予言の光景
マギルスやエリク達に一部の情報を隠し、それを『青』に暴かれた元『赤』のシルエスカは自身が抱く負の意識と後ろ暗さを指摘され、敵意を収めて槍を下げた。
一触即発の交戦状態を避けて周囲の兵士達は安堵し、自身で場を収めた『青』をマギルスは見直すように微笑む。
そして互いに一歩引いた間に入ったマギルスは、改めてシルエスカや兵士達に向けて状況を話した。
「――……で、僕達は一緒に奥の
「うむ。しかし、転移先がここにしか通じなかった。他の地点は全て潰されたか、ここだけが気付かれなかったと考えるべきか。……あるいは……」
「わざと残してた?」
「あの施設内部には幾つかの実験施設が残っていた。そして、お主が発見したという兵器もまた、
「そういえばそうだね」
「兵器……?」
マギルスと『青』の話を聞いていたシルエスカは、訝し気な表情を浮かべて呟き聞く。
それに答えたのは『青』であり、兵器に関する説明を行った。
「儂の研究を奪ったアルトリアが作り上げた、瘴気の魔砲と言うべきか」
「瘴気だと……?」
「輪廻に赴く死者の魂を吸い上げ、
「そんな兵器を、お前は……!」
「しかし、儂の研究では魂に内在する純粋な魔力の抽出と、瘴気との分別化は不可能であった。故に蔵の奥に閉まった技術であったが。……アルトリアの知識があってこそ、完成を可能としたと言うべきじゃろう」
「……」
「それでね、この
「なに……!? なら、どうやって……」
「
「……なら地下の巨大な魔導反応は、お前が言う兵器ということか。……そうなると、この都市を落とすには……」
「箱庭の管理者となったアルトリアを殺めるか、あるいは従え都市を降下させるか。それしかない」
「……対峙は、避けられないということだな」
マギルスを交えた『青』の話で、シルエスカは浮遊機能施設の破壊を断念せざるを得なくなる。
しかし新たな目標として、今現在のアリアを発見し討伐するしかない事を悟った。
それを聞いていた兵士達も表情を強張らせ、シルエスカに視線を向ける。
意図として指示を受ける事を望んだ兵士達に、シルエスカは同じく視線を向けて述べた。
「――……これより、地上に戻る! 浮遊施設破壊の目標を切り替え、アルトリアの捜索と討伐を新たな目標とする!」
「ハッ!!」
「地上に戻り次第、お前達は部隊と合流し
「そ、それは……」
「お前達では、アルトリアと対峙できぬ。例えその銃を用いても、今のアルトリアには通じぬと思ったほうがいい。――……『化物』の相手は、『
「……ハッ」
シルエスカの命令に兵士達は応じ、その命令を受ける。
それを確認したシルエスカはマギルスと『青』の方へ身体を向け、同じように述べた。
「マギルス。お前にもアルトリアの討伐に協力してもらう。――……悪いが、やはり今のアルトリアに説得は無理だと判断せざるを得ない」
「それは別にいいけどね」
「……『青』。お前はどうする?」
「儂はもう、アルトリアとは戦わぬ。そして、儂を自由にしてくれた謝礼代わりに述べよう。……お前達では、今のアルトリアには勝てぬ」
「!」
「儂の予想が正しければ、今のアルトリアは『
「かみびと……?」
「こう言えば分かるか。今のアルトリアは、『
「!」
「到達者だと……。馬鹿な! アレは、多くの信者を従え必要とする! 今のアルトリアに、そんな信者の数は――……」
「あくまで従える必要があるのは、多くの魂であること。その代わりは幾らでもある。『神兵』の心臓を与えた、ランヴァルディアのようにな」
「!」
「そしてそれ等を従える到達者に向けられる
「なんだと……!?」
「恐怖という
「……
「その通りだ」
「……その『
シルエスカと『青』が語る
真剣な表情を浮かべた二人は互いにマギルスを見て、その発言をした『青』は説明を行った。
「……『
「不死身……!?」
「例え生き残っている人間大陸の実力者が集ったとしても、不死身の
「……ッ」
「じゃあ、アリアお姉さんもあの時の『
「……ただ幾つか、『
「あるの? どんな方法?」
「一つ目は、信仰の消失。『
「……それって、アリアお姉さんを怖がってる人間がほとんど死なないとダメじゃない? いや、死んでもダメじゃない? あの赤い
「その通りだ」
「ダメじゃん! 他のは?」
「『
「!」
「『
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、『
「一人だけいる。フォウル国で魔人を率いる、鬼の巫女姫だ」
「!」
「しかし、あの女もまた誓約に縛られし者。制約によりあの地を離れられぬ。アルトリアを倒す為には、奴をフォウル国の地へ誘い出す必要があるだろう」
「ふーん。じゃあ、そうできないのかな?」
「アルトリアとて、『
「なるほどねぇ。アリアお姉さんも、ちゃんと考えてやってるんだ。……じゃあ、僕達って何もできない?」
「アルトリアを殺せぬ限り、お前達の目的は果たせぬ。……そして奴もそれを承知しているからこそ、お前達の侵入を知りながらも、焦りすらせず意に介しておらぬのだろうな」
「……ッ」
今のアリアの思考を予測する『青』の言葉に、シルエスカは苦悩する表情を浮かべ、マギルスは眉を顰めて頬を膨らませる。
