最後の万策
赤い
それは溢れ出る瘴気を吹き飛ばし、斬撃を直撃させた部分を砕き裂く尋常ではない威力と衝撃を与えた。
その直後、エリクは目を見開きながら亀裂が入った部分を見て驚愕する。
砕け割れた部分が漏れ出る赤い霧で埋められ、亀裂を瞬く間に修復させていたのだ。
「――……瘴気が、
エリクは亀裂の修復現象を
それによって再び亀裂が生まれたが、それも瞬く間に瘴気によって修復されてしまった。
その時、エリクは半透明の赤い
その蠢きが次第に人の顔に見える形となり、エリクの瞳に映り込みながらある声が耳に届いた。
『――……ォ……ァ……』
「……!!」
『くる、しい……』
『あつい……すごく、あついよぉ……』
『たすけて……誰か……』
『……もう、殺して……』
『――……ギャアアアアッ!!』
『痛い……痛いよ……』
『パパ……ママ……どこぉ……?』
「……これは、この
エリクは耳に届く悲痛な声が、
その声はエリクが握る大剣に更に力を込めさせ、どうにか砕き割ろうとした。
しかし、エリクの耳に新たな死者の声が届く。
それは先程と違った、負の感情を宿した怨念の声だった。
『――……憎い、憎い……!!』
『許さない……!!』
『アイツ、俺を見捨ててやがったんだッ!!』
『お願いしたのに! 私も、あの子も殺したッ!!』
『僕から、お父さんもお母さんも、友達も、全部を奪った!!』
『どうして俺達が、こんな目に……!!』
『なんで私が死んで、お前達みたいなのが生きてるの……!?』
「……!!」
『――……お前達も……』
『俺達と――……』
『――……同じように……』
『死んでよぉおおオオオオオオオオッ!!』
「ッ!?」
その怨念達の声は、負の感情に支配され生者を強く憎む者になっている。
そして怨念達の意思を反映させたかのように、
それはエリクの
エリクは思わず大剣を薙ぎ
しかし意思を持つかのような赤い霧状の瘴気が、エリクを追い包もうとする。
空中で逃げ場の無いエリクだった、その瘴気の霧を突き破るように六枚の白い翼に包まれたアリアがエリクの身を包み込み、瘴気の包囲網を突っ切って脱出した。
そして再び身体を抱き掴まれたアリアは、
「大丈夫!? 浴びてないわよね!?」
「ああ。――……
「それ、貴方に出来る?」
「……難しい。さっきのが全力だった」
「そう。……貴方以上の攻撃でアレを破壊できる人が、この場にいるかしら……」
「……
「え?」
「あそこには、強い者達がいる。全員でやれば……」
「……そうね。もう、それしかないわね」
エリクの言葉にアリアは同意し、瘴気が溢れ出る
そして
そうして向かう最中、エリクは先程の事をアリアに伝える。
「――……さっき、閉じ込められていた死者達の声が聞こえた」
「!」
「苦しんでいた。……そして、俺達のように生きている者を、強く憎んでいた」
「……まぁ、そうなるでしょうね」
「あの瘴気は、その憎しみから生まれている。……そして、俺達を殺そうとしている」
「……」
「俺が砕き割ろうとするのも、その死者達が修復させ邪魔をした……」
「エリク。貴方はただ、あの
「……君は、アレを全て浄化できるのか?」
「ええ。――……浄化って、どういうモノか分かる?」
「……いや」
「浄化なんて聞こえはいいけど、結局は高めた魔力と生命力を押し当てて、瘴気という物質を滅するだけの
「!」
「浄化は決して、救いの光ではない。浄化したとしても、それは瘴気を取り除くだけの行為なの。――……だから生者に憎悪を抱く死者の魂が、瘴気を生み出し続ける事もある」
「……それじゃあ、どうすれば……」
「それを防ぐのが、輪廻と呼ばれる死者の世界。あそこで死者の魂は瘴気を生み出さないよう、幸せな夢を見続ける」
