数で行われた事を推察するログウェルに、ユグナリスは懐疑的な面持ちを見せる。

 しかしあのログウェルがそう言うのならばと考え、それが真実に最も近いのではないかという信頼感も得ていた。


 そして敢えてそうした語り方をするログウェルを見て、ユグナリスは確信を得ながら問い掛ける。


「……アンタには、そういう事を出来る魔法師に心当たりがあるのか?」


「一人は、知っておるのぉ」


「一人?」


「『青』の七大聖人セブンスワンじゃよ」


「!?」


「『青』ならば、ホルツヴァーグ魔導国の魔導技術を利用し、ミスリルを増産し魔導人形ゴーレムを製造も出来よう。召喚魔法も扱える可能性は高く、都市の結界を突破する事も容易かろうて」


「……じゃあ、やっぱりホルツヴァーグ魔導国が今回の襲撃を?」


「いいや。『青』個人の企みと考えるのが妥当じゃろうな」


「え?」


「『青』は魔導国ホルツヴァーグを根城としておるだけで、国政自体には関わるつもりが無い。その気になれば、魔導国すらも捨てるじゃろうなぁ」


「……で、でも。今は『青』が代替わりしたんだろ? その新しい『青』が、魔導国くにと協力してここを襲ったんじゃ……?」


「確かに、その可能性もあるがな。――……じゃが、それで狙われるのはアルトリア嬢ではないかね?」


「!」


「お主の前に現れた襲撃者ものは、リエスティア姫の事を狙っておったのじゃろう。……魔導国がアルトリア嬢を攫いもせず、リエスティア姫を狙うように現れた理由が何かあると思うかね?」


「そ、それは……」


 逆に問い掛けられたユグナリスは表情を曇らせ、顔を逸らしながら視線を泳がせる。

 それを見て口元を微笑ませたログウェルは、大穴の開いた壁から外を見ながら伝えた。


「――……実はな、儂はお主に秘密にしておったことがある」


「……秘密?」


「リエスティア姫が何者なのか。儂は気付いておった」


「!?」


「初めてリエスティア姫を見た時、もしやとは思ったのじゃがな。……クレア様から瞳の事を聞き、確信した」


「……まさか、リエスティアが『黒』の七大聖人セブンスワンだって話か?」


「うむ」


「それは、アルトリアが勝手に言ってるだけの話で――……」


「本当に、そう思うかね?」


「……」


「『青』が企み起こしたであろう今回の襲撃。そして『黒』の可能性があるリエスティア姫を見逃したこと。……儂はこの襲撃に、どうも目的を見出だせぬ。まるで今回の事件ことを起こしたかっただけだったようにさえ思えてしまう」


「事件を、起こすだけが目的……?」


「うむ。……しかし『青』が関わっている可能性がある以上、儂等が把握していない事もある。常に警戒しておきなさい」


「……ああ」


 ログウェルは不穏な言葉を述べ、ユグナリスは僅かに不安な面持ちを抱く。

 それから二人は別邸を出て、本邸へ戻る為に歩いた。


 こうしてログウェルは、襲撃に対する見解と疑問をユグナリスに伝える。

 それを教えられるユグナリスは、最愛のリエスティアを守る為には七大聖人と戦う覚悟と力を必要とする事を自覚させられた。

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