襲撃の推察
リエスティアの実兄ウォーリスがローゼン公爵家の都市に到着した頃、
「――……ログウェル。俺と話をしたいって聞いたけど、なんで
「うむ。ちと、人に聞かれると面倒な話じゃからな」
「面倒……?」
ログウェルはそう話しながら廊下を歩き、その背中を追うようにユグナリスは付いて行く。
そしてある部屋に辿り着いた時、その場所を知るユグナリスは僅かに驚きながら呟いた。
「……ここは、リエスティアが居た部屋だよな?」
「そうじゃのぉ」
「なんでここに……?」
「……ふむ。例の襲撃者とやら、お主は戦ったそうじゃな?」
「あ、ああ。……でも、不意打ちに近い形だったから、まともには……」
「転移魔法か」
「そうだ。突然、アイツはこの部屋に現れて……。
「確かに、その者は転移を使ったかもしれんが。
「え?」
「アレは、召喚魔法じゃな」
「しょうかん……?」
「召喚魔法とは、
「そんな魔法もあるのか……。確かに、
「転移魔法は、色々と制約が多いからのぉ。術者のみが使用するならともかく、あれほど多くの
「そうなのか」
「しかし多くの者は、アレを転移魔法だと考えた。……故に、今回の襲撃が大規模な敵勢力に因る侵攻じゃと考えてしまっておる」
「……アンタは、違うと考えてるのか?」
「そうじゃのぉ。……今回の襲撃、儂は単独か少数によって起こされた事じゃと考えている」
「!」
「
「……ミスリルって?」
「鉄に膨大な魔力を帯びさせて出来たモノ、と言えばお前さんには分かり易いかね?」
「鉄に魔力を?」
「うむ。それだけでは普通の鉄と変わらんが、魔法による付与効果を加える事で、恐ろしい程に頑強になる。あの
ログウェルはそう述べ、今回の襲撃で使われた
それを聞いていたユグナリスは感心した様子を見せたが、何かに気付き疑問の表情を見せながら尋ねた。
「……アンタが言う程に
「ほぉ、どうしてそう思うね?」
「だって、
「ふむ」
「俺だって、
「アレは、術者が操っておる
「……え?」
「あの
「……人が操作してる
「そう考える方が妥当じゃろう。
「……!!」
「故に、今回の襲撃は最低でも二名。お主の前に現れた
今回の襲撃が少数で行われた事を推察するログウェルに、ユグナリスは懐疑的な面持ちを見せる。
しかしあのログウェルがそう言うのならばと考え、それが真実に最も近いのではないかという信頼感も得ていた。
そして敢えてそうした語り方をするログウェルを見て、ユグナリスは確信を得ながら問い掛ける。
「……アンタには、そういう事を出来る魔法師に心当たりがあるのか?」
「一人は、知っておるのぉ」
「一人?」
「『青』の
「!?」
「『青』ならば、ホルツヴァーグ魔導国の魔導技術を利用し、ミスリルを増産し
「……じゃあ、やっぱりホルツヴァーグ魔導国が今回の襲撃を?」
「いいや。『青』個人の企みと考えるのが妥当じゃろうな」
「え?」
「『青』は
「……で、でも。今は『青』が代替わりしたんだろ? その新しい『青』が、
「確かに、その可能性もあるがな。――……じゃが、それで狙われるのはアルトリア嬢ではないかね?」
「!」
「お主の前に現れた
「そ、それは……」
逆に問い掛けられたユグナリスは表情を曇らせ、顔を逸らしながら視線を泳がせる。
それを見て口元を微笑ませたログウェルは、大穴の開いた壁から外を見ながら伝えた。
「――……実はな、儂はお主に秘密にしておったことがある」
「……秘密?」
「リエスティア姫が何者なのか。儂は気付いておった」
「!?」
「初めてリエスティア姫を見た時、もしやとは思ったのじゃがな。……クレア様から瞳の事を聞き、確信した」
「……まさか、リエスティアが『黒』の
「うむ」
「それは、アルトリアが勝手に言ってるだけの話で――……」
「本当に、そう思うかね?」
「……」
「『青』が企み起こしたであろう今回の襲撃。そして『黒』の可能性があるリエスティア姫を見逃したこと。……儂はこの襲撃に、どうも目的を見出だせぬ。まるで今回の
「事件を、起こすだけが目的……?」
「うむ。……しかし『青』が関わっている可能性がある以上、儂等が把握していない事もある。常に警戒しておきなさい」
「……ああ」
ログウェルは不穏な言葉を述べ、ユグナリスは僅かに不安な面持ちを抱く。
それから二人は別邸を出て、本邸へ戻る為に歩いた。
こうしてログウェルは、襲撃に対する見解と疑問をユグナリスに伝える。
それを教えられるユグナリスは、最愛のリエスティアを守る為には七大聖人と戦う覚悟と力を必要とする事を自覚させられた。
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