『神』となったアリアにとって、恐怖すべきは同じ存在である『
それを考え行動し、人間大陸で唯一の『
例え『神』となったアリアを発見したとしても、『聖人』であるシルエスカや『魔人』のマギルスでは到達者を殺せない。
例え互角の勝負に持ち込めたとしても、膨大な魔力と生命力を持った相手と持久戦になれば、敗北は必至になる。
『神兵』ランヴァルディアとの戦いでそれを経験している二人は苦悩を浮かべ、またそれを知る『青』もアリアの殺害は不可能だと告げた。
そんな中で、マギルスはある一人の少女を思い出す。
そして自然に笑みが浮かびながら、マギルスは『青』に再び尋ねた。
「――……そうだ! ねぇねぇ、『青』のおじさん!」
「?」
「クロエはどうかな? クロエも、『
「!」
「……いいや、無理であろう」
「えっ、なんで?」
「『黒』の能力は限定的過ぎる。奴の条件下で戦えば、あるいはアルトリアを殺す事も可能であろうが……。……ここは今や、アルトリアの
「そうなの? うーん。じゃあ、僕達がアリアお姉さんを弱らせて、クロエにトドメを刺してもらうのもダメ?」
「そもそも弱らせるという事が不可能だからな。『神』は封じる事も出来ぬ」
「うへぇ。
「そうだ。……いや、そうか……」
「……?」
「どうしたの、『青』のおじさん?」
マギルスと話している最中、『青』は何かを思い付いた後に考え込む。
途端に沈黙し思考するだけになった『青』に、シルエスカもマギルスも疑問符を浮かべた。
そして二人が『青』の思考を訪ねようとした時、状況の変化が訪れる。
「――……!?」
「な、なんだ……?」
「揺れ……!?」
「また、爆弾か!?」
「い、いや。さっきよりデカい……! どんだけの爆弾が爆発したって言うんだよ……!?」
起きた変化は、鉄製の通路内の道を軋ませ悲鳴にも似た音を鳴らす程の揺れ。
それに驚きの声を漏らす兵士達と同じように、『青』やシルエスカ、そしてマギルスもまた揺れに対して警戒を向けた。
その警戒は的中し、鉄製の通路が鳴らす悲鳴が大きくなる。
それが何を意味するか、シルエスカとマギルスは即座に察した。
「こ、これは……まさか……!」
「
「……!!」
「全員、撤退しろ!
「!?」
マギルスが揺れの正体を察知し、シルエスカが兵士達に撤退を急ぎ告げる。
しかし揺れは更に大きくなり、四十名近い兵士達が立つ事すら許す間も無く倒れてしまった。
「ッ!!」
「ウ、ワァアッ!?」
「ク……ッ!!」
密集していた兵士達が次々と倒れ込み、撤退すら出来ない状況にシルエスカは渋い表情を見せる。
そして鉄の通路が更なる軋む悲鳴を上げ、ついに壁や通路、そして天井が割れ砕け始めた。
それを冷静に見ていた『青』は、思考を止めて揺れる通路の中を平然とした様子で歩く。
そして傍に居るマギルスとシルエスカにも声を掛け、『青』は杖を高く掲げた。
「儂の近くに寄れ」
「!」
「儂が
「で、出来るのか……? この人数だぞ!?」
「儂は腐っても『青』。この程度の数、容易に転送できる」
「……お前達、『青』の傍に来い!」
「マギルス。お前も来い」
「『青』のおじさん、頼りになるねぇ!」
『青』の提案をシルエスカは渋々ながら受け入れ、倒れる兵士達に命令を飛ばす。
そしてマギルスは笑いながら近付き、その場の全員が『青』の半径二十メートル以内に近付いた。
軋み崩れる鉄製の通路を見回しながら、這い寄る兵士達は不安の表情を浮かべる。
シルエスカは『青』に警戒を残し、マギルスは転送を楽しみにしながら待っていた。
そして『青』は手に持つ錫杖を上へ掲げ、そんな一行を包み込むように青い光で形成した十層以上が重なる魔法陣を展開する。
周囲に青い魔力の光が灯り、全員の周囲を包み込んだ。
しかし、一人だけ青い光に包まれない者がいる。
それが転送の魔法陣を展開している『青』本人であり、マギルスはそれに気付いて声を出した。
「おじさん!?」
「……お前達は先に行け」
「!」
「『青』! 貴様、やはり罠を――……」
「シルエスカ。そしてマギルス」
「!」
「儂もまた、最後に『青』の務めを果たそう。……お前達は、お前達の役目を果たせ」
「……!!」
そう微笑みながら告げる『青』の姿を最後に、シルエスカとマギルス、そして兵士達が青い光に包み込まれて転送される。
それを見届けた『青』はマギルスと共に来た通路を歩き戻り、崩れ行く通路の奥へと消えた。
マギルスとシルエスカ達は、こうして『青』と別れる。
そして地上へ戻った時には都市中央南部付近の地上に出現した青い魔法陣の上に出現し、
「――……こ、ここは地上か……。……アレは……!?」
「アリアお姉さんだ! ……えっ!?」
「……!!」
「エリクおじさん……!?」
黒い翼の持ち主が誰なのか、二人の視力は確実に捉えて見上げながら察する。
そして『神』となったアリアを目撃し、同時にもう一人の存在も確認した。
黒い翼を羽ばたかせたアリアの傍には、エリクがいる。
しかしその姿は大剣を持つ右手を項垂れさせ、黒く光る巨大な矛を持つアリアに胸を貫かれている
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