精神武装


 嬉々とした表情で余裕を持つマギルスは、合成魔獣人キマイラス達との戦闘あそびを続ける。

 その余裕の裏付けとして合成魔獣人キマイラスの戦い方はクロエの言う『魔人の域』を超える戦い方はしておらず、基本的に肉体を駆使し爪や牙を用いた物理攻撃と、魔力を用いた遠隔攻撃しかなかったからだ。


 クロエという強い聖人と戦い、更に奇異な能力で何度も打ちのめされながらも成長したマギルスにとって、合成魔獣人キマイラスの戦い方は単調と呼べる。

 それを証明するように複数で襲い来る合成魔獣人キマイラスに対して、マギルスは既に十数分以上も息を乱してない。


「――……お返しの脇腹!」


「ギィガァアッ!!」


「そっちも!」


「ブォアアッ!!」


 マギルスは施設内の中空へ跳びながら追い跳んだ合成魔獣人キマイラスに、力を込めた大鎌の刃と柄で叩き飛ばして撃墜する。


 大鎌を始めとした壁や地面の激突でも、強化された合成魔獣人キマイラスの肉体は傷付けられない。

 しかし裏腹に、合成魔獣人キマイラスは大きく疲弊しながら動きも鈍り、荒い息を漏らしながら身体を揺らしていた。


 それは他の合成魔獣人キマイラスも同様であり、マギルスは設備の上に着地しながら笑い告げる。


「――……それだけ魔力を使ってたら、そうなるよね」


「……ガァア……ッ」


「グォオ……ッ」


「魔力だって無限にあるわけじゃないんだよ? 素早く動いたり、攻撃したり、防御したり。全力でそれに魔力を振り分けたら、そうなっちゃうさ」


 マギルスは微笑みながらも呆れたように述べ、合成魔獣人キマイラスの内在魔力が枯渇し始めている事を教える。

 始めこそ赤鬼化したエリク並の魔力を放出し襲い掛かっていた合成魔獣人キマイラス達だったが、限られた魔力を無駄に使い続ければ長く維持できないのだ。

 