「夢……。そうか、あれが……」
「私達が出来るのは、死者の魂を幽閉している
「……分かった」
アリアの言葉にエリクは頷き、死者の憎しみを割り切る事で自身の目的を見つめ直す。
そうした様子を見せるエリクへ僅かに微笑みを浮かべたアリアは視線を前に戻し、
丁度その時、
そして向かって来る白い光を視認すると、
『――……げ、元帥! 白い光が、こちらに来ます!』
「見えている」
『各銃座と砲塔に、対応させますか!?』
「……見極めたい。攻撃はするな」
『は、はい!』
シルエスカの命令に
そして白い光が
そして白い光を帯びた翼の中から出て来たのは、翼の持ち主であるアリアと、黒い大剣を持つエリク。
その二人の前に歩み出たシルエスカは、アリアを鋭く睨んだ後にエリクの方を見た。
「――……先程、膨大な
「ああ」
「そうか。……『青』の言う通り、姿は昔のアルトリアだな」
「……」
エリクに状況を聞いたシルエスカは、再び睨むようにアリアを見る。
それに真っ直ぐと堂々とした姿で対応するアリアに、シルエスカは再び状況を聞いた。
「……今の
「悪魔になって、向こうでユグナリスと戦ってるわ」
「悪魔だと……!?」
「今はそんなこと、どうでもいいはずよ。――……シルエスカ、あの中に封じられた魂と溢れ出る瘴気は、全て私が浄化するわ」
「!」
「でも、エリクの全力でも完全に破壊できなかった。オマケに砕いても溢れ出る瘴気で、瞬く間に
「……」
「
「……ッ」
「……シルエスカ?」
「……残念だが、既にこちらの万策は尽きている」
「!」
「我も、そして
「……」
「
シルエスカはそう述べ、自身の無力を嘆かず秘めた表情で話す。
それを受けたアリアは干支衆をの方を見て、彼等も同じように大きく疲弊している様子を悟った。
顔を横に向けたアリアは、エリクと視線を交わす。
そして互いに口を開き掛けた時、シルエスカの耳にある通信が届いた。
「――……グラド将軍? どうしたんだ」
「……?」
「……ああ、分かった。……グラドがエリクに、話があると言っている。通信機は?」
「壊れた」
「なら、我のを使え」
沈んでいたシルエスカの口からグラドの名が出ると、エリクは尋ねるように聞く。
すると自身の左耳に取り付けていた通信機を離し、エリクに手渡した。
それを受け取ったエリクは左耳に通信機を付け、グラドの声を聴く。
『――……エリク、聞こえるか?』
「グラド? どうした」
『さっきの攻撃、お前さんだろ? こっちまで見えたぜ』
「ああ」
『だが、
「ああ。砕けはしたが、すぐに修復してしまった」
『そうか。――……俺が乗ってる
「良い物……?」
『局長が作った試作品なんだがな。それとお前の力があれば、あの
「!」
『賭けだが、やってみるか?』
「……ああ、頼む」
『俺達の
「分かった」
グラドの提案を聞いたエリクは、通信機を返しながらシルエスカに情報を伝える。
その情報にシルエスカとアリアは共に目を見開いたが、万策が尽きた状態で自分達に手段が無い以上、グラドが述べる事を信じて
そして通信機を返されたシルエスカの耳に、
『――……元帥! 都市の高度が、五キロを下回りました! 落下までの時間、
「分かった。……グラドの提案が失敗すれば、地表は瘴気に侵され全滅する」
「……」
「この最後の賭けに、我々も乗ろう」
シルエスカはそう応じて頷き、エリクとアリアへ協力する事を承諾する。
こうして残された時間が短い中で、各々が世界を救う為に出来る事を策を巡らせる。
それは未来に進む為に残された、唯一の
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