 それを告げられた合成魔獣人キマイラスは、動きが鈍った様子ながらも敵意は衰えない。

 その様子でマギルスは大鎌を構え直し、合成魔獣人キマイラスの首を見てトドメを狙った。


 しかし、合成魔獣人キマイラスは予想外の行動に出る。

 示し合わせた様子も無く突如として全員が散り散りに動き、周囲にある合成魔獣人キマイラスが入った魔力薬液エーテル入りの容器を割り始めたのだ。


「えっ!? ……そっか、そう来るんだ!」


 マギルスは始めこそ眉を顰めて困惑したが、すぐに納得した声を漏らす。


 この施設内に並べられている合成魔獣人キマイラスの数は、数千人以上。

 それに対して解放された合成魔獣人キマイラスは、僅か十数体。


 仮に施設全ての合成魔獣人キマイラスが徐々に解放されれば、まだ疲れ知らずの連中が襲って来る。

 しかも最大数は千を超える以上、マギルス一人で魔力を使い果たすまで持つかどうか分からない。

 そうした戦術を自ら思考した合成魔獣人キマイラスが、仲間達を次々と解放していった。


「させないよ!」


 マギルスはその意図を察し、容器を破壊していく合成魔獣人キマイラスに素早く迫り襲う。

 しかし新たに解放された合成魔獣人キマイラスが起き上がると同時に、凄まじい魔力を放出しながらマギルスに対して襲い掛かった。


「ッ!!」


「フォォオオオンッ!!」


 マギルスは大鎌の柄でそれを防いだが、衰えていない新たな合成魔獣人キマイラスの突進によって吹き飛ばされる。

 身を翻しながら壁に着地するマギルスだったが、その間にも次々と新たな合成魔獣人キマイラスが解放されながら襲い掛かって来た。


 次々と現れ襲う合成魔獣人キマイラスに、マギルスから笑みが薄くなる。

 そしてついに、千を超えた合成魔獣人キマイラス達がマギルスに目掛けて別々の方向から襲い掛かった。


「くっ、ぁあッ!!」


「ガォオオオッ!!」


「ピュウウッ!!」


「――……しまっ……!」


 四方から迫る獅子顔と翼を羽ばたかせた鳥顔の合成魔獣人キマイラスが、目にも止まらぬ速さでマギルスを襲う。

 剛腕で振られる爪と鋭く突かれる嘴を物理障壁シールドで防ぎながらもマギルスは吹き飛ばされ、中空に浮かされた。


 その瞬間には幾百の合成魔獣人キマイラスが口や腕に巨大な魔力を溜め込み、放つ準備を整えている。

 それに気付いたマギルスは咄嗟に魔力障壁バリアを張ろうとしたが、四方八方から浴びせられる数百以上の魔力弾ブレッド魔力光線レーザーが放たれた。


 マギルスの視界は様々な色合い魔力に埋め尽くされながら、それが直撃する。

 凄まじい爆発と轟音が生み出された施設内部は地震が起きたかのように揺らされ、光と衝撃に溢れた。


 それから十秒後に爆発を起こした魔力の光が収まり、霧状に四散する。

 それを見上げながら確認した千を超える合成魔獣人キマイラス達は、マギルスの生死を静かに確認した。


「――……『精神武装アストラルウェポン防御形態ガードフォルム』」


「!」


 霧状に四散した魔力の中から、マギルスの声が響く。

 更にその中から青い魔力が輝きを強め、霧を一気に晴らした。

 そして中空に浮かぶモノを見て、合成魔獣人キマイラス達は目を見開く。


 そこに居たのは、左半身を中心に青い鎧甲冑を纏い更に青馬の顔をした大盾を構えた、少年姿のマギルス。

 青い鎧はマギルスが魔人化した際の首無騎士デュラハンと同じ魔力で出来た物だったが、青馬の顔をした大盾はマギルスの左手甲冑に備わりながらも口を動かし、そこから鳴き声を漏らした。


『――……ヒヒィンッ!!』


「えっ、出すのが遅すぎ? だって、お前が出たら遊べないじゃん!」


『ブルッ』


 馬の鳴き声を出す青馬の大盾は、まるで意思疎通できているかのように浮いたままのマギルスに目を向ける。

 マギルスもそれに反応して会話を行い、互いに短くも口論している様子を見せた。


 しかしそれと相反するように、数百以上の合成魔獣人キマイラス達は再び魔力光線レーザーを放つ為に魔力を溜め始める。

 それを感じ取り中空から見下ろすマギルスは、左手で構える青馬の大盾に話し掛けた。


「……しょうがないなぁ、分かったよ。遊びはここまでね」


『ブルルッ』


「――……『精神武装アストラルウェポン攻撃形態アタックフォルム』」


 マギルスは再び呟き、右手で持つ大鎌の柄を左手も動かして掴む。

 その瞬間に青馬の大盾を青い光を放ちながら消え失せ、左半身に備わる青い甲冑も消失すると、大鎌の方に青い魔力の光が集まり始めた。


 青い光が強まり、周囲を照らすように輝く。

 その光が収まった瞬間に新たに姿を現したのは、マギルスの両手から腕を覆う青い籠手と、青馬の意匠が加え施された青い大鎌だった。

 それを振り翳したマギルスは、下に居て魔力光線レーザーを放とうとする合成魔獣人キマイラスを見て呟く。


「――……じゃあね。ばいばい!」


 そう告げて笑いながら、マギルスは大鎌を振る。

 その瞬間、青い大鎌から今までの比ではない巨大な魔力斬撃ブレードが放たれ、千を超える合成魔獣人キマイラス達を飲み込むように全周囲へ浴びせられた。


 それに触れた瞬間、合成魔獣人キマイラス達は頑強な肉体や魔力も意味を成さず、この世から消え失せる。

 そしてその斬撃は施設内の床や壁すら破壊し、マギルスの居る区画を崩壊させた。


「……やっぱりコレ、まだ威力の加減が出来ないや!」


『ヒヒィン』


「僕の未熟だから? お前って、意外と口悪いよね!」


『ブルルッ』


 マギルスは大鎌になった青馬に向けてそう話し、倒壊する施設を眺めながら空中に浮き続ける。

 そしてマギルスが放った攻撃で、合成魔人キメラ製造施設は完全に破壊された。


 これがマギルスの編み出した特殊技法、『精神武装アストラルウェポン』。


 首無騎士デュラハンへ魔人化する際の甲冑を少年姿のまま纏い、契約している精神生命体アストラルの青馬を武装化してその身に纏う。

 そうする事でマギルス自身が行う物理障壁シールド魔力障壁バリアを強固にする大盾で身を守り、更に大鎌に纏わせる事で大出力の強大な魔力斬撃ブレードを放てる。

 それを様々な形態フォルムで使い分ける事で、自身の能力を極端に高める技法をマギルスは三ヶ月の間に編み出した。


 こうしてマギルスの新技は、合成魔獣人キマイラスを退ける。

 そして更なる地下へと、マギルスは移動し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る